Roland Aira J-6

Bad Gear - Roland Aira J-6

この回の結論

J-6 への向き合い方は2通りしかない。音楽理論の素養があって RTFM が好きで、ありきたりな音とパターンでも問題にならないくらい自分の音楽がイケてるか、プリセットを何枚かめくって「めでたしめでたし」で満足できる能天気な人間か。自分はそのどちらでもなく、J-6 が乗せてくる「工程の最適化」というレイヤーは助けよりむしろ邪魔で、音を彫っていく自由度なら大抵の ROMpler の方がまだ上だ。あの Aira の遠い親戚 (動画にしょっちゅう出てくるやつ) みたいにワークフローを加速してくれると期待していたが、そうはならなかった。だから TB-3 をもう1台買った。

何を喋っているか

  1. 「世界で最も嫌われているオーディオ機材の番組へようこそ」。Roland の新品を扱うのは久しぶりだが、幸いというか、我らが大好きなシンセメーカーも他ブランド同様、ご多分に漏れず宣伝→リーク→誇大広告のループを回している。
  2. そのサイクルは無数の vaporware を生んだだけでなく、「ダイレクト・トゥ・Bad Gear リリース」と呼ばせてもらいたい潮流まで作った。今日の題材は Aira Compact J-6。Roland は ACB の Juno エミュを手のひらサイズの筐体に入れ、ほぼ弄れないプリセットの寄せ集めに劣化させ、さらに本物の鍵盤奏者を辱めるために、80年代 Casio の自動伴奏セクションと Unison MIDI Chord Pack の落とし子みたいなシーケンサーを載せた。「Roland、会いたかったぞ」
  3. 見た目は「お前が探している Pioneer AS-1 はこれじゃない」系の箱。1オクターブの、滑らかだがベロシティ非対応のラバー鍵盤。コードシーケンサーの話は後ほど。
  4. 64 の Juno プリセットは、王道の Juno サウンドから「Roland、何だこれは」というものまで。Roland Boutique や実機 Juno のユーザーなら、この4ボイス音源の全体的な音色傾向は既に馴染みがあるはず。弄れるのは cutoff、resonance と…
  5. …あとエンベロープの原始的なパラメータ2つ。「それでも大半の音楽プロデューサーが普段使う数より3つ多い」。Roland が ACB という金のなる木シンセエンジンの深部を MIDI CC で開放しないのは驚くに当たらない。sysex でもこっちは全然構わないのに。
  6. もっと作り込めるシンセの UI に慣れていて、この乏しいツマミでは頭の中の音に届かない人も心配無用 — 音の不出来は良く鳴るディレイで覆い隠せる。あの伝説のコーラスとリバーブの設定はプリセットに固定で紐付いている。
  7. それはそれとして、大半の人の目当てはシーケンサーだろう。Boutique 勢の 1小節モノフォニックというお粗末な仕組みに比べれば 64ステップは相当に大盤振る舞いで、J-6 の「ハーモニー自動操縦」は間違いなく手が込んでいる。音は自分で打ち込んでもいいし、
  8. 内蔵の 100 コードセットから選んで即席の「それっぽさ」を得てもいい。複雑さは段階的に選べ、コードモードもある。作ったハーモニーはステップに割り当てられ、タイで繋げられ、パターンのグローバルなステップ長も調整できる。
  9. レガートのコードだけではすぐ飛きるので、Roland は 9つの「スタイル」を用意し、それぞれに 12 のバリエーションを付けた。アルペジオ、基本的なリズムフィギュア、そして「自分だったら練習しないと弾けないフレーズ」。これらもステップに割り当てられる。ReBirth を箱に詰めたような兄弟機はメニュー階層に肝心な機能を隠していたが、こちらは
  10. もう少し整理されたバックオフィスで、Roland 伝統の必殺技コマンドみたいなボタン同時押しも最小限。Aira Compact 一族の常として: ミニジャックの入出力は良い、USB 給電は OK だが時々ノイズが乗る、内蔵バッテリーは切れるまでは最高、作りは頑丈だがツマミは頼りない。そして TR-8S 1台の値段で3台揃えて Insta 映えするワークフローが手に入る。店頭在庫の J-6 を貸してくれた地元の楽器店 Klangfarbe に感謝。
  11. Roland は 80年代の名シンセ路線の栄光を、最小・最も取っつきやすい箱に閉じ込めようとした。その系譜に値するのか。J-6 は今日のイントロで既に鳴っていて、背後のオクターブ積みはかなり良い。まずはこのチビシンセの一番ベタで手垢の付いた使い道を探す。
  12. EDM 方向のデモ演奏。
  13. 「悪くなかった」。ただしプリセットの多くはフィルターを開けると少し耳障りになるし、エンベロープは常にどこかズレている。それでも J-6 には使えるダンス系のコードとパターンが山ほど詰まっている。次は EDM の外で何ができるか。
  14. 内なるキッチュ職人を降ろしたいなら代用品は効かない。自分のジャムは洗練されたコード進行で知られているわけではないが、どうも J-6 はこっちをもっと暗い領域へ引きずり込もうとしてくる。
  15. パッド系の音は気に入った。ただサウンドデザインもハーモニー構造も「惜しいが及ばず」。もう少し深掘りしてスタジオ的な状況へ。シンセが小さいほどビートはデカく、Splice 一切不使用 100% の Lo-Fi ワークアウト。
  16. Verdict。J-6 への向き合い方は2つしかない。ひとつは、こいつに何をさせたいか明確なイメージがあり、できれば音楽理論の素養に裏打ちされていて、説明書を読むのが好きで、ありきたりな音とパターンが問題にならないくらい自分の音楽がイケてる場合。
  17. もうひとつは、プリセットを何枚かめくって「はい、めでたしめでたし」で幸せになれる場合。自分にはそのどちらも当てはまらない。J-6 が被せてくる「工程の最適化」レイヤーは助けより邪魔で、音を彫る自由度なら大抵の ROMpler の方がまだ上。動画にしょっちゅう出てくる Aira の遠い親戚みたいにワークフローを加速してくれると期待していたが、
  18. そうはならなかった。「だから TB-3 をもう1台買った」。視聴の礼と、いつもの高評価・チャンネル登録・Patreon・「次に見たい機材をコメントで」の締め。