この回の結論
Yamaha DX7 はポピュラー音楽そのものを形作った、強力で複雑な楽器だ。音作りは「郵便受けの隙間から廊下を塗装する」ような作業だし、プリセットのせいで深く傷ついた世代が最低でも二世代ぶん存在する。だがそれだけではない — Brian Eno や Trent Reznor が示した通り可能性は無限で、前の職場に10年以上も1台あったのに自分がなぜ全力で避けていたのか、今になって自問している。答えは恐怖だった。失敗する恐怖、人前で恥をかく恐怖、そして「オシレーター3基とフィルター」という小綺麗で居心地のいいゾーンから出る恐怖。「crap だ」と言い捨てる方がずっと楽だから。マスターには程遠いが、これから使うのが楽しみだ。誰の人生にも DX7 が最低1台はある。それと向き合うことを恐れるべきではない。
何を喋っているか
- 「世界一嫌われているオーディオ機材の番組」bad gear へようこそ。今日はついに伝説の Yamaha DX7。プログラムが難しいことで悪名高い FM のパイオニアを、何十年も避け続けてきたが、いい加減に自分の中の悪魔と対決することにした。
- 友人 Richard の Green Lobster Recording Studios にある美品の DX7 で撮るつもりで遠出した。1日いじって「これは適当にやり過ごせる相手じゃない」と気づいた。この複雑で要求の多い楽器に失礼だし、表面を引っ掻くだけでも時間がいる。幸いウィーンで数週間借りられる個体が見つかった。
- DX7 は1983年発売。当時のミュージシャン・プロデューサー・リスナーにとってはエイリアンとのファーストコンタクトみたいな体験だっただろう。初の商業的成功を収めたデジタルシンセで、アナログ兄弟たちの暖かくてもこもこした音に比べ、明るく上品で — 人によっては冷たく耳障りだった。とんでもない台数が売れ、80年代は誰もが使っていた。a-ha「Take On Me」に入ってるし、Kenny Loggins「Danger Zone」もそう。これ以上の説明が要るか。
- この遍在ぶりが DX7 への広範な敵意を生んだのだろう。プログラムは難しく、プリセットは史上最も使い倒された音かもしれない。見た目は「80年代のスペースシャトルの操縦には絶対に使いたくない」類。メンブレンスイッチ、地球最小のディスプレイ、音を弄る物理コントロールは小さなフェーダー1本に集約。アフタータッチとブレスコントロール入力はある。
- 実物を見たことがない人は、これがどれだけデカくて重くて頑丈か知らないだろう。今こちらが奴隷にされている個体は筐体の一部がごっそり欠けているが、それでも完璧に動く。本体のアルゴリズム/エンベロープ/キースケーリングの図表は威圧的だが、各プラットフォームにソフトウェアエディターやプログラマーが多数ある(それは別の回でやるかも)。程度のいい DX7 は今でも500ドル以下で見つかる。
- DX7 は最重要の電子楽器の1つだが、このずんぐりした80年代キーボードを Trent Reznor 式にフルスイングでぶち壊したい人間も相当数いる。冒頭のイントロ曲でオリジナルのプリセットをいくつか聴かせた。あれはポップカルチャーの遺産として扱うべきか、それとも80年代チーズの地下牢に永遠に封印すべきか、コメントで教えてくれ。鍵盤の腕が壊滅的なのでヴィンテージのポップ名曲を弾いて見せることはないが、DX7 が普通のシンセのように弄れるのかは本気で知りたい。「YouTube 史上最短の DX7 でベース音色を作る動画」でどうぞ。
- 実演の音のみ。
- 見ての通り DX7 はこういう用途には作られていない。ある音色から別の音色へ滑らかに移行させるのが難しい。減算合成に慣れた自分の爬虫類脳は、反射的にフィルターのカットオフノブに手を伸ばす。
- …が、そんなノブは存在しない。ならば信号経路に外から足そう、というわけで「原始ベースミュージック」ジャム。
- これでFM 初心者の自分も少しは我が家に帰った気分になれる。DX7 は多くのダンスミュージックのジャンルに欠かせないが、一番知られているのはポップの現場でだ。もっと複雑な音も聴こう、という Nine Inch Nails と Falco が出会ったような曲の断片へ(字幕が不鮮明で最初の1組は特定できず)。
- 演奏を挟んで結論へ。Yamaha DX7 は、我々の知るポピュラー音楽そのものを形作ってきた強力で複雑な楽器だ。
- 確かに音作りは郵便受けの隙間から廊下を塗装するような作業だし、プリセットのせいで深く傷ついた世代が最低でも二世代いる。だがそれだけじゃない。Brian Eno、Trent Reznor をはじめ多くのアーティストが可能性は無限だと示してきた。そして自問する — 前の職場で10年以上も自由に使える個体があったのに、なぜ自分はどんな犠牲を払ってでも DX7 を避けたのか。UI の酷さで言えば、そこらのグルーヴボックスより悪いわけでもないのに。
- 過去の自分を振り返って出た結論は、恐怖だ。失敗する恐怖、シンセを触っている姿を人に見られて恥をかく恐怖。「あんなのはクソだ」と言ってしまう方がずっと簡単だから。そして「オシレーター3基とフィルター」という小綺麗で居心地のいいゾーンから出る恐怖。DX7 の習得には100万マイル程遠いが、これから使うのが楽しみだ。我々には誰にでも人生に最低1台の DX7 がある。それと向き合うことを恐れるべきではない。
- 締め。楽しんでもらえたなら高評価とチャンネル登録を。次にどんな機材を見たいかコメントで教えてくれ。