この回の結論
TR-707 は、今とはまるで違う時代の機材だ。現代では慎ましい制作環境ですら 707 の音色とスペックを軽く超えてしまうので、大半の用途では時代遅れと言っていい。それでも、使ってみたら楽しさに度肝を抜かれた ― ミキサーの感触は最高、大量のアウトはギターのフロアボードや古い Mackie 卓と友達になりたがるし、伝説的な音と往年の制約が奇妙に同居しているのが妙に閃きを呼ぶ。707 は要らない、と断言できる。なのになぜ自分は Reverb でバカ高く吊り上がった値段を今も眺め続けているのか。
何を喋っているか
- 世界一嫌われたオーディオ機材の番組へようこそ。ここ数週間は真新しい「ゲームチェンジャー」が Bad Gear に直行し続けたので、俺みたいな筋金入りのネット荒らしでも、ちょっと口直しがしたくなる。
- 今日はオリジナルの Roland TR-707。TR-808/909 のデジタルな弟分にあたるこのヴィンテージ・ドラムマシンは、だいたい二通りに見られる ― リアルなドラム音と未来的な80年代ハウス両方をこなすタイムレスな名機か、当時 Casio が出してた何かと同レベルの、退屈で時代遅れのチーズ箱か。一見すると後者は冒涜だ。1985年のベストセラーには、今の Roland ユーザーが羨むディスプレイと、あのクラシックな TR ステップシーケンサーが載っている。
- 音は短くてローファイ、硬くてやや耳に痛いサンプル群。実機を触ったことがなくても、たぶん誰もが知っている音だ。ドラムヒットはピッチも変えられず、エフェクトは一切無く、エンベロープのような基本的な音作りツール無しでやりくりすることになる。
- マスターアウト経由だと音はプリパンされていて、いじれるパラメーターは音量だけ。ただしそのボリュームは、めちゃくちゃ触りたくなるオンボードミキサー上にあって抗いがたい。サンプル再生が 6bit と 8bit に限られていることを思えば、
- 707 がパンチがあってミックスに収まるのは驚きかもしれない。使えるキックとその柔らかめのバリエーション、高低のスナッピーなスネア、ダサめのタム、そしてハウス的なクラップ ― レトロ系のジャンルなら大抵しっくりくる。ネットの噂に反して、このハイハットは TR-909 のそれではない。
- 「カウベルはすべて神聖なり」― だがこいつは 808 の代わりにはならない。クラップ、タンバリン、サイドスティックと同様、専用の再生チャンネルすら与えられていない。クラッシュとライドは攻撃的なオールドスクール・テクノの旨味。これらの音を純度100%のまま自分のトラックに入れたいとは思わないが、マルチアウトがあるので機材さえあれば個別処理できる。
- 例のシーケンサーは本物だ。Hunter S. Thompson 式の朝食をキメたテナガザルでもプログラムできる。16ステップ止まりだが基本的なパターンチェインができ、アクセントは2段階。ソングモードでは4トラックまで組める。
- ヴィンテージ・ドラムマシン通なら知っての通り、TR-707 は DAW 時代の夜明け前から「DAW 的セットアップの中心」として評判が良かった。DIN SYNC とトリガーアウトは有難いが、盛大にズレる内部クロックを楽しめるのは健全な量のノスタルジーがある人だけ。MIDI 実装はトラックモードでしかノートデータを吐かないので、他機材のシーケンサーとしての用途は限定的。テープシンクが趣味という人はコメントで。
- 音域が狭くいじれる幅も無いので、707 はほぼ同型でローファイ・ラテンパーカッションが詰まった兄弟機 TR-727 と組ませるのが吉。あるいは愛しのアンティークをサーキットベンディングでバラして解体するか、ROM 拡張を慎重に入れて音を増やすか。人生の何もかもと同じく、TR-707 の相場も奇妙に高騰した。
- この美しい遺物を貸してくれた Feedback Underground Studios の Philip に感謝。LinnDrum や DMX が高価だった時代、707 は予算の無いミュージシャンにとって神からの授かり物だった。今もその役目を果たせるのか、それとも既にあるサンプルを使った方が早いのか。そう、Bad Gear のほぼ全エピソードで鳴ってるドラムは、最初から707のサンプルだった。そして実機はやはり鳴り方が違う。トキシック・ツインズと軽いコンプを引っ張り出して1本目のジャム。
- 1本目のジャム。
- 「このミキサーはマジで良い」。エフェクト無しだとドラムマシン全体の音色はたしかに少し粗いが、この文脈ではちゃんと機能するし、なにより音楽史の一部であることは確か。少しの処理で大きく変わると分かったので、現代的なキックとギターペダル数台を足してもう一段上げ、実験寄りのトーンを狙う。
- 2本目のジャム。「これはかなり好きだ」。
- 素の8bitサンプルは極端なエフェクト設定でも音楽的なまま。オリジナルのキックも好きだが、アナログ系のキックを足すとアレンジが一段引き締まる。DAW の全能の力でローファイなドラムをどこまで押せるか知りたい。人生がカウベルを与えてきたら、ソロを弾け。プロトファンク×オーケストラル・シンセウェーブ的なドラムプログラミングのマンネリズム。
- Verdict。TR-707 は今とはまるで違う時代の機材だ。今日では慎ましい制作環境ですら 707 の音色とスペックを超えてしまう。
- 大半の用途では時代遅れ。それでも使ってみたら楽しさに度肝を抜かれた。ミキサーの感触は最高、大量のアウトはギターのフロアボードや古い Mackie 卓と友達になりたがる。伝説的な音と往年の制約の奇妙な混合はかなり閃きを呼ぶ。707 は要らない、と断言できる。ならなぜ俺は Reverb のバカ高い相場を今も探し続けているのか。
- エピソードを楽しんでもらえたなら幸い。高評価・チャンネル登録・Patreon、そしてどんな機材を番組で見たい/聴きたいかコメントを。