この回の結論
Mavis は、クラシックな Moog サウンドに West Coast 的なひねりを加えたものを比較的安く自分の音楽に組み込める手段だ。ただし極小のコントロール類と疑問符の付く全体設計が用途を大幅に狭めていて、Eurorack 環境への追加としては確かに価値があるものの、単体モノシンセを探しているならもっと使い勝手のいい選択肢はいくらでも見つかる。本物の Moog を買う理由は音以外に山ほどある — シンセ史の一片を所有すること、オリジナルブランドとそこで働く人たちを支えること、堅い再販価値、そして「音がダサいのは十中八九シンセのせいじゃない」と分かっていること。だが DIY キットで、原産地表記がどこにも無く、しかも Moog Music の従業員が労組結成運動をしている最中に発売された製品に、それが当てはまるかは分からない。
何を喋っているか
- 「世界一嫌われてるオーディオ機材の番組」Bad Gear へようこそ。電子音楽の暗黒時代、シンセは巨大で大多数の人間には手が届かなかった。
- それを変えたのが Bob Moog と伝説の Minimoog で、「トラックを買える経済力さえあれば誰でもシンセを持てる」ようになった。今回はその歴史的偉業の系譜に立つように見える 2022年の半モジュラー DIY キット、Mavis。ただし 1971年以降でシンセの風景は激変したし、トラックの方もちょっと変わった。
- 見た目はヴィンテージの Radio Electronics 誌のチェックボックスを全部埋めにいく感じ。Eurorack 互換設計、MIDI は完全非搭載、簡素なラバーボタン鍵盤、Volca 風の小さいノブ、そしてお馴染みの面々+やや意外な行き先も含んだミニジャックのパッチベイ。
- Moog のシンセとしては特に珍しい構成。心臓部にあるのは孤独で素朴なオシレーター1基のみ、ノコギリ波とパルス幅可変のパルス波。それを象徴的な Moog ラダーフィルターに通す。ベースを喰い散らかす、これまた象徴的なレゾナンス付き。
- 飾り気は無いが超高速な ADSR が1系統、LFO が1基 — いや、本当に LFO だけか? ウェーブフォルダーは通常 Buchla 系の West Coast シンセシスに紐付く代物だが、Moog は親切にも 自社楽器を初めてかすめるウェーブフォルダーを積んできた。
- ウェーブフォルダーは三角波やサイン波のような倍音の少ない波形に掛けた結果の方が個人的には好み。それでもシンセの音の語彙は確実に広がる。残念ながらウェーブシェイピングのパラメーターは変調できないが、モジュラー好きなら回避策を必ず見つけるだろう。
- モジュラー的な使い勝手の話。簡易ミキサーもある。LFO はウェーブフォルダーに送って追加オシレーターとして使える。サンプル&ホールドの用途は古典的な R2D2 のピコピコを大きく超える。アッテネーターも重宝する。
- あまり一般的でないジャンルの人間はドローン向きの VCA モードスイッチを喜ぶはず。音楽理論を無視しにかかる keyboard scale ノブ、mod mix パラメーターで得られる微妙な、そして全然微妙じゃない音色のニュアンス。VCO と鍵盤のキャリブレーションは筐体を開けずにできる。
- ミニジャックはこのゲームの一部。丁寧に用意されたはんだ付け DIY キットで内なる子供を解放できる。低シリアル番号の Mavis を貸してくれた上に組み立て済みユニットまで用意してくれた synth Anatomy の Tom に感謝。Model D よりずっと安い出費で Moog オーナーという排他的クラブの会員になれる — おかげで単なるモジュラーのギミック兼教育用音楽玩具以上のものになっている。
- 冒頭のイントロ曲で既にこのシンセの音は聴いている。生々しいアナログで、1オシレーター楽器としては驚くほどパンチがある。ここから基本的な音色を一通り探っていく。
- 「そんなに悪くなかった」。メインオシレーターと組み合わせたときのウェーブフォルダーの効きにはもっと分かりやすい変化を期待していた。ただし一部の音色は Moog に期待する範囲を明確に飛び越えてくる。
- 全体の品位は上等なのに、マルチオシレーター構成に伴う深さと重量感が足りない。そこで Uli (Behringer) の傑作の一つをベース担当として投入し、Mavis のパッチをさらに重ねて時空を歪めにいく。
- ジャムに時間を掛けすぎた。モジュラーの中毒性のせいだけでなく、この気まぐれなアナログ2台をチューニングで揃えるのに時間が掛かるから。Mavis の極小ノブとファインチューンの不在はここで一切助けにならなかった。
- 散々パッチしてツマミを回した割に、出てくる音の大半はまだ普通のモノシンセ素材の域。快適圏の外に押し出せるか試すため、ドラムまで含めたアレンジ丸ごとを Mavis で作る — 海岸から遠く離れた Moog 的モジュラー・マイクロなんとか。
- Verdict。Mavis はクラシックな Moog サウンドに West Coast シンセシスのひねりを加えたものを、比較的安く自分の音楽に取り込める手段。とはいえ小さすぎるコントロール類と疑問の残る全体設計が用途を大きく制限する。
- Eurorack 環境への追加としては確かに価値があるが、単体モノシンセを探しているならもっと便利な選択肢が簡単に見つかる。本物の Moog を買う理由は音質と無関係なものが多い — シンセ史の一片を所有する、オリジナルブランドとそこの人々を支える、堅い再販価値、そして 「音がダサいのは十中八九シンセのせいじゃない」と分かっていること。
- ただし DIY キットで、原産地表記がどこにも無く、しかも偶然にも Moog Music 従業員の労組結成運動の最中に発売され、UI は KORG Volca Bass に負けている製品にそれが当てはまるかは分からない。Moog を巡る最近のニュース (字幕では詳細不明) を思えばこれで怒っても仕方ない。「とにかく Akai 印の Moog (機種名の聞き取り不確か) の発売を楽しみにしてる」。
- 恒例の締め。高評価・チャンネル登録・Patreon 支援、そして次に見たい/聴きたい機材をコメントで教えてくれ。