FM音源をミームで解説

FM Synths Explained with Memes

この回の結論

FM は 1983 年から進化していて、波形もオペレーターもアルゴリズムも増え、マクロコントロール・フィルター・内蔵エフェクトといった実用的なワークフロー改善も入った。ただしクラシックな FM の基礎さえ頭に入れてしまえば、あとは全部が人生を楽にする方向にしか働かない。というわけで、今どの FM シンセを買うにせよ、このミーム講座が役に立てば幸い。

何を喋っているか

  1. 音響合成のラスボス、周波数変調 (FM) に挑む回。「このテーマの優れた解説は世に山ほどあるが、たいていは中身を教えてくれる前に不眠症を治してくれる」ので、ミームで説明すると宣言。FM 自体は無線通信で何十年も使われてきた技術で、音楽への最初期の応用は 60 年代半ばのアナログ Buchla 機だったと切り出す。
  2. ただし今日我々が知っている (「必ずしも愛してはいない」) FM に必要な精度は、デジタル音源のほうが出しやすい。John Chowning の 1967 年スタンフォード特許から、悪名高い E Piano 1 プリセットに至るまでは長い道のりだった、という流れ。
  3. そのプリセットは 1986 年の US ビルボード Hot 100 の 1 位曲の 40% で使われた。Yamaha は 70 年代を丸ごと Chowning の研究の改良に費やし、最初の商用 FM シンセ GS1 が出たのは 1980 年。「同時期に Synclavier が何をやっていたかを完全に無視すればの話だが」と一言添える。世界征服は DX7 の台頭で達成された。
  4. 豆知識として、DX7 は実はフェーズモジュレーション方式で、FM と数学的にほぼ同じ結果が出る — 「その理由は怒れるオタク集団がコメント欄で必ず指摘してくれる」。1983 年の DX7 発売後は、ベル・エレピ・マリンバといった生楽器/電気楽器のエミュレーションの定番武器になったが、その後サンプリング技術に徐々に取って代わられた。
  5. 同じ頃 YM2612 のような FM チップがアーケードゲームやコンシューマ機に入り込み、あの粗いデジタルサウンドを今日に至るまで本気で好きだと思い込むよう、一世代まるごと洗脳した。「チープで扱いにくい」という評判とともに FM は一度忘れ去られかけた。1998 年の FS1R は伝統的 FM 楽器の頂点かもしれないし、FM7 や Sytrus といったプラグインも技術を若い世代に届けた (原文は「90 年代初頭」と言っている)。
  6. 本格的な復活は 2010 年代半ば、KORG volca fm と Elektron Digitone 世代から。そして FM 理解の第一歩は「ハードシンセを使わないこと」という物議を醸す提言。クラシックシンセのしばしば悪夢のような UI こそが FM の悪評の主因で、ソフトの視覚フィードバックが学習曲線を劇的に平らにするから、という理屈。
  7. 使うのは Dexed。無料で、事実上あらゆるプラットフォームで動き、DX7 完全互換だから。FM シンセの中核にあるのが悪名高いオペレーターで、普通のシンセのオシレーターに相当する。伝統的にはサイン波を出すが、TX81Z のような 80 年代末の機種はもっと複雑な波形を積んでいた。
  8. ここでは教育目的でサイン波に絞る。FM にはオペレーターが 2 つ以上必要で、最も単純な形では「聞こえるほう」がキャリア、「聞こえないほう」がモジュレーター。モジュレーターはキャリアに意味を与える存在。
  9. そのやり方は、バイオリン奏者がビブラートをかけるのとよく似ている — ただしもっと速い。両者の関係はレシオと呼ばれ、ピッチの差を定義する。書き方はスポーツの試合結果みたいなもの。1:1 はごく一般的で、キャリアとモジュレーターが同じピッチ。そして両者の差が開くほど、たいてい音は汚くなっていく。
  10. モジュレーターがキャリアより低いレシオを選ぶと加点、小数点以下の数字を恐れないともっと加点。FM の「えげつなさ」の量はモジュレーターのレベルで調整できる
