Korg の MPC ゼロ

Bad Gear - Korg MPC ZERO

この回の結論

2s は、Akai がまだ涙の谷を歩いていた時期に、オリジナルの electribe 勢と MPC 勢の両方を満足させようとした Korg の試みであり、その両方に失敗した。直前の世代が持っていた重みと手本のような UI が無く、第一世代のシンプルさと個性も消え、サンプリング機能は構造的に欠陥を抱え、トラックを仕上げる道具としてのシーケンサーは MPC の足元にも及ばない。第三世代の electribe が待たれて久しいのは言うまでもないが、最近の Korg の「革新的な機材を出す」実績を見る限り、次のグルーヴボックス群は製品設計思想を根本から変えたあとに出してくれることを祈るしかない。

何を喋っているか

  1. 「世界一嫌われたオーディオ機材の番組」へようこそ。電子楽器の進化は謎めいている、と切り出す。デザインと「1平方インチあたりのギラギラ感」とワークフロー原理主義の分野では目覚ましい進歩を見たのに、今日のスペックシートはヴィンテージ機の機能表にしばしば負けている
  2. 今回は electribe 2 sampler。2015年に市場に出た、あの Groove Machine 系列の最新作。前述の制約に加えて製品ファミリー伝統のプリミティブさを併せ持ち、おまけに先代と並べると見た目まで相当ひどく見せることに成功した一台。
  3. 一見して 2s の配色は主張が強い。「肉のパテにスライスしたプンパーニッケルはいかがですか」と言わんばかりの塗装。疑わしいペイントジョブは脇に置くとして、16パッドのこの機械は中身としてはサンプラー無しの兄弟機と同一で、保証を無効にするファームウェアハックを当てれば両方でサンプリングと追加機能が開く。
  4. ハックしない素の状態でも、ダンスミュージックの定番素材は山ほど入っている。ループ、フレーズ、ドラム、そして基本的な VA オシレーター。
  5. SDカードから自前のサンプルを読み込むか、本体の分かりやすいサンプリング機能を使える。ただし録った音は永遠に12kHz帯の耳障りなトーンに汚染される。これはもちろん到底許容できないが、丁寧なゲインステージングで回避はできる。オシレーターの音色とサンプルのスタートポイントを直感的にいじれるのはありがたい。
  6. 素の音は簡略化されたシンセエンジンを通る。デジタル臭いが使えるフィルターがハイ/バンド/ローの3種類あり、頭を悪くしたエンベロープで変調できる。このエンベロープが、他は割と完成しているシンセ構造の最大の弱点
  7. 多用途な LFO があり、エンベロープはアンプリチュードにも適用できる。使いやすい点は気に入ったが、AUXセンドが原始的でマスターに直結されている。
  8. マスター側にはリバーブを含む別のエフェクト群があり、カオスパッド式のパッドで編集できる。気に入った設定を見つけた時のためのホールドボタン付き。このパッドはスケールに基づく演奏や、Korg が言うところのゲートアルペジエーターにも使える。16パートは最大4声ポリ。
  9. パートを制御するシーケンサーは比較的パワフルだが、総発音数24という制限のせいでノートスチール(発音の食い合い)が問題になり得る。ハンズオンなグルーヴボックスに見えて、重要な機能は「終わりが無いのに底は浅い」メニューの奥に隠れている。
  10. ポリリズムやスウィング、グルーヴの設定は便利なままだが、サンプルとパターンの編集は神経をすり減らす場面がある。パラメーターロック、コンディション、プロバビリティといった現代的なシーケンス機能が無い。傷口に塩を塗るように、パターン長は直前の先代の8小節から4小節に減らされている。サンプル管理の思想も好きになれない。ステレオ音源は2パートを消費し、サンプルメモリも決して潤沢ではない。
  11. コードモードが短縮ダイヤルに割り当てられ、ステップジャンプも良い工夫。ファームウェア更新でパターン切り替えは多少滑らかになった(完璧ではないが)。リアパネルはミニジャックだらけで、マスターアウトだけが例外。MIDI では外部機材16台を独立してコントロールでき、これは特筆に値する。Ableton Live 互換の書き出しやイベントレコーダーで、自分の創作物を後世に残せる
  12. いろいろ文句は出ているが、この個体の MPC 風パッドはしっかりしている。ただし「ワイルドスピード」的なアンダーグロー発光は無くていい。貸してくれた Klangfarbe に感謝、ただしその展示処分品でさえもっと新しいグルーヴボックスより高い。electribe シリーズ特有の音と取っつきやすさは電子音楽に深い影響を与えた。2s はその遺産に値するのか、それとも Korg の MPC ゼロにすぎないのか。
  13. 今日のイントロ曲で既に electribe の音は聴いている。ストックのサンプルはこの用途には理想的とは言えず、シンセ機能が minilogue の職を奪うことは無い。ここで electribe 単体のソロジャム。
  14. そこまで悪くなかった。ストックサンプルのローファイな質感はこのジャンルにうまく合う。もっと深いシンプルなトーンが欲しかったとはいえ、VA オシレーターから使えるベース音は絞り出せる。
  15. 次は DAWless の中心機材としてどう振る舞うかを確認する。カスタムサンプルを読み込み、この機械の限界を埋め合わせるために何台か専門家を追加する
  16. 楽しさより作業のほうが多かった。ノートスチールは何とか抑え込めたものの24声は多くないし、常時オンのクオンタイズの妙な挙動に苦しめられた。箱から出したままの 2s の音はやや一次元的に感じる。
  17. 作ったグルーヴボックスの素材を Ableton に移してダウンテンポのリミックスへ。題材は70年代の刑事ドラマのモンタージュ曲、しかも1シーズンで打ち切りの原因になったやつ
  18. Verdict。2s が、オリジナルの electribe 層を満足させつつ、Akai がまだ涙の谷を歩いていた時期に MPC 層への代替も提示しようとした Korg の試みだったのは明らかで、そして両方に失敗した。直前の先代が持っていた重みと手本のような UI が無い。
  19. 第一世代のシンプルさと個性は消え、サンプリング機能は構造的に欠陥があり、トラック制作という点でシーケンサーは MPC の足元にも及ばない。第三世代 electribe がとっくに出ていて然るべきなのは言うまでもないが、革新的な機材を出すという Korg の最近の実績を思えば、次のグルーヴボックスは製品設計思想を根本から変えてから出してくれと祈るしかない
  20. 締め。いつもの「観てくれてありがとう、また次回」。高評価・チャンネル登録・パトロン・そして次に取り上げてほしい機材のコメントを募集。