番外編: 本人が語る Bad Gear

番外編: 本人が語る Bad Gear

AudioPilz 本人が出た53分のインタビュー(The Engagement Corner 第1回)から、面白かったところを訳して並べる。全訳ではなく抜粋と意訳。

あの番組は何なのか

「自分がやっているのは、電子楽器をからかうことだ。そして同時に、それらを讃えることでもある。ほとんどの機材に宛てた手紙のようなものだ」

「土台にあるのは、電子楽器がきわめて感情的なものだという事実だ。ネット上ではかなりの論争を呼ぶものが多い。俺はその論争を、怪物みたいに食って生きている。

「そこには否定的な感情がものすごく溜まっている。それを可能な限り面白い形で、何か肯定的なものに変えようとしている。『Bad Gear』という番組名で。皮肉なことに。

名前はビールではなくキノコ

AudioPilz の由来は単純で、audio + 家名の Pilz。「豆知識だが、Pilz はドイツ語でキノコを意味する」。ビール(ピルス)ではない。

「名前はかなり考えた。結局いちばん当たり前のところに落ち着いた。自分の名前と繋がっていてほしかったが、同時に『あれは別の誰かだ』と言い訳できる余地も欲しかったから」

15歳から音楽を作り始め、いま40代半ば。「つまり30年だ」。年齢は少し隠しているという。「若い連中に実年齢がバレたら『こいつもう年寄りじゃん、ダサ』ってなるからな」。

なぜ古いミームばかり使うのか

「自分が扱う楽器は本当に古い。40年前のものもあるし、大半は少なくとも10年以上前のものだ。そしてその楽器を取り巻く社会文化的な環境ごと相手にしているのだから、ヴィンテージのミームが入っていていいと思っている」

たまに今流行っているミームも混ぜるが、「誰もそれをミームだと認識してくれない」。

ミームを大量に浴びせる作りには、明確な狙いがある。「情報の層があって、その上に実際の内容の層がある。そして、俺が何を言っているか分からなくても、内容に興味がなくても、ある種のサイケデリックな体験ができる。ミームによる襲撃だ。音を消して見れば、ただの弾幕でしかない」

「自分は演劇の出身で、現代的な演出家と大勢仕事をした。彼らの多くはこういうやり方をする。意味と内容と視覚的印象で飽和しきるまで放り込み続けて、体験を別の次元に飛ばす。

アナログの温かみは信じていない

「信じていない。というか気にしていない。俺はデジタルの冷たさの方が好きだ。

ただし否定はしない。「唯一無二の音を持つアナログ機は確かにある。古いヴィンテージや高級アナログを好む人の好みに口を出すつもりはない」

その上で本題を言う。「主な違いは音ではない。どう向き合い、どう操作し、どう自分の作り方に組み込むかだ。ちゃんとチューニングが合わない古いオシレーターがあれば、それに付き合わなければならない。そしてそれが、音楽の作り方そのものを変える。

「ただ全ジャンルでそれが要るわけではない。ジャムのたびに複数のオシレーターを合わせるのは本気で面倒だし、ドリフトも時々なら楽しいが、毎日は御免だ」

最悪の機材は Akai MPX8

「これまで使う不幸に見舞われた中で最悪。単純に、動かないからだ。

「メモリーカードを挿してボタンを押せばサンプルが鳴る、それだけの機材があったら最高だ。単純で、安くて、頑丈で。だがこれは動かない。」(聞き手「これ、広告の真逆だな」)

「日本のどこかの倉庫2つぶん、まだ在庫が残ってるんじゃないか」と冗談を飛ばしつつ、「これはゴミだ。似たようなものはないかと定期的に聞かれるが、無い」。

買うなら「地獄から来た」やつ

何を買うべきかと聞かれて(「Behringer とは言うなよ」と釘を刺されながら)、こう答える。

「音の出る機材を何も持っていないなら、本当に唯一無二で、ソフトで真似するのが本当に難しいことをやるものを選ぶべきだ」

真っ先に挙げたのが DSI Evolver。「あれは地獄から来た。ほとんど機能不全だ。デジタルとアナログの奇妙な混合物で、まともに使うのがほぼ不可能で、それでも電源を入れるたびに魔法みたいな音がする。

「DAW の中には洗練された道具が全部ある。なぜハードでまで洗練されたものを買う必要がある?

