この回の結論
Roland TR-08 は、Boutique ラインで最も美しく、同時に最も実用的でない楽器かもしれない。箱から出してすぐ良い音が鳴るし、ヴィンテージなデザインは最高にかっこいい。だが少なくとも自分にとっては、ライブでも音楽制作でも決め手にならない。シーケンサーにジャム向きの道具は揃っているが、リアルタイムでのパターン作りと即興は全然快適じゃない。しかも我々はもう、オリジナルの実機では作りようがない 808 サウンド (トラップのハイハット、きっちりチューニングされたキックのベースライン、スネアのピッチモジュレーション) に慣れてしまった。authentic ではないにせよ、TR-08 のようなデジタル楽器なら実装は簡単だったはずだ。
何を喋っているか
- 世界で最も嫌われたオーディオ機材の番組 Bad Gear へようこそ。最近 Roland Boutique の話題が多い。UI に関してだけでもオリジナルより実際に改善されている最初の Boutique が出るのを楽しみにしている。それまでは手元にあるもので戦うしかない。今回は TR-08 だ。
- 2018年のこのドラムマシンは、Roland が 808 の栄光を蘇らせようとした 2回目の試み。2014年の AIRA TR-8 が「毛染めを切らしたビートルジュースのミス・アルゼンチン」みたいな色で、しかもオリジナル並みにデカくてゴツかったのに対し、TR-08 は逆に滑稽なほど小さい。
- 「Roland、1972年以来ずっと中庸を模索中」。Roland 機らしくチェック項目は全部埋まっている。80年代のレジェンドをほぼ忠実にミニチュア化し、ボタンを3つ追加、オールドスクールなディスプレイ、外部のレトロなシーケンスを押してやるためのトリガーアウトまで付く。
- シーケンサーのボタンとドラムボイスのコントロールにはあの象徴的なカラーリングが入っている。ただ、自分みたいに手が小さくても操作するのが馬鹿馬鹿しく感じるサイズ。他のコントロールは良い。良くないのはリアパネル。40歳のブーマー丸出しの発言かもしれないが、本格的なドラムマシンにステレオのミニジャック出力が1個だけ、というのには一生慣れない気がする。
- ノイズを拾いかねない micro USB での電源供給、そしてマルチアウトがオーディオインターフェースとして使った時しか出ないのも人によっては致命傷。とはいえ Roland のデジタル ACB 技術が出す 808 サウンドはなかなか良い。キックはちゃんと蹴るし、スネアはちゃんと弾ける。
- タムとコンガは、火曜日に二日酔いでも社会的に許されていた時代を思い出させてくれる。クラーベ、マラカス、そして中毒性のあるカウベル。クラップとリムショットは実に良い。シンバルとハイハットにも文句なし。
- このヴィンテージなドラム音源を鳴らすのは、同じくヴィンテージな見た目ながらパワフルなシーケンサー。16ステップは2つ目のパートを足して最大32、バリエーションを使えば64まで伸ばせる。フィルインは2種類、手動でも自動でも挿せる。恒例なので、ソングモード的な Rhythm Track 機能は例によって無視する。
- ほどほどのメニュー潜りで2階層目のパラメータに届く。キックとスネア用のコンプレッサーは音をデカくする以外に何もしない。ゲイン、追加のチューンとディケイ — このへんはフロントパネルに出しておいてほしかった。バスドラムのロングディケイモードもある。
- パターンのコピペができるのは良い。シーケンサーは 909 寄りのワークフローに切り替えられるし、楽器を左右にハードパンする専用モードもある。パターン打ち込み中にメニューボタンを押しっぱなしにするとバックビートが挿入される。これはクール。
- 鉄道模型みたいな見た目のわりにビルドクオリティは頑丈。Boutique 一族なので電池駆動もできる。内蔵スピーカーはこのブーミーな 808 モンスターキックにうってつけ。この個体を貸してくれた Groove Bagage Sound System の Mad Fuse に感謝。
- TR-08 は今も新品で400ドル前後で手に入る。ギアを借りられる最高のサウンドシステム仲間がいないなら、Perfect Circuit で買うといい。クラシックなドラムマシンのリメイクが、ここまでオリジナルに近くて、同時にここまで違うものになれるのは謎だ。本物の 808 の感触は出せるのか。
- TR-08 の音は今日のイントロですでに聴いてもらっている。ファンキーで極端にドライなスネアに調子に乗ってしまった。一貫性のため、最初のジャムでのスパーリング相手は1台だけと決まっている。
- 音は本当に良い。ただ、ミュートとソロの実装としてこれ以上に手根管症候群を誘発するやり方があるのか分からない。確かにオリジナルの 808 にも専用ミュートボタンはないが、あちらは複数のアウトで回避できる。そして TR-08 のパラアウトは USB 経由のみ。
- というわけで、古い MacBook を大層な名前のついたスルーボックスに成り下がらせ、アナログミキサーに繋いでドラムマシンソロをやる。
- こっちのほうが断然演奏しやすい。ただ、この装置一式をライブで持ち出したいかというと微妙。Boutique 用の専用 USB→アナログ変換器があれば最高なんだが。……夢見がちだな。TR-08 のちょっとだけ強化されたレトロ UI でも悪くはないが、メインのコンピュータに繋いだ時にどこまでやれるのかが知りたい。
- ロボベース・サブウーファーのベンチマーク的な、レトロ・ハイテク UK ディープハウス風フレンドリー・エレクトロニカの乗っ取り。
- Verdict。TR-08 は Boutique ラインで最も美しく、同時に最も実用的でない楽器かもしれない。箱出しで音は良いし、ヴィンテージなデザインは最高。だが少なくとも自分には、ライブでも制作でも決め手にならない。シーケンサーにジャム用のツールは揃っているが、
- リアルタイムのパターン作成と即興は全然快適じゃない。しかも我々はもう、オリジナル機では作れっこない 808 サウンド (トラップのハイハット、完璧にチューニングされたキックのベースライン、スネアのピッチモジュレーション) に慣れてしまった。authentic ではないが、TR-08 のようなデジタル楽器ならそれを実装するのは簡単だったはず。
- ここ数年で Roland は 808 系のオリジナル機を新たに2台出していて、どちらも Bad Gear 素材として完璧だと思っている。あと一歩で名機、でも届かない。その調子で頼む。見てくれてありがとう、また次回。よければ like・subscribe・patron 登録と、次に扱ってほしい機材をコメントで。