この回の結論
21世紀のシンセ野郎は恵まれた時代に生きている。ソフトかハードか、アナログかデジタルか、減算か FM かサンプルベースか WTF かを問わず、膨大な数の楽器がすぐ手に入る。シンセが足りないことは、もはや音楽を作れない理由にならない。UNO のような低予算機に欠点があるのは確かだが、絶対的な名機と呼ばれるシンセだって完璧には程遠いことで有名だった。ただ、どれだけ UNO の音が好きでも、ペラい作り・ノイズ問題・ソフト頼みという三点セットのせいで、ベッドルームスタジオの安全圏の外に持ち出すのは楽ではない。IK が Pro 版を出した理由は、たぶん一つではない。
何を喋っているか
- 2010年代の音楽機材を定義したトレンドがあるとすれば、それは小型化だった。KORG volca、Roland Boutique をはじめとする超コンパクトで大半は手頃な楽器群は、縮み続けるスタジオ机の面積、進み続けるデジタル化、そしてミュージシャンの移動の増加への回答だった。
- 今回扱うのは IK Multimedia UNO Synth。2018年のこのアナログシンセは、音楽制作ソフトと安価な宅録ツールで知られた IK が市場に投げ込んだ初のハードウェア楽器で、多くの人にとって不意打ちだった。
- 以降 IK 家では色々あり、今年は UNO Synth Pro が話題をさらった。そしてこちらは既に、ドラム担当の兄弟機 UNO Drum をレビューするという名誉なんだか微妙なんだかの経験も済ませている。音そのものは説得力があったが、IK は肝心なディテールをいくつかしくじっていた。とはいえ結論を急ぐのはやめよう。
- 一見すると UNO Synth はチェック欄をかなり埋めている。いわゆるクラシックなモノシンセ・エンジンに 2ポールのマルチモードフィルター、そして波形から波形へシームレスに変形できる気持ちのいいオシレーターが2基。
- プラスノイズ、エンベロープ2基に LFO 1基。この極めて伝統的な構成が、プラスチッキーで軽い、明らかにツアーの過酷さを想定していない筐体に収まっている。入出力のミニジャックはまだ我慢できるが、MIDI が 2.5mm コネクターなのは重罪。
- レトロなフロントパネルは DX7 あたりのメンブレンボタンを思い出させるが、実体はタッチ感応ゾーンが仕込まれたただのマットな面。7個ある「そこそこグラグラする」ノブのうち4個がパラメーターマトリクスの主 UI で、これは良い。
- フィルタードライブは大好き。その他のパラメーターは IK のサイトからダウンロードできるエディター経由でアクセスする。5つのモーメンタリー FX ボタンを押せば、選んだパラメーターにモジュレーションを一時的にかけて盛れる。
- まあ悪くない、と思う。デジタルディレイは控えめな効き。アルペジエーターとシーケンサーに関しては、IK Multimedia は皮肉抜きで自分自身を超えた。どちらも多機能なのに扱いやすい。
- ただしシーケンスが16ステップ止まりなのはかなり窮屈。電源は USB で、セットアップによっては妙なノイズとハムに遭遇した。DI ボックスを使う、あるいはモバイルバッテリーで駆動すると大抵は改善する。シーケンサーパターンとアルペジエーター設定込みの全設定が100パッチに保存できるのは、言うまでもない。
- カットオフをテンポの真隣に配置したのが名案だったかどうかは自信がない。ディレイタイムやミックスといった重要パラメーターを上下ボタンでいじるのは少々うっとうしい。ノートを、自分には永遠に理解できそうにないスケールへクオンタイズすることもできるし、文字通り二次元のキーボードはまあそういうものだ。価格は KORG volca 並みかそれ以下で買える。
- UNO Synth は多くのジャンルに馴染むクラシックなアナログサウンドを出す。ただの安い小型シンセの一つに過ぎないのか。今日のイントロ曲で既に鳴っていて、そのリード音は Patreon で聴ける旧イントロ曲の Doepfer MS-404 に驚くほど近い。ここで自分のお気に入りの負け犬ドラムマシンと組ませてみる。
- いい感じ。音はデカく、スイートスポットが広くていじりやすい。Alesis XR20 のシンセ部を UNO から鳴らすのも問題なく、MIDI シンクのトラブルは一切なし。パターン長が1小節しかないのは本物の制約だが、先週の Novation Circuit からコードを送って UNO のアルペジエーターに食わせれば解決しない話でもない。
- エディターを入れることが、引き換えにリセールバリューを消し飛ばすだけの価値があったかは微妙なところ。ただ UNO がより多機能なシンセになるのは確か。USB でパソコンに繋ぐ場合、DI ボックスは間違いなく必要だった。少なくとも音に関しては、UNO の弱点が未だに見つからない。もっと複雑なアレンジでどうなるか知りたい、というわけでレア・グルーヴ meets クラウトロック meets John Carpenter サントラ風の一曲へ。
- モノシンセが主役のデモ演奏。
- Verdict。21世紀のシンセ野郎は恵まれた時代に生きている。ソフトかハードか、アナログかデジタルか、減算か FM かサンプルベースか WTF かに関係なく、膨大な種類の楽器が手に入る。シンセ不足は音楽を作れない理由にならない。
- UNO のような低予算機に欠点があるのは事実だが、絶対的な名機とされるシンセですら完璧には程遠いことで悪名高かった。とはいえ音がどれだけ好きでも、ペラい作り・ノイズ問題・ソフト依存のせいで、ベッドルームスタジオの安全圏の外へ持ち出すのは容易でない。IK が Pro 版を出した理由は一つではないはずだ。