我々はもう終わっている

Bad Gear - We're basically DOOMED

この回の結論

カメラ内蔵マイク音声の DAWless ジャム動画がはびこる現状を考えれば、世界は TX-6 のような製品を切実に必要としている。使いやすく、スマートデバイス環境にシームレスに統合され、ホームスタジオの背骨になれるだけの力もある。だがその条件を十分に満たしているのに、使用体験そのものは苛立たしかった。ひどい価格と最小限の音声端子はさておき、物理 MIDI の欠如、メニュー漬けのワークフロー、ギミックめいたフロントパネルのせいで、これは「デザインスタディ」に見えて、実際に音楽を作りたい道具には見えない。インスタ映えはしないが、自分なら Bluebox か素直なフィールドレコーダー、あるいは RME Babyface を選ぶ。Teenage Engineering はポーカーフェイスの詐欺師集団なのか真のビジョナリーなのかという論争が続いているが、自分の結論は「彼らは自社の利益に関しては大真面目だ」。

何を喋っているか

  1. 世界一嫌われたオーディオ機材の番組へようこそ。未来人たる我々は音楽機材の小型化には慣れっこだ。KORG の Volca は「用法外使用」されているし、Roland Boutique の認知的不協和もある。そしてこの手のブツを持ったまま空港で身体検査を受けたくはないだろう。今日の題材は Teenage Engineering TX-6。
  2. 顕微鏡サイズの音楽玩具の中でも一等豪華な十徳ナイフ。裕福でスタイルに自信のあるオーディオ・ジェットセッターの砂漠の道具小屋のために誂えられた一台。混じりけのないミキシング機能、基本的な音作り、そして——
  3. ——見る者の SNS バブル次第で、あなたをライフスタイルアイコンに仕立てるか、「我々はもう基本的に終わっている」ことの新たな証拠と見なされるかのどちらかになるデザイン思想。ブラシドアルミの極小宇宙に、ほとんど喜劇的なサイズの多機能ノブが並ぶ。
  4. トラック音量用の気まぐれなフェーダー6本、それぞれに相棒として極小ミュートボタン。少し大きめのボタンで2基の FX エンジンを起動できる(詳細は後述)。ディスプレイを見ていると、80年代 Roland のガラクタの謎めいたフロントパネルが恋しくなってくる。
  5. その骨董品と同じくワークフローはメニュー漬け。EQ・レベル・ミュートはいいとして、ゲインやパンといった基本機能ですら SHIFT を押しながら細い通路のような選択肢を辿らされる。ただしチャンネルごとの DJ スタイルフィルターは十分実用的で、セット&フォゲットのコンプはドラムのスナップを出すのに優秀。
  6. メーターはこのサイズにしては出色。察しの通り、この手の機材にフルサイズ XLR や5ピン MIDI は載らないので妥協は必須。物理 MIDI は皆無で Bluetooth と USB 制御だけ。そして窮屈なリアパネルはミームとして名を馳せた。本当に多くの標準ケーブルが隣の入力を塞ぐので、TE 純正ケーブルか同じくらい細身のものを買うことになる。
  7. 最大12chを使い切るならなおさら。一方で 6.3mm マスターアウトは意外に気前がよく、アダプタの造りもいい。FX 用に自由に割り当てられる AUX アウト、ヘッドセット用マイクプリを隠し持ったヘッドホン端子(要アダプタ)もある。コンデンサマイク用のファンタム電源は入っていない。退屈な技術仕様はここまで。
  8. 内蔵 FX 2基は扱いやすく、定番アルゴリズムに少し遊べるものも。ただし大量にあるノブへのアサイン方法は見つけられなかった。他の機能(数は多い)は SHIFT+メインエンコーダーのメニュー内。ソロ、ノブアサイン、シーンの保存呼び出し、グランドリフト起動——それでも氷山の一角。
