この回の結論
カジュアルなトラッカー愛好家としては Mini を使うのは相当楽しかった。小さい筐体に機能が山ほど詰まっているからだけでなく、何よりいつもの音楽の作り方を自分に問い直させてくるからだ。ただしシンセシス周りは依然として物足りず、実際に仕事を終わらせなきゃいけない時はツマミだらけの UI と、もっと普通のシーケンサーを選ぶ。そして部屋の中の象について。そう、究極のヒップスター玩具になるにはまだ安すぎる。倍の値段の Tracker Field を待ってる。
何を喋っているか
- 世界で最も嫌われたオーディオ機材の番組へようこそ。シンセメーカーにはインターネットの圧倒的なホワイトノイズへの対処法がそれぞれある。80年代が終わってないかのように完全無視する会社もあれば、Instagram 的な現実逃避の美しさを全力で抱きしめる会社もある。
- そして一社に至っては石を投げるのが好きらしい。一方 Polyend は新品の Tracker Mini を送ってきた。兄貴分と同じくこの超小型機の中心にあるのは、逆説的に原始的な時代に根を持つテクノロジー。発売の数ヶ月も前から物議を醸していた。Polyend が大量のトロールを引き寄せるのはこれが初めてじゃない。やあトロールたち、みんな歓迎するよ。
- 一見してこの回は Early Access 直送 Bad Gear のチェック項目を全部埋めている。オリジナル Tracker の「QWERTY キーボードなしジョグホイール」という異端は、Yamaha QY8 と軍用グレードの Kindle クローンの愛の結晶みたいな筐体に載った Game Boy 風 UI に席を譲った。FM ラジオが消えたのは惜しくないが、USB オーディオと4倍になったサンプルプール用メモリはありがたい。
- 内蔵の充電池とマイクは、フィールドレコーディング・アーティストという儲かるキャリアへの切符だ。Polyend のステレオファイル対応を聞いて、うちの Digitakt は嫉妬した。改良点以外はオリジナルの全機能を継承。基本はサンプルベースのエンジンを、縦にスクロールする「マトリックスのコード」8トラックがトリガーする。
- 各行はノートナンバー、行き先 (デスティネーション)、そして追加パラメータ2つを指定する。その2つの枠にベロシティやグライドといった必須の音色要素まで押し込まれているのが困りもの。1プロジェクトあたり255パターン、各パターン最大128ステップ。ノート入力は MIDI 経由でもできる。
- Tracker Mini のワークフローには全面的に身を委ねる覚悟が要る。D-pad で移動し、パラメータを2段階の速度で変え、ファンクションボタンでセクションを切り替える — これが思ったよりちゃんと機能する。ステップジャンプやフィルといったワークフロー加速機能も豊富だ。
- フィルは音楽的に意味のあるデータを数秒で大量生成できるだけでなく、スケール・ランダマイズ・ユークリッドパターンまで仕込める。パターン編集の便利機能もいくつも揃っている。ソングウィンドウは主にテンポ設定に使った。サンプル再生エンジンにはシンセ的な機能が付くが、フィルターセクションは音もワークフローもあまり好きになれない。
- だがオーバードライブとビットクラッシュ系は十分使える。一部のパラメータはエンベロープと LFO 各1基でモジュレーションできる。サンプル再生モードは、遅い系のモードが定番どころに留まらず、トーナルな素材にもリズミックな素材にもスライスを提供してくれる。
- ウェーブテーブルの実装、限定的なグラニュラーエンジン、リバーブ、ディレイ。どれも一応仕事はこなすが、マスターバスを台無しにするエフェクトは無くてよかった。ノブもダイヤルも無いので、時間の大半はメインのミキサー画面でジャムして過ごした。
- ソングモードと密接に結びついた専用のパフォーマンスモードもあり、エフェクトをその場で演奏できる。エフェクトといえば、サンプルエディタには非リアルタイムのアルゴリズムが一通り揃っている — 昔ながらのやり方だ。自己完結型のインストゥルメントファイル形式もある。microSD カードをメインストレージにするのは便利、便利じゃなくなるまでは。
- 自動プロジェクト名ジェネレーターは近い将来おれを失業させる。Super Mario Bros 3 が Tracker Mini と互換じゃないのはちょっとがっかりした。Willow は問題なく動いたけど。オーディオと MIDI のミニジャックが底面にあるのは万人向けではない、特に USB-C が上面にあるのを考えると。
- 本体は驚くほど重くて頑丈。半ば忘れられた Roland のキーボードみたいに指紋を吸い寄せる。OP-1 の手頃な代替が出たのは素晴らし… いや今の無し。Polyend は Tracker の全機能を取り、さらにいくつか足して、洒落た箱に詰めた。この玩具っぽいインターフェイスは本当に使えるのか、プレミアム価格に見合うのか。今日のイントロで既に小さい Tracker の音は聴いてもらった。幸いオリジナル Tracker 回のセッションが完全に互換だったので、ごく普通の日曜の森の散歩でファクトリー音源を探検してみよう。
- トラッカーのワークフローに慣れている人なら学習曲線はほぼゼロ。基本的な打ち込みに関してはジョグダイヤルもボタンマトリクスも恋しくない。ただし音をいじるためのハンズオンなコントロールはもっと欲しかった。次はこの楽器が実際の寝室スタジオのセットアップの中心としてどう振る舞うかを見る。
- 結果は玉石混交。型破りな MIDI の扱いはこういうセットアップには最高だ。
- だがフィルターのレゾナンスはかなり不快で、シンセ的な音を作り込むのは骨が折れる。内蔵マイクはおそらく最も重要な新機能。内なるフォーリーアーティストを解き放とう — Nerf の銃と monotron とウィーンの伝統的なギターと Space Echo がオースティンのバーに入っていく。
- Verdict。カジュアルなトラッカー好きとして Mini はとにかく楽しかった。コンパクトな筐体に機能が山盛りだからというだけでなく、何よりいつもの音楽制作プロセスを自分に問い直させてくるからだ。
- ただしシンセシス機能はまだ物足りず、実際に作業を終わらせる必要がある時はノブだらけの UI とより一般的なシーケンサーの方を選ぶ。そして部屋の中の象に触れる時が来た。そう、究極のヒップスター玩具になるにはまだ安すぎる。倍の値段の Tracker Field を待っている。