Texture Lab

Bad Gear - Texture Lab

この回の結論

エントリークラスのハードウェア・グラニュラーは普段まったく好きではないのに、この汎用性の高いエンジンと大人びた音、手で触れるインターフェースには嬉しい驚きがあった。ただし今どきのサンプラーの多くが同等以上のグラニュラー機能を積んでいるし、サンプルレートとメモリの制約、貧弱な接続性、視覚フィードバックの欠如のせいで、Blackbox や Digitakt、もっと安い Roland P-6 あたりの予測可能な結果と整理されたワークフローが恋しくなった。アナログ純粋主義者はハードウェアシンセ優位の福音を広めるのが得意だが、そろそろ iPad 信者と DAW 使徒の側から「ハードのグラニュラーは同じものじゃない」と言ってやる番だと思う。もっとも彼らは音楽を作るのに忙しくてそれどころではないだろうが。

何を喋っているか

  1. 世界一嫌われたオーディオ機材の番組へようこそ。音響合成が一族だとしたら、グラニュラーは地下室に引きこもったネット常駐の遠い親戚だ — ザトウクジラの鳴き声を聴き、月の満ち欠け次第で石器時代ケトか、ヴィーガン向け戦闘糧食かを食い分けている、あの手のやつ。
  2. 今日は 2023年の Sonicware Liven Texture Lab。グラニュラーをソフトウェアという自然の生息地から引きずり出してきた機械だ。UI にはこの手法をいくらかでも制御可能にするためのまともな視覚的手がかりが一切なく、サンプルメモリは金魚の脳みそ2匹分。一見すると Volca Pro が Boutique と出会ったような「全部入り」チェックリストを満たしている。粒に優しいプリセット音に加え、32kHz モノラルで最大6秒のオーディオを32個のサンプルスロットそれぞれに録音でき、控えめな数のノブでグラニュラーの拷問器にかけられる。
  3. ノブは控えめ、しかもシフトボタンは1個ではなく2個。アンチ・シマーリバーブの怨念を思う存分ぶちまける前に、まず舞台裏を見ておこう。グラニュラーシンセは基本的にサンプラーだが、より実用的な親戚たちと違って、目指すのは高忠実度の屁の音再現ではなく、しばしば抽象的な音響風景を作ることだ。
  4. しかも堂々とデジタルなサウンドスケープ。この音はオーディオファイルやライブ入力ストリームのごく小さな断片を再生することで得られる。仮想の再生ヘッドを置き、そこから「グレイン」を取り出す範囲を決める。
  5. 生成されるグレインの数を決める density をダイヤルし、grain size と形状、タイミング、再生スピードを調整する。
  6. グレインをステレオの左右にばらまき (spray)、これらの設定をランダマイズしてモジュレーションでめちゃくちゃにする。モジュレーションといえば、汎用性の高い LFO が2基あり、上記のパラメータへ自由にルーティングできる。一方アンプエンベロープはかなり素っ気ない。さらにややプラスチッキーなフィルターで音を整えることもできる。
  7. グラニュラーのパッチはどうしてもブツ切れに聴こえがちなので、リバーブをたっぷり足すのが定石だ。この機体の場合は賛否の分かれるシマー系に強く寄ったリバーブで、グラニュラー処理していない素のサンプル再生をブレンドする手もある。そして驚くべきことに Texture Lab には USB 接続が一切ない。
  8. だから昔ながらのサンプリング (リサンプリング機能あり) に頼るか、変換したファイルを MIDI SysEx で送るかしかない。SysEx は死ぬほど時間がかかる。前述のとおり外部オーディオのリアルタイム処理はよく効く。4声のポリフォニーは本体のゴムっぽい鍵盤、MIDI、あるいは完全にオーバースペックな128ステップシーケンサーで鳴らせる。パラメータロックも可能。
  9. アナログ SYNC あり、電池駆動あり、お約束のショボい内蔵スピーカーあり。ディスプレイは仕事に全然追いついていないし、5ピン MIDI とオーディオのミニジャックが同じ機体に同居しているのは軽い認知的不協和を起こす。実機を貸してくれた Klangfarbe に感謝。グラニュラー技術はソフトウェアの世界で重要な役割を果たしているが、これを全部、
  10. まともなディスプレイも接続性もない「ローテクなプレミアム Volca」に詰め込む意味はあるのか。今日のイントロで既に Texture Lab の音は聴いてもらった。あれは Bad Gear 史上最悪のイントロ トップ10 に文句なしで入る出来だ。まずは楽器の長所に集中して1本目の Jam。
  11. かなり気に入った。パッチを重ねるとやや耳に痛くなることもあるが、全体のトーンはモダンでシネマティック。
  12. プリセット音は数こそ少ないが、この文脈ではよく機能した。次は自分でサンプルを録って、思い切りいじってみる。
  13. 正直まだ自分が何をやっているのかほとんど分かっておらず、倍音を抑え込むのに苦労した。サンプリングはよく効くし、シーケンサーのワークフローも好みだ。Texture Lab から出てくる音はどれもアレンジ上の場所を大量に食うので、いつもより遅いテンポを選ぶことになった。もっと速い曲でも成立するのか試したい。「グラニュラー、二度とやるな」「粒なくして痛みなし」128 BPM の聴覚ブレインロック。
  14. Verdict。エントリークラスのハードウェア・グラニュラーは普段まったく好きではないのに、汎用性のあるエンジン、大人びた音、手で触れるインターフェースには嬉しい驚きがあった。ただし今どきのサンプラーの多くが同等に強力なグラニュラー機能を積んでいるし、サンプルレートとメモリの制約、劣った接続性、視覚フィードバックの欠如のせいで、
  15. たとえば Blackbox や Digitakt、あるいはもっと安い Roland P-6 の予測可能な結果と整理されたワークフローが恋しくなった。アナログ純粋主義者はハードウェアシンセ優位の福音を広めることで知られているが、そろそろ iPad 信者と DAW 使徒の側から「ハードのグラニュラーは同じものじゃない」と教えてやる番だ。もっとも彼らは音楽を作るのに忙しすぎるだろうが。
  16. いつもの締め。いいね・チャンネル登録・Patreon 支援・コメントの呼びかけ。今月のグラニュラー・シャウトアウトへ。「サンプルを全部この機械に入れるのに夜の半分がかかった。残りの半分はプリセット音に戻すのにかかるだろう」。以降は Tier 4 以上のパトロン名読み上げ。