この回の結論
Arturia のプラグイン群と同じく AstroLab の音は素晴らしいし、配偶者に文句を言われないデザインで、プリセットを弾くだけで金に余裕があるなら最適解かもしれない。だが「我々のエコシステムに投資しろ」という発想、冴えない UI、生煮えのソフト連携、そして完全に壊れた MIDI 実装がプロ用途を不可能にしている。小規模な礼拝の現場ならロード時間も許されるだろうが、バンドやセッションの背骨にすると確実に事故る。神は許してくれても音楽監督は許してくれない。形の優雅さを別にすれば、ノートPC+MIDIコントローラーに勝る場面が一つも見当たらない。
何を喋っているか
- 「世界で最も嫌われたオーディオ機材の番組」へようこそ。このチャンネルのアンチどもが「いつかレビューするネタが尽きる」というフェイクニュースを流しているが、そんな日はまず来ない。
- 今日は Arturia AstroLab。史上最も高価な家庭用キーボードにして、独自プラグインホスト。お気に入りの潤滑ゼリーと疑わしいほど似た名前、スマートホーム・サーモスタットみたいな UI、そして史上最も鬱陶しいペイウォール。一見すると AstroLab はチェックボックスを全部埋めている。
- 鍵盤は使える出来だがポリフォニック・アフタータッチはなし。代わりに61鍵すべてにマルチカラー LED が付く。Google Nest が UI を返せと言っているらしい。
- V Collection が業界標準になったのには理由があり、人気ソフト音源の多くがこの機体に載っている。アナログ/デジタルの名機のクローン、リアルなアコースティック楽器、前衛的な再解釈もの。
- 初期のサンプリング、減算合成、FM、そして全能の Pigments まで揃っている。ポリフォニーの制限に喘いではいるが。ほぼ全部入り。
- ただし、この名機プラグイン群をハードウェアで直接いじれると期待した人間は落胆する。追加ソフト抜きでパッチを変更する手段はマクロノブ4つ。そう、たったの4つ。
- 音色のロードには時間がかかる。6コアの ARM CPU と 4GB の RAM がどこまで捌けるか次第。
- パッチ切り替えは半分スムーズ。次の音の最初の音を弾くまでは前の音が鳴り続ける。音色構成は2ティンバーで、レイヤーとスプリットが可能。
- だが本物のワークステーションのマルチティンバー性には敵わない。エフェクトはリバーブ、ディレイ、マルチ FX が2系統で、おおむね直接アクセスできる。
- マスター EQ もあるが機能は限定的。鍵盤が弾けない自分のような人間にはアルペジエーターとコードモードがありがたい。基本的な MIDI レコーダーも搭載。
- ミーム界で有名なあのディスプレイがメイン UI で、ろくにいじれないプリセットを眺め、いくつかの FX パラメーターを編集し、雑務系メニューと妙にややこしいマルチ設定を触れる。
- だがこのキーボードの膨大な音作りのポテンシャルに踏み込むには、(a) パソコン、(b) エディタとしての Analog Lab、(c) 編集したいエンジンひとつひとつのインストール済み・購入済みライセンスが要る。聞き間違いではない。
- すでに強気な本体価格に加えて、プリセットを編集したいならさらに600ドル払うことになる。傷口に塩を塗るように、現状では編集結果をパソコン側でモニターし、そこで保存し、鍵盤に同期して初めて AstroLab の出力で聴ける。マクロコントロールのミラーリングだけは完璧で、V Collection ライセンスがなくても MIDI コントローラーを少しはアサインできる。
- Arturia は、ご想像の通りモバイルアプリも出した。ライブで使うならプレイリスト機能は確かに便利だが、ロード時間の問題は解決しない。メインディスプレイのぐらつきを別にすれば作りは良い。木目はシミュレートではない。端子まわりも家庭用キーボードとしては充実している。
- 展示機を貸してくれた Klangfarbe に感謝。
- Pigments をはじめ Arturia のプラグインはシンセ史でも最高峰の部類。AstroLab はこの音たちをパソコンの牢獄から解放するのか、それとも史上最も高価な家庭用キーボードでしかないのか。イントロ曲でも数パッチ使っている。90年代のロンプラーみたいな手軽さで、まずはプリセットを並べたダウンテンポのジャムから。
- [演奏] ダウンテンポのジャム。
- 明るく、モダンで、機能的。いい意味で「箱に入ったプラグイン」。プリセットが膨大なので勢いで作れるが、アレンジに合わない音も混じる。これだけ揃っていながら、今どきのベース音を見つけるのには苦労した。ソフト側でクラシックな音に少し手を入れて、2ティンバーの制限を回避してみる。
- [演奏] ソフト編集した音でのジャム。
- 言いたいことが山ほどある。音が良いのは疑いない。だが現状のソフト連携は神経をすり減らすし、MIDI ノートが鳴りっぱなしになる不具合や頻繁なクラッシュも起きた。
- ここまでの音は大人しめだった。邪悪で壮大な音が出せるか試したい。ところが鍵盤が MIDI にまともに反応しない。Arturia は俺にどうしろと? 実際に弾けと? というわけでディストピアン・ダンジョン・ウェイヴ、デジタルな荒廃。
- [演奏] ディストピアン・ダンジョン・ウェイヴ。そして Verdict へ。
- Verdict。Arturia のプラグイン群同様に AstroLab の音は素晴らしい。配偶者に嫌な顔をされないデザインで、プリセットを弾くだけ・金に余裕があるなら最適解になり得る。
- しかし「我々のエコシステムに投資しろ」という発想、冴えない UI、生煮えのソフト連携、完全に壊れた MIDI 実装が、プロ用途を失格にしている。小規模な礼拝の現場ならロード時間も見逃されるだろうが、バンドやセッションの背骨にすると確実に揉める。神は許してくれても音楽監督は許してくれない。
- 優雅な形を除けば、ノートPC+MIDIコントローラーに勝る用途が見当たらない。ソフト音源の黎明期以来メーカーはプラグインの多様性をハードに持ち込もうとしてきたが、一部のニッチ製品を別にすれば成功例を自分は知らない。この問題まで Behringer に解決してもらう必要が本当にあるのか? ないことを祈る。
- エピソードを楽しんでもらえたら幸い。高評価・チャンネル登録・Patreon 支援、そして次に見たい機材をコメントで。