  11. 手で動かしてもいいが、音楽的に気持ちいい音にはエンベロープを使う。他のシンセと同じで、パラメーター (ここではモジュレーターレベル、つまり FM の量) の時間変化を決めるもの。DX7 が「プログラムが本気で面倒くさい」と言われる理由は、威圧的なフロントパネルに加えてエンベロープにもあった。
  12. 普通のアナログシンセの ADSR より複雑なうえ、値を大きくすると時間は短くなるという代物。ここさえ飲み込めば 2 オペの簡単なパッチは作れる。長めのディケイと 3.5:1 のレシオで粗いベル音。
  13. 2:1 のレシオに速いディケイなら、ハードスタイルの原型みたいなキックも出る。「FM について知るべきことはだいたいこれで全部。ご視聴ありがとう、また次回」— と見せかけて本編続行。Yamaha Portasound のような一部の基本的な楽器を除けば、FM シンセのオペレーターは 2 つより多い。ソリッドなベースなら 4 オペで作れる。
  14. ただし、もっとニュアンスのある音には DX7 の 6 オペレーターが要る。2 つを超えるオペレーターの管理に使われるのが、いわゆるアルゴリズム。
  15. 「そう、ヴィンテージシンセに描いてある例のおかしなグラフィックのことだ」。一番下の列にいるオペレーターが全部キャリア、つまり聞こえるほう。その上の構造が「誰が誰を変調しているか」を教えてくれる。opsix のような現行機ではアルゴリズムを自作できるが、多くの機種では固定。
  16. 構成は「1 本のキャリアを重厚に変調するもの」から「2 オペの組み合わせが並んだ幕の内弁当」まで幅広い。つまり2 オシレーターの減算式シンセを下手くそに真似るのに必要なものは全部揃っている。加算合成寄りのアルゴリズムもある。
  17. 他の合成方式の話ついでに、DX7 のような FM シンセに無いものもある。ノイズがその一つで、これはフィードバックの導入で作れる。しょぼい FM スネアも、いかにもデジタルなノコギリ波も問題なし。
  18. 単純なサンプルベース楽器に対する FM の大きな利点は表現力。DX7 は優秀な鍵盤を積んで出荷され、プリセットはベロシティとアフタータッチに大きく依存していた — 「実際に弾ける人向けに」。ここからパッチの詰め方。グランドピアノなど生楽器は高音域ほど明るい音色になる。
  19. その挙動も、「この惑星上では自然に起こりえない無数のこと」も、キースケーリングで再現できる。そう、DX7 の 3 番目の図がそれ。LFO とピッチモジュレーションは非 FM シンセとほぼ同じ。そしてFM の音をどうにか聴けるものにするのに必要なコーラス・リバーブ・ディレイの、しばしば馬鹿げた量に驚くことになる
  20. 1983 年以降の進化として、波形もオペレーターもアルゴリズムも増え、マクロコントロール・フィルター・内蔵エフェクトといった実用的な改善も入った。ここから最もミーム的な DX7 プリセットの解剖。まずは E Piano 1 — 史上最も使い倒されたシンセ音だが、構造は比較的わかりやすい。独立した 2 オペの音が 3 組。
  21. うち 1 組はモジュレーター側を高いレシオにして鼻血が出そうな 80 年代倍音を出す担当。残り 2 組は 1:1。片方はフィードバックを全開にしてざらつきを足し、2 組はわずかにデチューンされている — 当時「オーガニックな感じ」と呼ばれていたやつ。まさに定番。
  22. 続いて Bass 1。見た目より複雑。オペレーター 1 はまずオペレーター 2 によってメロウな Sega Genesis ベースに変えられ、さらに別のモジュレーターで角が取られる。そのうえでモジュレーターを変調するモジュレーターによって、危険地帯直送の金属的な化け物へと変貌する
  23. フィードバックが最大なのに、オペレーター 5 と 6 は高域の存在感を少し足す程度の仕事しかしていない。キースケーリングの好例。最後は Referee Whistle (審判のホイッスル) — おそらく DX7 最悪のプリセット。効果音やドラム用の固定周波数オペレーターの使い方を示すためだけに入れた、とのこと。
  24. ミームベースの FM 講座はここまで。高評価・チャンネル登録・Patreon 支援、そして「どの現行 FM シンセを買うにせよ」概要欄のリンクからの支援をよろしく、と締める。