Moog Spectravox

Bad Gear - Moog Spectravox

この回の結論

Spectravox は、Moog が長年作ってきた同系統の楽器へのオマージュだ。似た製品、特に Eurorack モジュールの世界を探せばいくらでも見つかるとはいえ、これを世に出したこと自体はメーカーとして大胆な一手と言っていい。今日の基準ではボコーダーとしてまるで使い物にならないが、音声処理能力、面白い変調の選択肢、そしてシンセ音そのものは評価できる。ただし本領を発揮するのは兄弟機か、それなりの規模のモジュラー環境と一緒にいる時だけ。新生 Moog への批判にはもっともな部分もあるが、少なくともここの機材はクラウドサービスに加入しなくても全機能が使える。

何を喋っているか

  1. 世界一嫌われたオーディオ機材の番組、Bad Gear。ここ数ヶ月、Moog は良くも悪くもニュースに事欠かなかった。今日は Spectravox。
  2. 「郊外の親父向け CS-80」も「完全 AI フリーで音楽を生成する Buchla のパクリ」も回ってこなかったのは、たぶんネット中のシンセ人間で自分だけ。仕方なく、20年前に出した例の FX ペダルの高い版みたいな変わり者を引き受けるハメになった。一見 Spectravox は半モジュラーの定番要素を押さえている。Eurorack の誘惑には耐える。
  3. シンプルなアナログオシレーターはノコギリ波とパルス波を選べ、パルス幅は可変かつ変調可能、ノイズ源とブレンドできる。外部キャリア信号も手軽に突っ込める。この音源部には VCA と簡素なエンベロープが付く。
  4. トリガーは専用ボタン、外部オーディオ、あるいは CV/ゲート演奏で。10バンドのフィルターバンクが2組: 一方はアナリシス用 (後述)、もう一方が実際の音作り用。8基のバンドパスに、わりと普通のハイパス/ローパスが加わる。
  5. ローパスは古典的な 12dB のシンセ的トーンと、自己発振しないレゾナンスを出す。このレゾナンスのパラメーターはバンドパス群にも同時に効く。
  6. フィルターは不等間隔に配置され、個別ではなくスペクトラルシフト・パラメーターでまとめてしか動かせない。内部 LFO かモジュレーション入力に挿したものでこれを変調する。フィルター9と10は、メインのノイズ源とは独立したフィルタードノイズに差し替え可能。
  7. 明瞭度の話。言っておくが明瞭度は最悪で、まともなボコーダーに慣れた人間は失望する。ただし固定のアナリシス・フィルターバンクは、バンドごとに周波数依存のコントロール電圧を生成でき、通常はシンセシス側フィルターへノーマル接続されてボコーダーの仕事をする。
  8. アナリシスのスペクトラムは HOLD ボタンで凍結できる。VCA のドローンモードはルームメイトを発狂させるのに最適。外部音源をモジュレーション源とキャリアの両方に突っ込むと一気に面白くなり、ポリフォニックな音まで出せる。
  9. リズミックなパターンも作れるし、単純なパッチでいい感じのトーナル・パーカッションが組める。初期の Moogfest 版にあったフェーダーの視覚フィードバックが無いのは惜しい。完全モノラルの信号経路も、この種の機材としては理想的とは言えない。inMusic 傘下になった割にビルドクオリティはそこまで落ちていない。
  10. とはいえ MIDI 無しの超特化ニッチ楽器に700ドルは決して安くない。まあ Moog Sound Studio 愛好家はどうせ遅かれ早かれ買う。Moog のもっと派手な新作の陰で、Spectravox みたいな変わり者は簡単に見落とされる。ただの出来の悪いボコーダーか、それともサウンドデザイナーの秘密兵器か。イントロ曲で既に鳴っている通り、普通寄りの音も恥ずかしくない出来だが、そこ目当てで来た人はいないだろう。
  11. もっと取っつきやすい兄弟機と組ませて、レゾナンスを11まで上げる。
  12. 嬉しい誤算。レゾナンスを上げた時の喉を絞ったような質感が好きだし、フィルターバンクはとにかく弄り甲斐がある。ただし原始的なエンベロープは本気で足枷になる。制約の話ついでに言えば、内蔵オシレーターもこれ以上ないほど単純。
  13. アナログとデジタルの定番機を何台か繋ぎ、ステレオ機能が無い分をエフェクトで埋める。
  14. いい。巨大な Eurorack システムに投資しなくても複雑な変調が簡単に組める。他のシンセを足せば複雑でパラフォニックな音も出る。それでも Spectravox が最も万能な半モジュラーでないのは確か。
  15. DAW の全能さでさらに音の幅を絞り出せるか試す。理由は自分でも分からないが、最近このチャンネルは DAW 締めの回が多すぎる。アナログ・オールドスクール、行くぞ。
  16. Verdict。Spectravox は同系統の Moog 製品の長い歴史へのオマージュ。似たものは特に Eurorack モジュールに山ほどあるが、これを出したのはメーカーとして大胆な一手。今日の基準ではボコーダーとしてまるで使えない。それでも音声処理能力、変調の選択肢、シンセ音は評価する。
  17. 本領を発揮するのは兄弟機かそれなりのモジュラー環境と一緒にいる時だけ。新生 Moog への批判にはもっともな部分もあるが、少なくともここの機材はクラウドサービスに加入しなくても全機能が使える。いいねと登録、Patreon、コメントで見たい機材のリクエストを。
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