この回の結論
SP-303 が象徴的な機材なのには理由がある。無数の影響力あるミュージシャンと結びついた歴史、エミュレートしにくい音色的な特性、そして「ビートメイキングの熟練度」と分かちがたいワークフロー。しかし同時に、欠点と制約だらけの非常に古めかしい楽器でもある。自分のような Lo-Fi の境地まで何年もかかるカジュアルなサンプル弄り屋には、同じ題材のモダンな解釈のほうが遥かにストレスが少ない。今もこの小さなサンプラーを実際の音楽制作でちゃんと使っている人は心から尊敬する。ただ正直に言えば、大半の SP-303 は2000年代初頭ヒップホップのコスプレセットの一部になっている。
何を喋っているか
- 「世界で最も嫌われているオーディオ機材の番組」Bad Gear へようこそ。自分みたいな老人は雲に向かって「音楽制作は簡単になりすぎた」と叫び続けている。
- MPC は箱に入った DAW になり、ビート作りが下手でも Splice が面倒を見てくれ、AI は自分より良いトラックを作れる。今日扱う BOSS SP-303 は、そういう現代の小細工の完全な対極にある。2001年製のこの象徴的なドラムサンプラーは、OG な Lo-Fi サウンドと、モンゴルのホーミー歌手並みのポリフォニーと、Doom の難易度を Ultra Nightmare にセットしたようなワークフローを持っている。
- 良い点。SP-303 を買っても Dilla にはなれない — Stratocaster を買っても Hendrix みたいには弾けないのと同じ。Roland / BOSS の楽器史上でも屈指に趣味の良いカラースキーム。サンプル発音用のボタンはベロシティ非対応。
- クラシックな FX でのパターン・パンチイン、そして外部オーディオ用のエフェクトプロセッサーとして使えること。多機能ノブは、あの時代の BOSS 製品にしては驚くほどグラついていない。
- 悪い点。Lo-Fi ヒップホップのエクスカリバーを求めてやってきた SP-404 の信者たちは、オリジナルの SP-303 がどれだけ原始的か知って落胆するかもしれない。ポリフォニーはステレオ4ボイス止まり、クロマチックモード無し、サンプル編集は初歩的、音は独自のデータ圧縮フォーマットで保存される。内蔵メモリはたった1MB。対応するのは今や希少とは言えない 3.3V の SmartMedia カードで、最大64MB。
- 44.1kHz ステレオで合計15分以上のサンプリングタイム。サンプルレートを 22kHz や 11kHz に落とせばもっと長く録れる。ただしメモリーカードからのサンプル読み込みは気が狂うほど遅い。サンプル削除みたいな単純な操作にも永遠にかかる。バンクは4つ (内蔵メモリ用に2つ、SmartMedia 用に2つ) で、それぞれ8サンプルまで。
- 再生モードはワンショット、ゲート、ループ。前身の SP-202 と違い、303 には基本的なシーケンサーが載っている。32パターン、最大99小節のヨレた良さ。ただし録音も編集もリアルタイムのみで、ステップモードは無く、あるのはミニマルなクオンタイズオプションだけ。
- 伝説的な SP-303 のワークフローと言えば、リサンプリングが必須。貧弱なポリフォニーを考えると、複雑なアレンジを積み上げる唯一の方法でもある。パターンをリサンプリングする方法は見つけられなかった。そして象徴的な Vinyl Simulator を擁する FX セクション。
- ピッチシフトと多用途なマルチ FX。マルチ FX は謎に包まれているうえに同時に1つしか使えず、選んだサンプル群かマスター出力か外部ソースのどれかにしかかけられない。Time Modify 機能は「慣れれば分かる味」の類。接続端子は DJ 環境に最適化されている。前身機にあったバッテリー駆動と内蔵マイクが無いのが物足りない。
- MIDI 実装は当時の後付けだったように思える。「MF DOOM / Dilla / Flying Lotus / Madlib / Alchemist に十分だったなら俺にも十分だ」と思う人は下にコメントを。SP-303 は最新の兄弟機と同じくらいの値段で見つかる。またコレクションから機材を貸してくれた Aif に感謝。
- SP-303 は近年の音楽史に深い影響を与えた。しかし今の時代にまだ価値があるのか、それともよりモダンな兄弟機や単なる iPad アプリに追い越されてしまったのか。今日のイントロ曲で既にこの機械の Lo-Fi な仕事ぶりは聴いてもらっている — 旨い。303 で見つけたランダムなサンプルでジャムが成立するか試し、外部シンセにもエフェクトをかけてみる。
- ジャム。「今まで演奏した中で一番インスパイアされたジャムとは言えない」が、クラシックな材料は揃っている — ヴァイナルのクランチ、シーケンサーのヨレたタイミング。
- そしてミニマルで容赦のないアプローチ。MIDI 実装とポリフォニーの少なさは本当に骨が折れる。リアルタイム操作のために外部シーケンサーを足し、サンプルレートをさらに下げてみる。
- 良い。入力を強めに突っ込んでも、低いレート設定で結果は音楽的なままだ。パッドやその他の音程感のある音を録った時のサンプリング・アーティファクトが気に入っている。
- こういう音の個性は大好きだが、SP-303 の黒帯になるのは諦めた。サンプラー特有のトーンと DAW の利便性を組み合わせて、サンプルレート殺しとビットクラッシュとベースの暴力に、ヴァイナルのひとひねりを加える。
- Verdict。SP-303 が象徴的な機材なのには理由がある。無数の影響力あるミュージシャンと繋がった豊かな歴史、エミュレートの難しい音色的特性、そして一定のビートメイキング熟練度と結びついたワークフロー。
- しかし欠点と制約だらけの非常に古めかしい楽器でもあり、Lo-Fi の境地まで何年もかかる自分のようなカジュアルなサンプル弄り屋には、同じ題材のモダンな解釈のほうが遥かに使っていてイライラしない。この小さなサンプラーを今も実際の音楽制作でちゃんと使っている人は深く尊敬する。だが正直に言おう、大半の SP-303 は2000年代初頭ヒップホップのコスプレキットの一部になっている。
- エンディング。高評価・登録・パトロン・コメント (次に見たい機材) のお願いと、下のリンクの利用でチャンネルを支援してほしいという定型。あなたの bad gear ゲストが何を買えと命じてこようが関係なく。