次に挙げたのが古い Electribe。「EM-1 とか ER-1 とか。安くて最高に楽しい。音が本当に独特で、グルーヴがある。シーケンサーのタイミングがずっと狂っているからだ。スウィングが唯一無二だ」

Behringer の話(と、訴訟の話)

「Uli Behringer についての自分の見方は、いくつもの層で動いている」と前置きしてから:

「まず彼は真にビジョナリーな実業家だ。Elon Musk のような偉人たちと並ぶ。ニッチではあるが、その道で本当に優れているとされる人たちと同じ位置にいる」

「そして稀有なことに、優れた実業家であると同時に技術も分かっている。自分でシンセを作れる。実際に作ったのだから、できるのは間違いない」

「彼は邪悪だという評判の会社を持っている。まあ、所詮は会社だからな」

そして本音。「Behringer を扱うのは、正直あまり楽しくない。いつも、何をどう言うか非常に慎重にならなければという感覚があった」

聞き手「訴えられるのが怖い?」——「いや。ただ、実際に訴えられた人はいる。あり得ない話じゃない」

極めつけが、Barbie 風にした TD-3 の回。「あの動画はクリスマスと元日の間に出した。弁護士が休暇に入っていると踏んだからだ。なにしろ Uli と自分がロマンチックな関係にあるとほぼ示唆する内容だったので」

オチが効いている。「休み明けの1月第1週、Behringer 側がその動画へのリンクを投稿した。『好きにしてくれ』と言っていた自分としては、そこで『ああ、これは広告になってしまった』と。もう Behringer の動画は二度と作らない。

「Uli の好きなところトップ5は?」と聞かれて——「それは『神のどこが好きか』と聞くようなものだ。いいことしか言うことがない。素晴らしい男だ。素晴らしい商売人だ。そして世界最高の弁護士たちを抱えている。」(笑)

「俺は機材を憎んでいない」

この回で一番大事な発言。聞き手が「もっと辛辣にできるはずだ、手加減してないか」と突っ込んだのに対して:

「違う。ここは誤解されているかもしれないが、俺はどの機材も憎んでいない。音楽機材を憎むということが、自分にはほとんど不可能だ。意味が分からない。感情的に強く結びついている機材はあるが、それもたいてい肯定的な方向でだ」

俺はただ、他人の憎悪を反射しているだけだ。それだけだ。そして、完全には無理でも、公平であろうとすることが本質的に重要だと思っている。

Teenage Engineering と Serum

TE については「非常に良い製品だ。ただ多くが割高に見える。できることと値段を比べると、実質ブランドに払っていることになる」。

ただし擁護もする。「北欧の文化から来ているなら、ああいう製品を作るのは論理的な帰結だと思う。あちらは物価水準も高いので、こちらには大金に見えても、現地の人にはそこまでの額ではないかもしれない

秀逸だったのが Serum 評。「Serum は2010年代の DX7 だ。DX7 は80年代を支配して、あらゆるレコードに入っていて、みんなその音に惹かれ、同時にその音にうんざりしてもいた。技術も音楽性も全く違うが、社会文化的にはまったく同じ役割を果たしている

物語がある瞬間から、Bad Gear にとって面白い題材になる。

Rad Gear(良い機材版)はやらない

「Rad Gear をやろうと思ったことはある。ロゴまで作ってある。

「ただ数年やってみて分かったのは、こういう包括的なブランドがあると、まず認知される点では良いが、実際にアルゴリズムを動かして、より広い層に届かせるという点ではむしろ足枷になるということだ」

「だから、もしその手の回をやるとしても、Rad Gear とは呼ばない。ただ動画を出すだけにする」

編集は自分でやる。というか、勝手に仕上がる

「編集は、Bad Gear の表現全体の中であまりに大きな役割を占めてしまったので、人に渡せない。同じ印象を出すには、自分のやり方を一から教えるしかない」

ただし作業自体は重くない。「作り方を確立した結果、今ではエピソードがほぼ自分で自分を編集している。必要な素材が全部揃った時点で、編集はごく小さな技術的作業になる。顔を右に、次は中央に、今度は大きく——それを差し込むだけだ」

