ついに来た

Bad Gear - FINALLY!!!

この回の結論

ドイツやスウェーデンの競合ほど文化的な存在感は無いが、名機と呼ばれるだけの理由がある。趣味の悪い青いプラスチックの奥に、柔らかくクリーミーな音が得意な、幅広くて良い音のエンジンが入っている。操作が難しいわけではないが、作業の流れは時々古臭い。UI の考古学が苦手なら Reface CS のような今の Yamaha の方が楽かもしれない。「もうこういうのは作られない」という定番の愚痴で締めるのは簡単だが、今回に限っては、良くも悪くも本当にそうかもしれない。

何を喋っているか

  1. 「世界で最も嫌われているオーディオツールの番組、Bad Gear へようこそ」。90年代の人たちは、つまみ付きのバーチャルアナログ・ポリシンセに関しては選択肢に恵まれていなかった。
  2. 象徴的なスーパーソー、北欧の氷風呂、いまだに今のシンセの9割より良い音がするあの機種、そしてUli Behringer ですら3メートルの棒でも触りたがらないあの機種。そして今日は、ついに1997年の Yamaha AN1x。なぜこんなに時間がかかったのか自分でも分からない。青い筐体を見るとトランスの爆音がフラッシュバックする。Yamaha は CS1x のケースをほぼそのまま流用し、
  3. 中にバーチャルアナログ技術を詰めてリボンコントローラーを載せた。証明はできないが、この技術が謎の VP・VL シリーズから来ていても驚かない。シンセオタクの陰謀論はさておき、上位の競合機ほどつまみは多くない。
  4. それでも、少しひねりの入った比較的まっとうなシンセエンジンは、少なくとも90年代半ばの基準では十分に張り合える。
  5. 定番の VA オシレーター2基+ノイズ。シンクでき、PWM も効き、周波数変調もできるので、意外と本格的に DX7 ごっこができるし、アナログっぽくない心地よい音も出る。
  6. リングモジュレーションは Yamaha の伝統。シンクを入れると追加の波形が使え、生の波形は edge パラメータでフィルター前に角を丸められる。この凝った周波数のカクテルを、シンプルなハイパスと、シンプルとは言えない VCF に通す。
  7. なめらかなローパスが何種類か、ブザーっぽいバンドパス、バンドリジェクト、さらにハイパス。いい。フロントパネルには LFO 2つと ADSR エンベロープ3つが素直に並んでいる。ただ、もっと複雑なモジュレーションは、分かりにくいメインのマトリクスに潜る必要がある。
  8. そのマトリクスには残念ながらデータエンコーダーが無く、節約された UI に詰め込めなかったパラメータが全部ここにある。マルチエフェクト、リバーブ、ディレイ、EQ で音を仕上げられる。さらに、シンセの上位構造を管理するための道具もたくさんある。
  9. 10音ポリを、シーンと呼ばれる2つの独立したパッチで分け合う。シーンはレイヤー、スプリット、分厚いユニゾンに組める。モジュレーションホイールで、あるパッチ構成から別の構成へなめらかにモーフィングもできる。
  10. ここから少しややこしい。フリーEG は4トラックのオートメーション・シーケンサーで、他のパラメータにも使える。さらに16ステップのシーケンサーと、満足できる強力なアルペジエーターまで入っている。
  11. 同じようなエンジンは小型グルーヴボックス AN200 にも入っている。このシンセは今でも Behringer DeepMind より少し高い値段で取引されている。叩き潰されるほど使われた昔の Nord や Roland とははっきり違う音を出す、ちょっと珍しい90年代の名機。その柔らかい音色は今でも通用するのか。
  12. イントロの曲で既にこのシンセを聴いている。重みと厚みのある、センスのいいチームプレイヤー。合格。テンポを上げて、さらに深みにはまってみる。
  13. これなら使える。つるっとしているのに力強いベース、いくらでも出てくる80年代のドラマ、そしてちょうどいい量の初期 VA のレトロフューチャー感。音作りは簡単だが、いつも楽とは限らない。次は、行き先のないフィルターいじりと、あまり典型的でないパッチを組み合わせる。
  14. 2本目のジャム。
  15. ここでは楽器のデジタルな性格がはっきり出る。誰にでも好かれる音ではないが、特に大きなセットの中では確実に役に立つ。リボンコントローラーは意外なほど古びていない。トランスのプリセットを90年代末風の怪しい犯罪に仕立てたい誘惑は強いが、異星人の宇宙飛行士の入植者と不気味な大工のための、インストのスペースウェイヴ映画サントラに使えるか試す。
  16. 3本目のジャム、そして結論へ。
  17. 結論。AN1x は、ドイツやスウェーデンの競合ほど文化的な存在感は無いが、名機と呼ばれるだけの理由がある。お世辞にも趣味がいいとは言えない青いプラスチックのパネルの奥に、柔らかくクリーミーな音が得意な、幅広くて良い音のエンジンがある。操作は頭を使うほど難しくないが、作業の流れは時々古臭く、
  18. UI の考古学が趣味でないなら、Reface CS のような今の Yamaha の方が楽かもしれない。「もうこういうのは作られない」という愚痴で締めるのは簡単だ。でも今回に限っては、良くも悪くも本当にそうかもしれない。