この回の結論
こういうプロジェクトには気持ちが引き裂かれる。伝説的な音が広く手に入るのは良いし、古いゲーム機の ROM と同じで「未来の世代のために保存する」という理屈も立つ。Access Virus は全機種ディスコン済みでメーカーの関心も完全に別製品に移っているから擁護しやすい (公式コメントを求めて連絡したが、まだ返事はない)。一方 Waldorf は今も現役の強豪で、つい最近自社の名機のプラグイン版を出したばかりだ。シンセ好きがこのエンジンに触れられて、元メーカーの経済的な損は抑えられて、エミュを作っている人たちがその分野の革新を進められる — 全員が満足する着地点が見つかればいいのだが、単なるミーム動画にそこまで求めるのは、さすがに欲張りすぎかもしれない。
何を喋っているか
- 今回は Access Virus の全ラインや Waldorf Micro Q といった名機シンセに、いかに簡単に手が届くようになったかという話。半端な物真似ではなく、ほぼ100%忠実な再現が、DAW の中で無料で走る。その主張が本当か検証し、比較的最近の実機と比べ、そしてこれがそもそも違法なのかどうかを探る。
- 90年代キッズなら、予算的に手が出なかった業界標準 VA シンセの欲しいものリストがあったはず。Nord Lead、Modulus、Waldorf Q に Microwave、Virus 全機種、KORG MS2000、Novation Nova。ところがこれら「まるで違う楽器」たちは、実はコードも物理 UI 設計も同じマイクロプロセッサ技術の上に乗っている。
- その正体が Motorola DSP 56300 シリーズ。この DSP のコンピュータ・エミュレーション自体は前からあったが、プロの制作環境で普通に使えるレベルの成熟度に達したのはごく最近。情報とすぐ使えるアプリが一番揃っているのは dsp56300.wordpress.com で、主要プラットフォーム・主要プラグイン規格ぶんが揃っている。
- レトロゲーム機のエミュとよく似ていて、必要なものは2つ。1つは100%合法なエミュレーター本体 — DSP を置き換えるだけでなく、各シンセ専用に作り込まれた UI まで付いてくる。そしてもう1つが、技術的にも法的にもややこしくなるところ — 実機のオリジナル・ファームウェア、当然ながら著作物である。
- ROM の一部はメーカー公式サイトで普通に公開されている。この美しい Virus TI の場合は、より大きなソフトウェアのダウンロードに同梱されていて、(a) 同社製品を1つ登録すること、(b) それを解凍してくれるアプリを見つけること、が要る。ファームウェアの探し方をこれ以上詳しく話すのは法的に得策ではないが、さっき言った90年代キッズ諸君なら、まあ方法は見つけるだろう。
- 「エミュのプラグイン自体のインストールは超簡単、不便とすら言えない」。ただし Apple ユーザーはターミナルでちょっとした低レベルのハックが要る (手順はちゃんと文書化されている)。もうお察しのとおり、プラグインだけでは一切音は出ない。.bin か .mid のシンセ・ファームウェアをプラグインと同じフォルダに置く必要があり、その場所は OS とプラグイン規格によって変わる。
- プラグインフォルダを再スキャンし、初回起動時に例のお約束の利用規約に同意し、必要ならプリセットフォルダを指定すれば、それで準備完了。以降、実際の音出しデモ。
- 今のはほんの一部の音。多くのミュージシャンやプロデューサーが Virus をタダで手に入れているわけだが、特に TI に関しては、エンジンの汎用性と音質は現代のソフトシンセの多くと少なくとも同等。ここからハードの実機と手早く比較する。
- DAW 環境での挙動を見て、知っておくべき癖や制約があるかを探る。ソフトとハードの Virus をできるだけ正確に比べるため、TI の S/PDIF デジタル接続を使用。D/A 変換という変数を式から追い出せるうえ、クロックソースもハードシンセ側に取った。
- 予想どおり、音は位相まで同一にはならない — おそらくフリーランの VCO と LFO のせい。とはいえブラインドテストで聴き分けろと言われたら、かなり苦しい。
- ただし他の 56300 系シンセでは、コンバーターの技術と出力段のアナログ側がもっと大きく効いてくる点には注意。なお Access は TI の設計時にオーバークロックを使っていて、エミュ側でもそれを有効にできる。さらに面白いことに、実機では出せないサンプルレートで走らせられる。
- 実機のポリフォニーはダイナミックで、ユニゾン設定や FX の構成しだいで最大100ボイス超。だから単純な性能比較は難しい。慎ましい Mac mini M1 で、12ボイスのクラシックな Virus パッドを5インスタンス、合計60ボイスまでは鳴らせた。
- それ以上足すと問題が出た。CPU 消費は MIDI 再生中はむしろ控えめなのに、プラグインがアイドル状態のときに巨大なスパイクが出る傾向がある。自分の環境、特に Windows や Linux でどうだったかはコメントで教えてほしい、とのこと。
- ここから結論。この手のプロジェクトには気持ちが引き裂かれる。実機そのものを簡単に再現できるのは、伝説の音が広く開放されるという意味でも、古いゲーム機 ROM の議論と同じく未来の世代のために保存するという意味でも良い。Access Virus は全機種ディスコンでメーカーの関心も別製品に移っているので擁護しやすく、公式見解を求めて連絡したが返事はまだ来ていない。
- 一方 Waldorf のようなメーカーは今もシンセ界の強豪で、つい最近も自社の名機のプラグイン版を出したばかり。シンセ好きがこの素晴らしいエンジンに触れられて、元メーカーの経済的ダメージは抑えられて、エミュ開発者たちがその分野の革新を進められる — そんな全員が満足する解が見つかればいい。
- 「まあ、ただのミーム動画にそこまで求めるのは欲張りすぎかもしれないが」で締め。いつもの高評価・チャンネル登録・Patreon・概要欄リンクの案内 —「あなたのゲスト様が何を買えと命じてこようが関係なくな」。そしてパトロン感謝と月例の投票シャウトアウトへ。
- シャウトアウトのネタ読み上げ。字幕が崩れていて聞き取り不明瞭だが、「〜は最高の mod かもしれないが、俺のお気に入りの Vocoder ではない」系のボケ。ありがたいことに字幕あり、tier 4。
- 「アナログで700ドルなんだから、そりゃ良いに決まってる」 tier 6。改めてチャンネル支援への感謝、また来月。