この回の結論
MT-32 の真の信者は代替品を一切認めない。多くの本気のレトロゲーム環境に組み込まれた必須部品であり、LA 音源の非常に特定の味を持っているからだ。とはいえどれだけ強力で唯一無二でも、この音が欲しいだけなら MT-32 は最も便利な解ではない。ゲームサウンドの再生にも音楽制作にも Munt エミュレータはかなり正確に当ててくるし、MT-32 の音の癖が曲の隠し味になると言っても、全体のトーンは D ファミリーの他のメンバー、特に D-110 とよく似ている。D-110 はこの番組で UI がひどいと散々叩かれたが、少なくとも UI は「ある」。ただし理屈は別として、安物 Sound Blaster や内蔵スピーカーの耳障りなビープ音で Pirates of Pestulon を遊ばされた側の子供だったなら、MT-32 こそが Big Whoop であり、持たねばならない。
何を喋っているか
- 「世界一嫌われた音響機材の番組」Bad Gear へようこそ。Roland とこの番組の関係は非常に特別で、Bad Gear の主役の約25%が Roland 家と BOSS 家の血筋だと明かす。
- だからといって Roland が悪いブランドという話ではない。アルバムを出しすぎてコアなファンですら把握しきれなくなった音楽家みたいなもので、全部が『Sgt. Pepper's』にはなり得ない。今回は 1987年の Roland MT-32。元々アマチュア音楽家向けに設計されたマルチティンバー音源だったが、オタクどもには別の考えがあった。
- 80年代 PC ゲームの元祖デベロッパ Sierra の連中の思惑で、この小さな黒い箱はゲーム音楽の事実上の標準へ急成長した。レトロゲームの盛り上がりの陰で見落とされがちなのは、MT-32 が80年代の定番音を手っ取り早く出すだけの箱ではなく、当時の Roland のフラッグシップ D-50 に驚くほど近い、深くて複雑なシンセでもあるという点。
- 見た目の話。「ミクロキッズ」でVHSデッキを縮めたような箱に、伝統の Roland 表示窓、9ボイス中6ボイス分の申し訳程度のコントロール、MIDI とステレオ出力。人気の高い新バージョンにはヘッドホン出力も付く。楽しそうな見た目ではないが、MT-32 は中身が全て。
- 音源部は32ボイスポリで、上位の D シリーズにも積まれている Roland の LA 音源。アタック部に短く低解像度の PCM サンプル、音の胴体に VA シンセ部を組み合わせる方式で、元々はヤマハの FM 天下に殴り込むために考案された。
- 箱から出してすぐ鳴るのは、あまりイケてないピアノ、まともなアコースティック楽器のシミュレーション、そして例のデジタル Roland シンセの定番音。デモ演奏。
- FM と同じく LA 音源も使いやすさで知られてはいない。「安心してくれ、メニュー潜りは不要だ。その代わりこの小さな箱に SysEx をぶち込みまくることになる」。マニュアルは正しい SysEx 文字列を組むのに必ずしも役立たないので、リバースエンジニアリングを手伝ってくれた Rancy に感謝。ソフトエディタは色々あるが、高価な MIDI Quest を除けば大半が今のPCで動かない。
- JSynthLib が一番有望そうだが、手持ちのどのマシンでも起動できなかった。「うまくいった人はコメントで教えてくれ」。MT-32 はレトロゲーム MIDI 再生の金字塔という評判だが、General MIDI には準拠していない。1987年に GM はまだ存在しなかったからだ。
- 似た点はあるので1991年の規格の「おじいちゃん」と呼ばれる。専用の MIDI ファイルを送れば GM 的な振る舞いをエミュレートできるが、Rise of the Triad のサントラをちゃんと鳴らすにはさらに追い込みが必要だろうと。ネイティブ対応ゲームもあり、Monkey Island 2 のような Sierra 系クラシックは実際素晴らしい鳴り。
- Sierra 関連ではカスタム音色を大量に含む SysEx ファイルのライブラリがある。ただし電源を切ると本体は記憶喪失になる。リバーブはノイジー。本気で本物のレトロゲーム体験が欲しいなら MIF カードと MPU-401 のブレイクアウトボックスへの投資も必要。「現実的な異端者は DOSBox と Munt エミュレータで済ませるだろう」。
- 言うまでもなく MT-32 の中古相場は劇的に高すぎる。実機を貸してくれたウィーンのシンセ修理の魔法使い Thomas に感謝。ゲームのノスタルジーを抜きにして、80年代 MIDI 考古学の手間をかける価値があるのか、それとももっと楽な選択肢があるのか。冒頭のイントロ曲で既に MT-32 の音は聴いている。
- 80年代の音楽制作の定番音がしっかり揃っている。マルチティンバー性と立派なポリ数は発売当時は必須の機能だった。今でも通用するか試してみる。
- 音そのものに文句はない。確かに80年代の味がするが、それが悪いとは限らない。明らかなポリ数不足にも遭遇しなかったし、Digitakt からのボリュームやプログラムチェンジの基本操作は問題なく効く。
- 無害そうな筐体の奥には減算式シンセが隠れている。先週扱った A-01 の SysEx 機能を使って、この Roland 尽くしのセットアップでもう少し触りやすくできないか試す。
- ややプラスチッキーな鳴りの減算シンセ部は音色の幅が広く、Roland の D シリーズを強く思い出させるのも当然。一部のパラメータを手元のツマミで動かせるのは良い。
- ただし本格的なパッチエディットにはソフトエディタが要る。MT-32 は複雑な楽器だが、大半の人が欲しいのは即席のレトロ感だろう。「Monkey Quest スペースコマンダー、Chuck's Steel Sky の先史時代の大地にて、デジタル・マーブルマシン風」と称するジャムで、それとプラスαを出せるか確かめる。
- ジャム演奏。
- Verdict。まず先に片付けておくと、MT-32 の真の信者は代替品を一切受け入れない。
- 多くの本気のレトロゲーム環境の必須部品であり、LA 音源の非常に特定の味を持っている。とはいえどれだけ強力で唯一無二でも、この音が欲しいだけなら最も便利な解ではない。ゲームサントラ再生にも音楽制作にも Munt エミュレータはかなり正確に当ててくるし、MT-32 の音の癖が曲の隠し味になるとしても、全体のトーンは D ファミリーの他機種によく似ている。
- 特に D-110 と。「D-110 はこの番組で UI がひどいと散々批判されたが、少なくとも UI が存在する」。理屈はどうあれ、安物 Sound Blaster の耳障りなビープ音、あるいはもっと酷い内蔵スピーカーで Pirates of Pestulon を遊ばされた側の子供だったなら、MT-32 こそが Big Whoop であり、手に入れねばならない。
- いつもの締め。気に入ったら高評価・チャンネル登録・Patreon 支援、次に扱ってほしい機材はコメントで。