この回の結論
SHS-10 が好かれる理由は分かる。何もかもが超80年代で、洗練された楽器ではないにせよ、あの時代の実体験がない世代にまでノスタルジーを引き起こす。玩具的な見た目と機能はその効果を増幅し、ミュージシャンでない人にも刺さる — 中古市場の法外な値段の説明にはなる。だが実際の制作やライブとなると話は別で、キーターだし MIDI OUT で他の機材を鳴らしてギタリストの尻を蹴っ飛ばせるとはいえ、ミニ鍵盤とベロシティ無しはその場面でかなり萎える。80年代のチープさは皆好きだが、プリセット固定の2オペ音源と伴奏トラックは Kraft Singles みたいなもので、本物とは大して関係ないが人生には有難い場面もある。特に Syn と Bass のパッチは良い、ただ同種が他に無くて孤独に見える。
何を喋っているか
- 「世界で最も嫌われたオーディオ機材の番組」bad gear へようこそ。今日は Yamaha SHS-10、キーター、あるいは shoulder keyboard の略で呼ばれるやつ。1987年のこの玩具みたいな FM シンセは、一部の視聴者にとって bad gear の極みらしい。
- その嫌悪が SHS-10 の機能に対するものなのか、単に「キーターだから」なのか分からない。ちなみに人類史上最初のキーターと言えるのは Orphica で、1795年にウィーンで Carl Leopold Röllig が発明した。当時どうやったのか知らないが、なぜかワイヤレスで動いていたらしい。「ちょっと早送りしていいか」。
- 早送りでキーター史をざっと流し、Moog が1980年に伝説の Liberation を出した話へ。キーター嫌いですら Roland SH-101 (のストラップ+グリップ) は欲しがる。当時 Yamaha は SHS-10 をキーターとして売らず「ショルダーキーボード」として売っていた。この最高のバズワードがなぜ定着しなかったのか謎。「Timeless sound travels at the speed of Yamaha」キャンペーンが目立ちすぎたのかもしれない。
- 常連視聴者なら知っての通り、自分は鍵盤の腕が壊滅的なのでキーターのメインターゲットではない。しかも SHS-10 は MIDI でも CV でも外部から鳴らせない。「精一杯やるが、自分が Jan Hammer と共有しているのは間違いなく生え際だけだ」。実物は想像よりずっと小さい。microKORG 的なミニ鍵、あらゆる操作用の極小ボタン、小さいが戦略的に良い位置のピッチベンド、そして仕事はきっちりする2桁7セグ表示。
- FM 音源は6ボイス2オペレータのシンプルな代物。プリセット専用でパラメータいじりは一切不可、触れるのはビブラート・ポルタメント・サステインのみ。パンチのある電子的な2オペ音なら生きていけるが、SHS-10 のプリセットはほとんどが生楽器の粗い物真似。
- とはいえ Synthesizer と Wood Bass のパッチは悪くない。コンシューマ向けなので内蔵スピーカーだけでなく、専用のコードシーケンサ付きという妙に凝った伴奏 (accomp) セクションまで載っている。「頼むからあれを一つずつ解説させないでくれ」。
- 伴奏を生活の一部にしたい人は Keen on Keys の解説動画を見るといい。愉快なリズムとフィルが入っていて、Yamaha は著作権を 2 damn ほども気にしていない — それとも本当に George Michael に大金を積んで「Last Christmas」をデモ曲に入れたのか。残念ながら MIDI IN は無いが、MIDI OUT は良く働き、MIDI クロックに加え伴奏トラックのノート情報まで別チャンネルで吐く。
- 中古価格はちょっとおかしなことになっている。当時の定価を知っていたらコメントで教えてほしい。自分は「まあまあ」と言える状態のものを100ユーロで入手した。念のため言うが、この中古車ディーラー (オーストリア版のあれ) の回し者ではない。
- SHS-10 は80年代においてキーボード奏者を「解放」する最も安い手段だっただろう。なのになぜこの小さいキーターを、まるでビデオテープを返しそびれた奴みたいに憎む人がこんなに多いのか。イントロ曲で既に音は聴いてもらった。「質問しないでくれれば嘘もつかない」。まずは FX の海に沈める前に、素の音を Digitakt と同期させて聴く。
- SHS-10 単体 + Digitakt でのデモ演奏。
- 「親御さん、子どもにはピアノを習わせてください」。ドライな SHS-10 の音は自分の演奏と同じくらい cringe だが、EQ もコンプもリバーブもモジュレーションも無しでなぜかミックスは成立した。ビブラートとポルタメントは音に生気を入れるのに必須、それでも死ぬほどチーズ臭い。次は FX ペダルで良くなるか試す — 「ペダルボードを組むほど心安らぐ作業は他にない」。
- ペダルボードを通したデモ。「キーターとは元々こう使うものなのかもしれない」。
- 正直、あの signal chain はハチドリすら Hatesphere に変える。それでも弾いていて滅法楽しい。ここ数週間ずっと古い Roland と Yamaha ばかりで、このチャンネルの80年代クリシェ濃度がいい加減うっとうしくなってきた。それでも SHS-10 は刑事もの/ギャング映画のモンタージュ音楽に参加せねばならない。「なんとかウェーブのチーズ祭り」。
- 80年代刑事ドラマ風モンタージュのデモ演奏。
- Verdict。SHS-10 が好かれる理由は分かる。何もかもが超80年代で、洗練された楽器ではないが、あの十年の実体験が無いくらい若い人間にまでノスタルジーを発動させる。玩具的な見た目と機能がそれを増幅し、ミュージシャンでない層にも訴える — 中古市場の法外な価格の説明になる。実際の制作やライブとなると話は全く別。
- 確かにキーターだし MIDI OUT があるからステージで他の電子楽器を鳴らしつつギタリストの尻を蹴っ飛ばせる。だがミニ鍵盤とベロシティ無しはその場面でかなり萎える要素。80年代のチープさは皆好きだが、プリセット固定の2オペ音源と伴奏トラックはむしろ Kraft Singles だ — 本物とはほぼ無関係だが、人生には有難い場面もある。
- 特に Syn と Bass のパッチは良い、ただ同系統が他に無いので孤独に見える。「白鍵と黒鍵に苦戦していたのは丸わかりだったと思う、最後まで付き合ってくれてありがとう」。「あと今気づいたが、実質同じ曲を3バージョン作っていた。すまん」。締めはいつもの like と subscribe、次に見たい機材をコメントで。