スポンサーを付けない理由

「メーカーの中にも Bad Gear の意図を分かっている人はいる。自分が敵ではないこと、そして向こうが完全にしくじらない限り売上を落としはしないことを理解している人が。ただ、スーツを着ていて何の興味もない人間にこの概念を説明するのは、なかなか難しい」

「金は喜んで受け取る。誰だってそうだ。だが Bad Gear の中に1分の広告読み上げを入れるのは、成立しない。ああいうのは原稿が用意されていて『これを言え』と渡される。誰も信じないだろう。

文化の違いも挙げる。「自分がヨーロッパ人だからかもしれない。こちらは米国ほど広告に苛まれていない。オーストリアのテレビでは、今でも映画を1本まるごと広告なしで見られる。

「初めて渡米したとき、アリゾナのモーテルで『ターミネーター2』をやっていたんだが、広告のせいで上映に4時間かかった。

劇場に比べればネットは休暇

ネットの誹謗中傷は堪えないのかと聞かれて。

「長いこと劇場で働いていた。ドイツ語圏の演出家というのは、いくつかの紋切り型がそのまま当てはまる評判を持っている。荒っぽく、有害な職場だ。その後に来るものは、インターネットでさえ休暇みたいなものだ。

「気にしないタイプなら簡単だ。ただ自分はかなり気にする方で、批判的なコメントは非常に真剣に受け止める。ただ、面の皮が厚い野郎になっただけだ。

Pro Tools が嫌い

「Pro Tools は個人的に嫌いすぎて、深入りしたくない」。呼び方は「No Tools」あるいは「Pro Stools(=便)」。

「Pro Tools の試験を2つ受からされて、その一秒一秒が嫌いだった。

分析は的確だ。「90年代、あの水準の professional な作業ができるものが他に無かったので、Pro Tools ネイティブの人が大勢いる。マウスとキーボードの組み合わせが完全に第二の本能になっていて、あまりに流れが染み付いているから抜け出せない。Avid になってから落ちる一方なのに辞められないのは、他の DAW で同じ速度の作業を確立できないからだ。

ちなみに Reaper は使う。「ナレーションは全部 Reaper だ。20年前、Windows XP のマシンで160トラック回した。

Superbooth は「オタクによる、オタクのためのもの」

NAMM と比べてどうか、という話から。

「電子楽器に関しては Superbooth 一択だ。あれは信じられないほど良い。会場が——信じないだろうが——街のど真ん中の森だ。湖があって、オリンピックサイズのプールがあって、敷地内に宇宙飛行士の学校があって、東ドイツ時代の共産圏の建物がある。当時の金を全部この一つの計画に注ぎ込んだやつだ。敷地内に小さな蒸気機関車まで走っている。

そして核心。「Superbooth を運営しているのは Schneider で、ドイツのモジュラー系機材の主要な流通・小売だ。つまり本人たちが本物のオタクだ。企業のクソではない。オタクによる、オタクのためのものだ。もちろん彼らはそれで儲けている。誰も文句は言わない」

これで食えているのか

「食えている。半年で黒字になった。本気でやったからだ」

「告白すると、数年前にビジネススクールに行っている」

経緯が面白い。「2019年にちゃんとした仕事に就いていたが、退屈で死にそうだったので辞めた。その時すでに Bad Gear の構想は頭にあったが、今ほど本気ではなかった」

「オーストリアでは、失業状態から起業すると最初の数ヶ月の生活費を国が出してくれる制度がある。そのために事業計画をでっち上げた。そうしたら、それが勝手に現実になった。完全に絵空事だったのに、収入の予測まで、ほぼそのまま当たった。

「最初のロックダウンの3週間前に始めた。他にやることが何も無くなった」

これで金持ちにはなっていない。ただ請求書は払えている。

出典

The Engagement Corner 第1回「THE BAD GEAR INTERVIEW」より。動画はこちら(53分)。

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