この回の結論
Wavestation は、ちょっとしたひねりを加えるだけで平凡なサンプルプレイヤーがサイケデリックなサウンドデザイン機に化ける、ということを見事に証明した機材だ。ただし当時は「その音が出せる可能性」だけでシンセが売れたが、今のシンセ使いはもっと気が短い。KORG の近年の製品の方が敷居が低く、使い勝手も良く、音作りの道具も揃っている。ウェーブシーケンスで実際に音楽を作りたいなら現代版を選ぶのが正解だが、古代の音楽機材の内部構造を探検して週末を丸ごと潰し、一音も録音しないままブチ切れて投げ出す、あの高揚感あるカタルシスに勝るものは無い。
何を喋っているか
- いつもの口上。この番組で扱う機材は「今聴くとダサい音」「まともな生活を送ってる人間なら理解しようとすら思わないオタク的コンセプト」「音の良さを門番みたいに封じ込める理解不能な UI」のうち最低ひとつを備えている。
- 今回は KORG の名機 Wavestation。90年代初頭のウェーブシーケンシング機で、前述の3カテゴリすべてで文句なしの首位。しかも通常版ですら「苦しむ覚悟」が要るのに、訓練を受けたプロである自分は難易度を上げて Dark Souls 版とも言うべき SR を選んだ。「家では、というかどこでも真似するな」。
- 一見して Wavestation は「は?何これ」系の箱そのもの。プリセットが華々しくて、そしてだいたい使い物にならなかった時代の産物。
- 当時のシンセ使いは合計328ページのマニュアル2冊を朝飯前に読破し、ラックスペース節約のためなら劣悪なディスプレイへの格下げも厭わなかった。SY22 のジョイスティックだって結局同じ MIDI CC を吐くだけだしな、と。ハード4機種の違いへ。EX は初代に無かった定番サンプルを積んだ。
- A/D 版はオーディオ入力があり外部音の加工とリコーディングが可能。今回の小さい SR は主要な UI 要素を軒並み欠いている代わりに RAM/ROM バンクが最大構成。中身はほぼロンプラーで、M1 的な定番音色から
- 使えるドラムヒット、そして Prophet VS 由来の生波形まで。ベクトルシンセシスにより、ジョイスティックが無くても最大4つの波形をブレンドできる。
- シンセエンジンには驚きの制限がいくつか。レゾナンスの無いフィルタ、遅い LFO、そして不安になるほど徹底したリングモジュレーションの不在。多段エンベロープはあると嬉しいが、追い込むのは面倒。8つのパッチをそれぞれパートに割り当てて、
- パフォーマンスで同時に鳴らし、複数アウトとデュアルのマルチ FX に送れる。だがこのマルチティンバー性は合計32音というポリ数に思いっきり足を引っ張られる。ワークフローについては Sound on Sound すら首をかしげている。ここまでは正直パッとしない。というわけで、Wavestation をアンビエント機に変えた例の機能へ。
- そしてネイチャードキュメンタリーのサントラ製造機へ。ウェーブシーケンシングは、お察しの通りサンプルの並びを作る機能。音色をブツ切りのパターンに組んでもいいし、
- クロスフェードを効かせてゆっくり移ろうサウンドスケープにしてもいい、あるいはその混合。最大255ステップのループ可能なシーケンスを組めて、前進も後退も可能。ステップごとに長さ・ピッチ・クロスフェード時間・音量・サンプルのスタート/ストップ位置を設定できる。
- 特に SR でのシーケンス作成は全く快適とは言えず、マニュアルをガチで読み込む羽目になった。中古相場の高さには驚いたが、正直に言う。公式の Vintage プラグインか、近年の wavestate 系を買え。とはいえ KORG 独自のウェーブシーケンスという発想が、実用一辺倒だった90年代初頭のサンプルプレイヤーの世界に新しい命を吹き込んだのは事実。
- ではプラグイン版や現代のハード版に Wavestation は完全に追い抜かれたのか。今回のイントロ曲で既に SR の音は聴いてもらった。そもそもクラシックな Wavestation のパターンって、要は「1991年のダブステップ・ワブ」じゃないのか? プリセットを漁って、マルチモードが本当にそんなに酷かったのか確かめる。
- プリセット試聴。「興味深い」「まあ納得できる」「かなりダルいパッド」と、一言ずつ斬っていく。
- ベース音は意外にパンチがあってザラつきも良い。だが UI はやはり試練。これより酷いマルチモードもあるが、そう多くはない。SR のメニュー体系というタルタロス(奈落)の中で、ウェーブシーケンスエディタにまだ辿り着けていない。またコーヒーを淹れてマニュアル読み直しだ。
- 「人間が実際に音楽を作るのを妨害する方法として、史上屈指に手の込んだやり方かもしれない」。それでも出てくる結果は気に入っている。
- 生のサンプル波形は今でも新鮮に響く。Wavestation のパッチをアレンジに収めるのは常に簡単とは限らないので、ちゃんとミックスすればその問題が解けるのか試す。「大腸内視鏡の荒野をさまよう、踊れないアートスクール・テクノ」で。
- Verdict。Wavestation は、ちょっとしたひねりで地味なサンプルプレイヤーがサイケデリックなサウンドデザイン機に化けることを見事に証明した。ただし「その音が出せる可能性」だけでシンセが売れた時代と違い、
- 今のシンセ使いは辛抱が利かない。KORG の近年の製品の方が敷居が低く、使い勝手も良く、音作りの道具も多い。実際にウェーブシーケンスで音楽を作りたい人はそっちを選ぶだろう。だが、古代の音楽機材の内臓を探検して週末を丸ごと溶かす、あの高揚するカタルシスには何も勝てない。
- しかも一音も録音しないままブチ切れて投げ出すまでがセット。「観てくれてありがとう、また次回」。いつものチャンネル支援の告知、「どんなクソ機材を買わされることになろうとも」。