Roland JX-03

Bad Gear - Roland JX03

この回の結論

原機の JX-3P と同じで、ブティック版も多くのシンセ好きのレーダーの下をくぐって見過ごされている。エミュレーションの忠実度を語れる立場ではないが、80年代初頭アナログの匂いと、はっきりした独自の音は確かに出ている。ブティック筐体はこの機種には合っているが、音のキャラクターが Juno 一族ほど万人受けするかは怪しい。ただし混み合ったミックスの中でよく通るので、もっとデカい音のシンセのスパーリング相手として薦められる。

何を喋っているか

  1. 世界で最も嫌われている音響機材の番組へようこそ。今回のお題はブティック機という奇妙な一族 — ガリバー旅行記みたいに縮んだ 808、ステロイドを打ったアナログ Moog もどき、顕微鏡サイズの D50 レプリカ、そして Roland が存在ごと Photoshop で消したがっている黒い Bluetooth ビットクラッシュの化け物まで。
  2. 今日は JX-03。2016年のオリジナル・ブティック3機種のひとつで、JX-3P を縮小したデジタル版。JX-3P は「80年代 Juno 一族の中の、あまり欲しがられないオタクな親戚」で、伝説的ないとこ達は人前で一緒にいるところを見られたくなかった。「Roland、お前は本当に客の欲しいものを分かってるな」。
  3. パッと見では JX-03 は原機より条件を満たしている。あの安っぽいプリセット群も全部入り。追加機能もあるがそれは後述。まずコンセプトを理解するため原機 JX-3P の歴史から。
  4. JX-3P は1983年、DX7 とほぼ同時期の発売。当時 Roland は GR-700 ギターシンセを開発中で、これは斧を振り回す友人達の事情に配慮してほぼプリセット音頼りだった。開発用に作ったプログラマーに、途中で「鍵盤をくっつけて Juno より安い機種として売ろう」という発想が生えてきた。
  5. ミニマルな UI を埋め合わせる洗練版コントローラー PG-200 は別売りだった。対して JX-03 は最初から PG-200 のノブ天国が付いている、これは有難い。ただし他のポリ系ブティック同様、ボイス数は4に削減 — 分厚いパッド好きには致命傷になり得る。
  6. 顔面を手で覆いたくなるアップグレードといえば、ユーザーパッチが32→16に半減。ライブ楽器としての使い勝手を殺す。音源部はシンプルに2オシレーター、波形とノイズのスペクトルは原機より選択肢が広い。
  7. 音域も拡張。3P のクロスモジュレーション sync と metal にはそれぞれバリエーションが1つずつ追加され、リングモジュレーターも足された。
  8. この意外と芸達者なオシレーター部の出力が Juno 風フィルターとハイパスに送り込まれる。モジュレーション周りは基本的だが効く。LFO もエンベロープもフィルターとピッチにルーティングできる。
  9. クロスモジュレーションにも回せるのでかなり過激な音作りが可能。追加された LFO 波形、Juno 的なエンベロープ反転、adsr を解放するオルガン風 VCA エンベロープも good。そこそこ立派なコーラス効果のノイズ・エミュレーションはオフにできる
  10. JP-08 同様に隠しコーラスもある。ディレイの調整はちょっと面倒。原機 3P は128ステップのポリフォニック・シーケンサーを誇っていて、Roland は当然それをそのまま載せた — というのは冗談で、JX-03 のシーケンサーはモノ、最大16ステップ
  11. とはいえスイング、ステップ順の変更、タイ、ゲートタイム調整はできる。地味な機能の大半はモータルコンバットのフィニッシュムーブ並みのボタン同時押しでしか呼び出せない。マニュアルは役に立たないが非公式ユーザーガイドがあり、そこに未記載のレイヤーモードなどが載っている。
  12. ポルタメントは原機にも無かった。無駄にデカいピッチ/モッド・ストリップを削ってでもノブを大きくしてほしかった。そしてお馴染み、ブティック仕様のクセに毎回付き合わされるグラウンドホッグ・デー。JX-03 は名機ブティック群の中の負け犬で、ポリ系の兄弟の中では安い部類。
  13. JX-03 は Roland が自社のあまりアイコンではない80年代初頭アナログをデジタル化した機種。原機を超えている可能性はあるのか。実は今日のイントロ曲でもう鳴っていて、驚いたことに自分の個人的トップ5に入った。まずは内蔵シーケンサーの1小節パターンから軽く始める。
  14. 面白い。Juno サウンドのミッドレンジ寄りバージョンという感じ。フィルターは滑らかで、オシレーター部のバリエーションの多さも good。ノートスティールを避けるためパッドのコード進行を遅くした — 理想的とは到底言えない。もっと複雑なポリフォニック・パターンで追い込みたい。
  15. 暗い音が好きな人もいるだろうが、JX はプラッキーな音をうまく捌くし、コントロールの反応は超良い。スイートスポットはかなり多いのに、2つのジャムの結果には100%満足していない。もっと掘るため、暗く邪悪なヨーロッパ初期エレクトロニカのパラレルワールドの DAW パートへ。
  16. Verdict。原機の JX-3P と同じく、ブティック版も多くのシンセ好きのレーダーの下をくぐっている。エミュレーションの忠実度を語れる専門家ではないが、80年代初頭アナログの雰囲気と、はっきりした独自の音は出ている。
  17. ブティック形態はこの機種には理にかなっているが、音のキャラが Juno 一族ほど普遍的に愛されるかは分からない。ただ混み合ったミックスの中でよく機能するので、もっとデカい音のシンセのスパーリング相手として薦めたい
  18. ブティックは第一世代から随分進歩した。80年代カルトから90年代シンセ・ポストモダニズムへと緩やかに移行しつつある今、Roland はいっそゼロ年代に全振りした新型を出してもいい。以上、また次回。よかったら like・subscribe・patron、次に見たい機材はコメントで。