Blackbox

Bad Gear - Black Box

この回の結論

1010music がこのコンパクトでツアーにも耐える筐体に、これだけよく練られた機能を詰め込んだのは驚嘆に値する。他メーカーの同種の楽器にも載っていてほしい機能がいくつもある。保守的な MIDI ハンドリングとマルチサンプル能力のおかげで、Blackbox は「実際に楽器を弾ける人間」のコンピュータレスなセットアップで真価を発揮する。ただし自分のようなツマミ回し・ボタン押し人間は、もっと洗練されたシーケンサーのワークフローが欲しくなるし、小さなタッチスクリーンと UI のクセと少ないハンズオンコントロールのせいで筋肉記憶が育たなかった。Blackbox は自分向けではないかもしれないが、今後のアップデートや、もっと強力な後継機には注目し続ける。でなければ、いい加減 iPad を買う。

何を喋っているか

  1. 「世界一嫌われたオーディオ機器の番組、Bad Gear へようこそ」。コンパクトで高価で多機能なタッチスクリーン機器は世の中に溢れていて、普通は音楽を作るときこそそこから逃げたいはずだ、という前振り。
  2. 今回は 1010music Blackbox。2019年のこの機械は、混み合ったサンプラー/シーケンサー複合機の世界に「機能の誇大妄想」の発作を起こしながら殴り込んだだけでなく、ベルリン発のデカい「扉付き Excel」(= Ableton Live) にまで喧嘩を売っている。一見この箱は黒くない — 黒はネット漬けサイバーパンクにとっての宗教的遺物の色なのに。付いてくるのは例のタッチスクリーンと、microKORG より少ないノブと、ほどほどの数の硬めのラバーボタン。
  3. 楽器のコンセプト全体は、あの栄光の MPC を仮想化した「パッド」を軸に回っている。ドラムと基本的な音程用途のサンプル再生というパンとバターは、あくまで始まりに過ぎない。
  4. 1010music は Ableton 風のループ/クリップ運用も載せていて、タイムストレッチもだいたい使える。スライサーは強力。
  5. グラニュラーエンジンはファームウェアアップデートで追加され、使いやすい。アップデートといえば、シーケンサーを走らせたままオーディオ録音でき、外部楽器のマルチサンプリングもでき、ルーパーとしても使える。サンプル内トランスポーズ、フェード付きループ、フル ADSR、DJ 風のレゾナントフィルター。
  6. LFO とモジュレーションマトリクス、トリガーモードの選択肢、チョークグループ、ローエイリアシングモード。ファイル管理は実用一辺倒だが完璧に機能する。microSD から直接ストリーミング再生でき、最大トータルポリフォニーはステレオ32声あたり。これ全部を「低カロリーなフィンガードラム」で叩ける
  7. 極小の画面上鍵盤、MIDI、内蔵シーケンサーでも鳴らせる。ここまで印象的なサンプリング機能を見た後だと、シーケンサーがかなり保守的なのは意外だろう。パラメータロックもモーションレコーディングもオートメーションも、21世紀的なものは何も見つけられなかった。あるのはオフにできるクオンタイズ付きのリアルタイム録音と、
  8. 神経をすり減らすタッチスクリーンのピアノロール編集だけ。とはいえ最大256ステップのパターン長、素朴なプロバビリティ、演奏向きのシーケンス画面はなかなか良い。4バリエーションずつ持つ16シーケンスを好きなだけ組み合わせられる。
  9. ドラム/メロディックモチーフ/MIDI でシーケンスのフォーマットが分かれているが、クリップとシーケンスの連携はまだ粗い。ソングモードは今回もボイコットするが、素晴らしいらしいとは聞いている。FX セクションは地味 — ディレイ、リバーブ、実用的なマスターコンプとEQ、それだけ。シンプルなミキサーのカエル (Frogger) みたいな配色にも文句はない。
  10. リアパネルは接続端子で溢れている。確かに全部ミニジャックだしヘッドホン端子は常にフルミックスしか出さないが、独立したステレオ出力が3系統あるのは文句なしに素晴らしい。MIDI ホスト機能は USB コントローラーを両手を広げて迎え入れる。オーディオの入出力は全て DC カップリングで、CV の録音・再生に使える。クロック設定も柔軟。広範な MIDI 実装のおかげで、
  11. 小さなタッチ画面の制約を外から回避できる。ただし MIDI 出力は MIDI スプリッターを駆動するだけの電流を出せなかった。USB 給電はだいたい問題なし。ビルドクオリティは岩のように堅牢。ライブセットの要を貸してくれた aif に感謝。現代のハードウェアサンプラーはひどく機能を削られていることが多く、Blackbox はかつての栄光を取り戻すと約束している。
  12. 果たして iPad アプリの広大な世界と戦えるのか。今日のイントロ曲でストックサンプルはもう聴いてもらった — 必須のシンセ機能が欠けている中では最適な選択とは言えなかった。ここで RTFM 以前のフェーズで作った小さなアミューズ・ブーシュを一つ。
  13. 「思ったより簡単だった」。1010 のアプローチは競合とは違うが、このドラムマシン的な使い方くらいの基本機能を把握するのは造作もない。内蔵 FX はミニマリスト過ぎるので、マルチアウトを活かして外部の信号処理スペシャリストを何台か足し、シーケンス機能も掘ってみる。
  14. マルチアウト + 外部エフェクトでのデモ演奏。
  15. 「これは玉石混交だ」。シーケンス表示のリフレッシュが鈍い、クリップのシーケンサー統合が不安定といった UI の一貫性の問題にいくつかぶつかった。起きていることに CPU が追いついていない様子で、MIDI 編集はオーストリア語の罵倒語の奔流を引き起こした。Blackbox はクリーンな音のサンプラーとしても使えるが、デジタル的なアーティファクトは至る所に潜んでいる。
  16. ならばそのアーティファクトを主役にしよう、ということでグラニュライザーを連れてナイキスト周波数の場末への旅に出る。
  17. Verdict。このコンパクトでツアー耐性のある筐体に、よく練られた機能をこれだけ詰め込んだ 1010music は見事。他社の似た楽器にも載っていてほしい機能が多い。保守的な MIDI ハンドリングとマルチサンプル能力により、Blackbox は「実際に楽器を弾ける人間」のコンピュータレスなセットアップで真価を発揮する。
  18. だが自分のようなツマミ回し・ボタン押し人間は、もっと洗練されたシーケンサーのワークフローが欲しくなる。小さなタッチスクリーンと UI のクセ、少ないハンズオンコントロールのせいで筋肉記憶が育たなかった。Blackbox は自分向けではないかもしれないが、今後のアップデートやもっと強力な後継機には注目し続ける。でなければ、いい加減 iPad を買う。
  19. いつもの締め — 高評価・登録・パトロン・コメント募集。月例の「ウォッカ・シャウトアウト」で、「グラニュラーシンセシスは21世紀のウォッカだ」と宣言してから tier 4 以降のパトロン名を読み上げる。