この回の結論
Minitaur は素晴らしいのと同じくらいフラストレーションが溜まる。ほとんどのセットアップに収まる完璧なフォームファクタ、触りたくなるフロントパネル、そしてクラシックな Moog の音の見慣れつつも独自な解釈。だが、比較的基本的なパラメータにまでエディタ依存なのは自分には決定的にアウト。MIDI コントローラーとシフト機能で回避はできるものの、シンセの中で実際に何が起きているのかの情報が無いことが、狭い音域以上に使い道を狭めている。「Minitaur はベースシンセとして売られてるんだから制限は当然」と擁護する人は、Bass Station や Volca Bass、あるいはタトゥーパーラーで寝落ちした minilogueに何ができるか知ったら驚くかもしれない。
何を喋っているか
- Bad Gear、世界一嫌われたオーディオ機材の番組。舞台は「Volca 以前、クローン戦争以前、そして Moog が音楽という標本箱に留められたただの蝶になる以前」の時代。
- シンセブランドの大御所 Moog が、その後の音楽機材業界の設計図とも言える楽器を出した。今日の題材は Minitaur。2012年のアナログモノシンセで、70年代プログレで鳴らした Taurus ベースフットペダルを家庭向けに飼い慣らしたモダン版。ピッチレンジは Bob Dylan のハーモニカソロ並みに狭いうえに、CPU を食い散らかすプラグインよろしくパソコンの画面に釘付けにされる。
- なぜこんなことをした。一見 Minitaur は「実は俺、秘密のフットペダルシンセなんだ」「こうすればお前には一生分からない」系のチェックボックスを全部埋めている。キーボードもペダルも無い上品な筐体に、フロントパネルのパラメータが絞られたシンプルなアナログエンジンが入っている。
- 残りの音作りの薬味は MIDI か専用アプリ経由でしか触れない。Taurus の公式4代目にあたるこの小さい牡牛は、オリジナルの地面を揺らすオシレーターを色濃く受け継いでいる。ダブルのソーとスクエア。
- 2基はミックス・デチューン・ハードシンク・ノートシンクが可能で、ノートシンクは Xanadu 風の位相のうねりを潰すためのもの。ただし後者2つは暗号じみたボタンとノブの組み合わせか、外の世界の助けを借りないと使えない。PWM とノイズジェネレーターの不在が惜しい。そして内部が古式ゆかしい Hz/V 方式で動いているらしいという、最大の制限の醜い頭がここでもたげる。
- 結果として音域が C4 で終わる。Moog はこれを Sirin で直したが、あちらはゴス味の薄い限定版でとっくに廃盤、今買うには金の壺が要る。公式情報は見つけられなかったが、周波数スペクトラムの下半身への偏愛は Minitaur に本質的なもので消せない。多くの人にはここが決定打だろうが、ジューシーなラダーフィルターは決定打にならない。
- フィルターは自己発振し、キートラックの MIDI CC かアプリ上の仮想ノブを見つけさえすれば、そこそこ正確に演奏もできる。LFO は見た目より複雑。
- MIDI sync のような進んだパラメータは、またしても楽器のデジタルな深淵に隠されている。アンプとフィルターの ADSR エンベロープへのフルアクセスも同様。お察しのとおり、このシンセをしゃぶり尽くすには Minitaur アプリが最重要になる。Moog のウェブページで無料配布中。
- アプリはスタンドアロンでもプラグインでも十分安定して動き、そもそもフロントパネルに載っていてほしかった UI をそのまま見せてくれる。プリセット管理はソフトの方が便利だが、ハード側でもシフト操作の組み合わせで一応できる。端子類はミニマルだが必要十分、筐体は頑丈。Minitaur も安くはないが、Sirin は Reverb の相場をぶっ壊す。Behringer が牡牛をやるのも道理だ。
- コレクションからまたシンセを貸してくれた Signalus の皆に感謝。Minitaur には一見ランダムな制限と、自信満々の値札と、今どきの狭い部屋にふさわしいフォームファクタが揃っている。Moog は今のシンセの作られ方を先取りしていたのか。そして今の競合に伍せるのか。イントロ曲で鳴っていたのがこの悪い牡牛で、あれは間違いなく Moog、しかも C4 より上は一切要らなかった。
- そのファジーな70年代トーンを別の文脈に置き直すべく、最初のジャムへ。
- 興味深い。エンベロープの挙動と少し違うフィルターの味付けにはまだ慣れが要るが、これを大きな PA で聴いてみたい。次は、限られたピッチレンジの中でもジャムにメロディ的な肉付けができるかを試す。
- 2本目のジャム。
- 結果は一長一短。シンプルで美しい音は心底楽しめたが、作曲の過程は常に C4 の壁を避けて操縦する羽目になった。PWM が少しあれば良かった。ここまではフロントパネルとプリセット漁りだけで音作りを探ってきた。ではエディタを入れよう。ようやくメインメロディにオシレーターシンクをかけ、キックも合成する。
- 屋上テクノをネオプログ流に解釈した、高速なのに荘厳に静かな曲へ。
- Verdict。Minitaur は素晴らしいのと同じだけ苛立たしい。自分のセットのほとんどに収まる完璧なサイズ感、触りたくなるフロントパネル、クラシックな Moog トーンの見慣れつつも独自な解釈。しかし比較的基本的なパラメータにまでエディタ依存なのは決定的にアウト。MIDI コントローラーとシフト機能で回避はできるにしても——
- ——シンセの中で実際に何が起きているのかの情報が無いことが、狭い音域以上に使い道を狭めている。「Minitaur はベースシンセとして売られてるんだから」と制限を擁護する人は、Bass Station や Volca Bass、あるいはタトゥーパーラーで寝落ちした minilogue に何ができるか知ったら驚くだろう。見てくれてありがとう、また次回。
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