この回の結論
Roland がゴーストを追わないのは周知の事実で、あの象徴的ブランドと自分の関係は「複雑」としか言いようがない。それでも AudioPilz ブランドの TB-3 再発が出るなら、全力でステマして売りまくる用意がある。ただしカラースキームについては一度ちゃんと話し合う必要がある。
何を喋っているか
- 今回は「bad gear だったはずの機材が自分のお気に入りシンセになった話」。なぜこの醜いデザイン失敗作を常用しているのか、なぜ Roland TB-3 は過小評価され切っているのか、そして完全初心者もベテランのプロも、この「UI の悪夢+TB-303 の遺産に乗っかっただけのバカ向けプリセット怪物」に見えるものから何を得られるのか。これは名誉回復の物語だ。
- TB-3 は約10年前に発売、悪名高い初代 AIRA シリーズの一員。そこそこ信じられる ACB エミュレーション、プラスチッキーな外観、ゴス御用達のカラースキームで知られる。このデジタル版アシッドマシンは Bad Gear のごく初期の回で扱った。当時はシンセをレビューし始めて数か月のペーペーだった。
- だからそろそろ、この意外と有能なシンセに正当な扱いをして、もう一段深く掘る時期だ。表面上できるのはプリセット選択だけ。プリセットは classic 303 サウンド / ベース / リード / 特殊効果にグループ分けされている。
- あとは申し訳程度のフィルターコントロールと、アクセント量とよく分からん FX パラメーター用のノブが1個ずつ。それ以上をいじるには、あのディスコみたいな見た目のタッチパッドを使って envelope mod モードに入る必要がある。
- envelope 系が主役ではあるが、他のパラメーターも割り当てられる (詳細は後述)。タッチパッドを押し込むと3つ目のパラメーターにアクセスできる — ただし on/off だけ、しかもこの個体ではまともに動かない。MIDI で外から弾くこともできるが、例のベースラインを作る武器は内蔵の32ステップシーケンサーだ。
- パターン長を決め、編集するステップを選び、オクターブを選び、音符かレストを入れ、スライドとアクセントを足す。全部シーケンサーを走らせたままできる。リアルタイム録音モードもあり、オリジナルの 303 か Behringer TD-3 のような真面目なクローンに慣れていれば、パターン打ち込みは息をするように簡単。
- パターンはその場でトランスポーズ可能。8バンク×8パターンあるので長めのライブセットでも足りる。おまけにギミックな XY プレイモードと、さらにギミックな scatter エフェクト付き。……初回の Bad Gear 回はここまでだった。この完全にバカでも使えるワークフローこそ、自分がこの楽器に惚れた理由だ。
- 自分は大量の曲を高速で作る必要がある。TB-3 をジャムに放り込めば、必ず動くし、ミックスの中でちゃんと鳴るし、凝った音作りで時間を溶かさずに済む。だがプリセットを一通り眺めると、303 タイプのシンセから想像するレベルを遥かに超えた何かがボンネットの下で動いているのが分かる。
- Roland は TB-3 用のソフトウェアエディタを一度もリリースしなかった。つまりこのシンセの本当の力は、サードパーティのツール抜きでは解放できない。
- 幸いなことに、TB-3 を見捨てなかった有志たちがいて、無料エディタは深くて多彩な VA エンジンにプロレベルでアクセスできるところまで成熟した。使っているのは Dope Robot の Panel for Controller (スタンドアロンでも DAW プラグインでも動く)。従来の 303 ユーザーが「妙に歪んだノコギリ波」と「矩形波」の二択を強いられるのに対し、TB-3 にはサイン波もある。
- しかもそのサイン波は、低音を食い散らかすフィルターの性質にも影響されないらしい。さらに2色のノイズ。これら基本の音素材は同時に使える。アンプ用とフィルター用に本格的な ADSR エンベロープが2基、シンク可能な LFO では波形をミックスでき、S&H ジェネレーターも入っている。
- S&H でユーロラック級のモジュレーションパターンが作れる。さらにオシレーター部にはまだ隠し球があり、波形ごとに独立してピッチを付けられるのでデチューンや簡単なコードも可能。Roland はリングモジュレーターまで載せている。
- 加えて凝ったクロスモジュレーション部も。エフェクトは Roland の得意分野で、ここは明らかに一段気合が入っている。専用のディストーション段には定番が一通り、あの Metal Zone まで入っている。さらに独立した FX ユニットを最大2基追加できる。
- アルゴリズムは実用的なディレイから容赦ないビットクラッシュまで。アクセント・カットオフ・レゾナンスのノブは頑固に役割固定だが、effect ノブとタッチパッドは自由にアサインでき、ライブ用のパッチ作りに効く。ステップシーケンサーがグラフィカルに見えて、音色ライブラリ機能まであるのは最高。
- ただしこの過剰装備の音作りセットも、本体の癖にはやはり縛られる。エディタと本体は手動で同期を取る必要があり、ユーザーパッチスロットは15個しかなくプログラムチェンジに反応しない。カットオフとレゾナンスは保存・呼び出しができず、303 のレガート挙動を切る方法は結局見つからなかった。5ピン MIDI があるのはありがたい。
- Roland は TB-3 をかなり前に生産終了したが、中古市場ではほとんど笑えるくらい安く手に入る。自分はここに2台持っていて、お察しの通り常時ヘビーに使っている。見た目は安っぽいがビルドクオリティは驚くほど良く、この先何年も働いてくれると踏んでいる。Roland がゴーストを追わないのは周知の事実で、あの象徴的ブランドと自分の関係は「複雑」としか言いようがない。
- それでも AudioPilz ブランドの TB-3 再発が出るなら、全力でステマして売りさばく用意がある。ただしカラースキームについては一度ちゃんと話し合おう。見てくれてありがとう、また次回。以降はいつもの締め (高評価・登録・Patreon) と、「Bad Gear 以外にどんな企画をやってほしいか」のコメント募集。
- 月例 Wack of the Month のコーナー。TB-3 を讃えたこの回の後では、選ばれる Wack は一つしかない — Roland 自身の VT-3 Voice Transformer。続いて tier 4 パトロンの読み上げ。
- パトロン名の読み上げが続く (Ryan Gregory ほか)。
- 「この小さな箱が未来のクラシックになるかどうかは分からない」と一言添えつつ、残りのパトロン名を読み上げて終了。支援に感謝、また来月。