この回の結論
MatrixBrute は、人々がアナログの純度を渇望していた時代の、確かに堂々たる楽器だ。数々のクセと、音のツボを探す労働集約的な作業を厭わないなら、ブルータルかつシネマティックな面白い音を出してくれる。とはいえ発売からほぼ10年、アナログ純粋主義はいまや「維持不能寸前のヴィンテージ機」「賛否の分かれる珍品オモチャ」「秘教的ハイエンド機」と結びつくものになり、アーティストはかつてなくハイブリッドやデジタルを受け入れている。ついでに言えば、Arturia のプラグインが良くなりすぎて自社ハードがついていけなくなっているのは実に興味深い。
何を喋っているか
- 世界一嫌われたオーディオ機材の番組、Bad Gear へようこそ。Arturia は「21世紀で最も重要なアナログポリ」を作ったのに、その功績が正当に評価されていないという振りから入る。
- 今日扱うのはその PolyBrute ではなく、同じくらい図体がデカくて、はるかに賞賛されておらず、もっと古臭い従兄弟の方 — 2017年の MatrixBrute。「歳の取り方が下手だった」と一刀両断。見た目は「ドロップシッピング業者から Schmidt シンセを注文しちまった」箱に、Minimoog 風のヒンジ付きパネルと Minimoog 的なシンセ構成が合体したもの、と評する。
- 音の指紋は MicroBrute 譲り。そして名前の由来であるマトリクスは、「ユーロラックの気を散らす性質と、ブラウザでやる戦艦ゲーム (バトルシップ) の手軽さを合体させたもの」。まずは3基のアナログオシレーター (パラフォニック演奏可) から始まる。
- うち2基には、弟分たちでお馴染みだが必ずしも愛されてはいない Ultrasaw、Metalizer、そしてボイスごとのサブオシレーターを搭載。倍音を「インダストリアル系のアーティストですら耐えられない量」まで盛れる。
- この真っ赤に焼けた周波数の調合物を、3つ目の VCO、各種ノイズ、外部入力とミキシングし、デュアルフィルターへ送る。片方は MiniBrute でお馴染みの「Marmite みたいな (好きか嫌いかしかない)」Steiner-Parker 回路、もう片方はラダー型。多くの偉大な Moog 系と違い、レゾナンスを上げても低域が消し飛ばない。
- 両フィルターとも自己発振可能でピッチトラッキングの精度も十分。ただし VCF1 にはオシレーターの漏れ (blead) が目立つ。「残念」。あとは Brute Factor をぶん回して歪ませろ、と。
- マスターカットオフノブで両フィルターを同時に優雅にいじれる。ただし真のステレオで使う方法は見つからなかった。エンベロープがフェーダーになっているのは良い。LFO 2基は遅いが、VCO3 を高速な3つ目の LFO に転用できる。
- BBD (バケツリレー素子) による完全アナログのエフェクトセクション。暗くてノイジーでザラついたディレイ、モジュレーション、そしてリバーブ。そのリバーブは「2008年の深圳の裏庭で作られた20ドルの OEM マルチエフェクターと直接比較して、僅差の2位に食い込む可能性が十分ある」。2017年ならこれだけで何台か売れただろうが、Arturia はモジュレーションマトリクスに全張りした。
- 普通ならモジュラーでしかできないような接続が、パッチポイントを押してエンコーダーを回すだけで実現できる — 「Kindle みたいなディスプレイ」を眺めながら。定番の行き先に加え、4つのアサイナブルノブと、意外にちゃんと使える内蔵鍵盤のアフタータッチもルーティングできる。
- さらに16のユーザー定義可能なデスティネーションがあるが、アクセスは「取説を読まないと無理なボタン同時押し体系」。このマトリクスは「加齢したシンセオタク向けの Launchpad」でもあり、やや鈍重なプリセット選択にも使える。
- シーケンサーは Arturia のベストな設計とは思えず、いわゆるマトリクス・アルペジエーターに至っては「まだ完全には理解できていない」。一方リアパネルは模範的で、ユーロラックと仲良くしたがっている。外部信号がしきい値を超えたらエンベロープをトリガーする設定も可能。
- そして Arturia 恒例の持病 — ベタつくノブ、早期退職を切望しているボタン、そして「もっと万能で扱いやすいシンセが今はあるから棚でホコリを被る」という症状。ちなみに Noir 版は今も Hydrasynth Deluxe の値段で買える。機体は、ウィーンのシンセ愛好家による「あまり秘密でない秘密結社」Signal Circus からオリジナルの MatrixBrute を借りた。
- 20kg 超えという、まさにシンセの塊。アナログモノで飽和した市場で今も通用するのか、それとも Arturia の大失敗作か。イントロ曲で既に鳴っていたが、あれは「よく整備された MiniBrute」の音。もっと非定型な音を絞り出せるか試す。
- デモ演奏。
- 「もっと伝統的な音のままにしておくべきだったかもしれない」。ノイズと、オシレーターをぶん回した時の悪名高い Brute 的ガサつきの中間点を見つけるのは容易ではない。エフェクトは Strymon の代わりには絶対ならない。次は、好きか嫌いかに分かれる倍音たっぷりの音色とモジュレーションの探求へ。
- 「まあ、ほぼ楽しかった」。シーケンサーがマトリクスに深く統合されているのは強力な音作りツールではある。
- ただし本当に良く鳴るスイートスポットを探すのは相当な難行。1機能1ノブのインターフェースなのに、ミックスに馴染む音を作るのに苦労した。そこで DAW の力で無理やり馴染ませる — 「豚に口紅を塗りたくって別物に見えるまで化粧する」やり方で、意外にも行儀のいい 140 BPM のダンストラックに。
- Verdict。MatrixBrute は、人々がアナログの純度を渇望していた時代の堂々たる楽器。
- クセの多さと音のツボを探す重労働を厭わないなら、ブルータルかつシネマティックな面白い音が出る。だが発売から約10年、アナログ純粋主義は「維持不能寸前のヴィンテージ機」「賛否両論の珍品オモチャ」「秘教的ハイエンド機」と結びつくものになり、アーティストはハイブリッドやデジタルをかつてなく素直に受け入れている。
- 「Arturia はプラグインが良くなりすぎて、自社ハードがついていけなくなる地点に到達したのが実に興味深い」と締める。その後いつもの、高評価・登録・Patreon・リンクのお願い (「あなたの Bad Gear が何を買えと命じてこようが関係なく」)。
- 字幕が「2017年の Matrix Brute, which…」を延々ループして壊れている区間。続いて Patreon 支援者への月例ボコーダー・シャウトアウトへ。「この OP-1 field を2時間後に返さないといけないので、ボコーダー機能を使う最後のチャンスかもしれない」。Tier 4 から。
- ボコーダーによる支援者名の読み上げ。Tier 6 へ。
- 「支援ありがとう、また来月」で終了。