高くてうるさい

Bad Gear - Expensive and Noisy

この回の結論

Motor Synth MK2 は大胆なコンセプトに基づくエンジニアリングの傑作で、老いていくこの業界で未踏の領域に踏み込むだけの度胸と狂気を併せ持った、極めて才能ある集団が作っている。とはいえ、この催眠的なデザインも、風変わりな音も、「これが存在しているという事実そのもの」もどれだけ好きであっても、ワークフローはメニューダイブに頼りすぎている ── 自分の基準ですら、だ。そして自分のように騒音に敏感な人間にとって、この楽器を弾くのは軽く苦痛の域に入る。Motor Synth は「早く弾きたくてたまらない楽器」の一つかもしれないが、自分の場合は早く電源を切りたくてたまらなかった。

何を喋っているか

  1. 世界で最も嫌われたオーディオ機材の番組、Bad Gear へようこそ。このチャンネルは耳障りなノイズと結び付けられがちだが、実際の仕事場は極めて静かだと主張する。ヴィンテージシンセを自分の耳鳴りに合わせてチューニングできるほど静かで、耳の疲労を避けるためミックスの音量も低めに保っている。
  2. だが数日前、Gamechanger から Motor Synth MK2 が長期貸与で直接届いた。「信じてくれ、平和と静寂は消え去った」。一見そこまで悪くない ── と言いつつ鳴り出す音を聞かせて「今のはただのファンノイズ。素晴らしくはないが、破滅的でもない」。
  3. 音色は Hammond オルガンのトーンホイール、20世紀初頭の Telharmonium、あるいは Kraftwerk で有名な Vako Orchestron を思わせる。Motor Synth の生音は主に8枚のディスクから生まれ、それをブラシレスドローンモーターが回す。1ボイスあたり最大4声のポリフォニーが得られる構造。
  4. ディスク表面の模様は確かにイカしていて、ピッチモジュレーションをかけると特に映える。だが魔法が起きているのは裏面のほう。一般的な波形はスピンするディスクに印刷されたパターンをオプトカプラが読み取って生成され、さらにモーターごとに電磁ピックアップが1個ずつ載っている。
  5. 電磁ピックアップは M という追加の波形を提供する。もう一つ4ボイスのオシレーターもあり、こちらは「DCO はアナログか」論争に油を注ぐだけでなく、ノイズ、ウェーブフォールディング、ハードシンクも備える。メインの2ボイスはアナログのマルチモードフィルターへ流れ込む。
  6. 各フィルターの手前で M オシレーターをティルト EQ で抑え込むオプションがあり、DCO 用にはデジタルフィルターセクションが別にある。ドライブ段はかなり気に入っている。気が遠くなるほどメニューダイブ地獄なアンプ/フィルターエンベロープに加え、合計6基の LFO とエンベロープを含む超複雑なモジュレーターが3つ。
  7. ピッチエンベロープの役目は「アクセル」と「ブレーキ」機能が担い、それ以外は不気味なほど正確で高速なホイール回転速度をわざと乱してくれる。クラシックなポルタメントにも設定可能。ドリフト、デチューン、クロスモジュレーションを入れればすでに壊れている音をさらに壊せる
  8. 「クラッチ」を積んだ楽器がもっと必要だと思う ── 専用ボタンを離して初めて反映される変更をまとめて仕込める機能。パフォーマンス機能の話に入ると、鍵盤はおそらくスペック不足だが、ドローンやアルペジエーターのトリガーには便利。
  9. 内蔵シーケンサーは現代の機材に期待されるものが一通り揃っている。ラチェット、確率、ステップリピート、モーションレコーディング。
  10. ただしパターン長は16ステップまで。パターンチェインはある。Q 機能が何なのかはまだ解明できていない。Shift 的な alt キーを望む以上に押す羽目になるが、その先に入力セクションがあり、外部モノ信号を通してボコーダー的な音が作れる。
  11. 冒頭で見せたスリープモードはモーターを止めるが、ゲーミング PC 級の冷却ファンは黙らない。Motor Synth が大量の電力を要求するのは驚きではない。「これに興味を持つ人には大量の金が必要で、この楽器は理想的には大量のユーロラックに繋がれる」。唯一無二の楽器と言って過言ではない。
  12. 問いは「Motor Synth は本当にユニークな音がするのか、それとも金持ちコレクター向けの騒がしい玩具なのか」。イントロ曲ですでに聞いている ── 「ちょっと怒ってる音だな」。密閉ヘッドホンを装着し、騒音由来の頭痛にタイレノールを飲んで、この濃いモーターノイズの霧の中で音作りができるか試す。
  13. デモ演奏。「意外なほど普通の音がした」というのが率直な感想。
  14. 独特のピッチの挙動はいい味だが、大半の音は普通のシンセでも作れたはず。モーターのノイズスペクトラムのせいで実際のパッチ作りに集中するのが難しく、特に高音域でそれが顕著。もっとハードなジャンルならこの問題が薄れるのか確かめたい
  15. ハードなトラックでのデモ。「クール」。重いドラムと高い音圧レベルのおかげで、ノイズのことをほとんど忘れかけた。そして Motor Synth という名にふさわしい音色領域に到達しつつある。
  16. ファクトリープリセットは実験寄りだが、シンセエンジンを深掘りすれば上品でシネマティックな音のパレットが広がっている。「値段なりに高そうな音」が作れるか試す時間。そしてドローンモーターもいいが、次の論理的ステップは化石燃料で動くドリフト仕様だろう(この辺りは字幕が崩れている)。
  17. Verdict。Motor Synth MK2 は大胆なコンセプトに基づくエンジニアリングの傑作であり、極めて才能のある集団によって作られている。
  18. 老いゆくこの業界で未踏の領域に踏み込むだけの、大胆さと狂気を併せ持った連中だ。とはいえ、この催眠的なデザインも、風変わりな音色も、「存在しているという事実」そのものもどれだけ好きでも、ワークフローはメニューダイブに頼りすぎ ── 自分の基準ですらそう思う。そして騒音に敏感な人間にとって、これを弾くのは軽く苦痛の域。
  19. 「Motor Synth は早く弾きたくてたまらない楽器の一つかもしれないが、自分は間違いなく電源を切るのが待ち遠しかった」。いつものアウトロ。高評価・登録・Patreon、そして「あなたの Bad Gear GAS が何を買えと命じてこようが」下のリンクを使ってくれ。月例の VOD シャウトアウトへ。
  20. シャウトアウト回の予告として「これから自分が3つのものと格闘するのを見ることになる。A、キツい倍音。B、聞き取りやすさ。そして3、モーターの地獄のような騒音」と、A・B・3で番号が揃わないボケ。Tier 4 の名前読み上げへ。
  21. Tier 6 の名前読み上げ。「改めてチャンネルを支えてくれて本当にありがとう。また来月」。