  9. 2ch/12ch のオーディオインターフェースとしても使え、クロックソースはオーディオ入力に突っ込んだ実際の音楽素材まで選べる。DAWless 録音用に外部カードリーダーとも会話してくれる。チューナー、マスターリミッター、DJ モード。ミキサー機能の大盤振る舞いに加えて、TE は本格的な TR スタイルのドラムマシンとごく基本的なシンセまで載せた。
  10. シンセ自体は取り立てて自慢できる代物ではないが、洒落たコワーキングスペースの他の連中を発狂させるドローンマシンとしてはなかなかいい。サンプラー/サンプルプレイヤー機能の方がずっと面白く、最大サンプル長は 5.5 秒。
  11. トラックボタンかシーケンサーでトリガー可能。ループを組むには精密さと規律、規律、規律が要る。予想通りこの洒落た機能の塊は安くはなく、小さなミキサーに4桁の価格はかなりの投資だ。TX-6 はハイエンドオーディオの中核、多機能な DAWless ツールボックス、そして高価なライフスタイルギミックという珍しい組み合わせ。
  12. TE は未開拓の市場を見つけたのか、それともまたぞろ炎上狙いのマーケティング芸なのか。冒頭の Bad Gear テーマがいつもと違って聞こえたのは、TX のシンセ機能で成立させるのに即興でごまかしたから。ただし内蔵ドラムマシンの音は本当にいい。原点に戻して、実際のミキサーとして使ってみる。
  13. ミキサーとしての実演ジャム。この手のジャムは自分の老化を加速させる傾向がある。
  14. 怪しげなアダプタを TE の高級ケーブルにガムテで貼り付けた図は美的には気に入ったが、ライブの現場で相手にしたいものではない。箱から出した時点で半分壊れていたミュートボタンも同様。次はサンプラー兼補助ドラムマシンとして、Pocket Operator や適当な機材と組ませて試す。
  15. Pocket Operator との組み合わせジャム。ここでも最大の難関は TX の極小コントロール類で、マッスルメモリーが育たない。
  16. PO クロックと USB MIDI シンクは同期し、ルーティングの自由度は評価できる。プリミティブなシンセエンジンは好きになれないが、ドラム系ジェネレーターは驚くほど素晴らしい。TX-6 の音源が曲を丸ごと作るために設計されていないのは百も承知だが、もうどうでもよくなっているのでやる。企業イベント用・プロモ映像用・AI 対人間のビートメイク対決用の、魂を削る音楽を。
  17. TX-6 の内蔵音源だけで組んだトラックの実演。
  18. Verdict。カメラ内蔵マイクの音で撮られた DAWless ジャム動画という現在進行形の惨状を思えば、世界は TX-6 のような製品を切実に必要としていると言っていい。使いやすく、スマートデバイス環境にシームレスに統合され、ホームスタジオの背骨になれる力もある。
  19. だが条件を十二分に満たしているのに、使用体験は苛立たしかった。ひどい価格と最小限の音声端子はさておき、物理 MIDI の欠如、メニュー漬けのワークフロー、ギミック的なフロントパネルのせいで、これは音楽を作りたい道具ではなく「デザインスタディ」に見える。インスタ映えはしないが、自分なら Bluebox か素直なフィールドレコーダー、あるいは RME Babyface を選ぶ。
  20. Teenage Engineering は完璧なポーカーフェイスの詐欺師集団なのか、真のビジョナリー企業なのか——という論争が続いているが、自分が出した結論は「彼らは自社の収益に関しては大真面目だ」。視聴ありがとう、また次回。高評価・登録・Patreon・コメント、そして概要欄のリンクの案内。「バッドギアへの物欲が何を命じてこようとも」。
  21. パトロンへの謝辞とシャウトアウト。ワークショップの準備中なので、その機材のサウンドデザイン可能性を深掘りしたとのこと(字幕が崩れており機種名は不明瞭)。
  22. パトロン名の読み上げが続く。字幕が崩壊している区間。
  23. 改めてチャンネル支援への感謝。また来月。