こいつをクローンしろ

Bad Gear - Clone THIS!!!

この回の結論

長い伝統を持つシンセブランド — Yamaha だけの話ではない — が、ヴィンテージのアナログ機を蘇らせる難題に向き合いたがらないのは理解できる。だが reface DX が示したように、CZ-101 のような単純なデジタルシンセをオリジナル設計ベースでアップグレードしたクローンにするのは、R&D 費の使い道として十分アリだ。エンジン自体をどれだけ気に入っても、古臭いワークフロー、最悪な鍵盤、何もかもの原始的な実装がやる気を殺しにくるからである。他メーカーが名機のオモチャみたいな再解釈で批判を浴びている中、Casio はその点だけは安全だ。Casio のシンセは最初からオモチャ扱いだったのだから。

何を喋っているか

  1. 「世界で最も嫌われているオーディオ機材の番組、Bad Gear へようこそ」。老舗シンセメーカー、名指しで言うなら Roland が、偉大な80年代の遺産から一銭残らず搾り取るのはもう慣例になった。オモチャっぽいデジタルクローン、さらに小さい冷蔵庫マグネットサイズの再解釈。「ただし TR-808 の Puma スニーカーは普通に欲しい」
  2. 今回は CZ-101。1985年のコンパクトなフェイズディストーション・シンセで、Casio が初めてプロ用キーボードの世界に足を踏み入れた機種。これが文字どおり誰にでも使われたという事実が意味するのは二つに一つ。Casio が金に興味がないか、こいつが本当に本当にひどいシンセかだ。
  3. 一見すると小さな101は条件を全部満たしている。DX7 より「ほんの少しだけ威圧感が薄い」ユーザーインターフェース。そこに人類史上最低クラスのミニ鍵盤と、容赦なくチープな80年代プリセット群が添えられる。画面には Back to the Future の「where we are going we don't need roads」。
  4. 「Yamaha の最も成功したドアベル」(=DX7) の話が出たところで一つ — フェイズディストーション合成は周波数変調とは別物。もっとも出てくる結果は似ていて、あまり本物っぽくない疑似アコースティック音、ベル、実用一辺倒のベース。ただし PD の方は「もう少しアナログっぽい鳴り」と評される音も出せる。
  5. PD エンジンの挙動は FM よりいくらか予測しやすい傾向にある。CZ のパッチの土台は、基本的な波形とそうでもない波形の小さなセット。「おそらくラベルが間違っている」二基のオシレーターの中でそれらを組み合わせ、専用エンベロープで倍音構造を時間に沿って変化させる。
  6. その倍音エンベロープは減算方式シンセのフィルターエンベロープに近い。振幅用・ピッチ用も同一形式で、これ以上ないほど80年代な8ステージ、サステインとエンドポイントは自由に指定可能。複雑な音色変化を作り込めるが、相応の学習コストが付いてくる。
  7. 最大8音ポリが出せるのは1オシレーター構成のときだけ。声数を犠牲にすると音は太くなる — 特にデチューンをかけたとき。リングモジュレーションやノイズ追加でスペクトラムはさらに複雑になる。
  8. 把握している限り LFO の用途はビブラート一つだけ、ただし融通は利く。意外だったのはシンプルなバイティンバル・モードがあることで、モノフォニックのレイヤーが作れる。いいね。ポルタメントも簡単に決まる。イニシャライズは真のプロ機能で、エンジンの一部分だけをリセットして残りは触らずに済む。
  9. 16個のユーザーパッチは電池が入っていなければドードー鳥と同じ運命をたどるので注意。幸い CZ PL-88 メモリーモジュールを入手できた。パッチライブラリを一気に拡張し、SysEx で本体に送り込める音が文字どおり何千と入っている。
  10. 「ほとんどズルしている気分になる」。この小さいキーボードがマスターキーボードとして使えるのも驚きではない。オーディオと電源のコネクタは右側、MIDI は控えめな2端子で、規格の実装はどこか謎めいている。プラスチッキーな手触りはさておき本体は頑丈で、この個体は30代後半の機械としては上物。中古相場は「まあ、そういうもの」。本物の鍵盤弾きは上位機種の CZ-1 を選ぶかもしれない。
  11. 貸してくれた Global DJs の Florian に感謝。シンセメーカー、名指しで言うなら Behringer は、大昔の最も無名な設計まで蘇らせている。フェイズディストーション復活の時期では? 本機の音はイントロ曲で既に鳴っていた — 少し暗いが、予想よりアナログっぽい。限られたいじりしろの中でベストを尽くしてジャム1へ。
  12. ジャム1(演奏)。
  13. 「あれは本気で楽しかった」。ゴムみたいな質感の音にアナログのスパイスがひとつまみ、ヴィンテージ FM シンセに期待するものより温かい。パッチをリアルタイムで動かせないのは残念。 音作り自体は難しくないが、古式ゆかしいエンベロープのせいでいちいち面倒。ベースを打ち込み、メモリーモジュールのパッチでアレンジを埋めていく。
  14. ジャム2(演奏)。
  15. 「悪くない」。ブラス系の音が気に入った。モジュールのパッチは、素のジャムの中でもエンジンのポテンシャルを見せてくる。ミックスへの収まりもいい。DAW での追加処理にどこまで耐えるかを、「またしても映画に採用されなかった、車中心のアニメのサウンドトラック」で確かめる。
  16. Verdict。長い伝統を持つシンセブランド — そして言っておくが Yamaha だけの話ではない — が、ヴィンテージのアナログ機を蘇らせる難題に向き合いたがらないのは理解できる。
  17. だが reface DX が示したように、CZ-101 のような単純なデジタルシンセを、オリジナル設計を土台にアップグレードしたクローンにするのは R&D 費の使い道として十分アリだ。エンジン自体をどれだけ気に入っても、古臭いワークフロー、最悪な鍵盤、何もかもの原始的な実装がやる気を殺しにくる。
  18. 他メーカーが名機のオモチャみたいな再解釈で批判を浴びている中、Casio はその点だけは安全だ。Casio のシンセは最初からオモチャ扱いだったのだから。 以降はいつもの締め — 高評価・登録・Patreon・コメントで見たい機材を、そして「君の Bad Gear ゲストが何を命じてこようが」下のリンクを使ってくれ。