この回の結論
エレクトロニックミュージックという革新の塊みたいな分野で、いまだに多くのアーティストが80年代前半の音に頼っているのは面白い。RY30 はその問題に最初に取り組んだ機材のひとつで、サンプル自体の古さはあるものの、作り込まれたエンジンのおかげで Roland のクラシック機に匹敵するほど音が張る。「ヴィンテージ寄りだけどもう少しモダンな音」を探しているなら試す価値はある。ただしこれはスタジオ作業用に設計された機械で、UI は人を選ぶし、ライブでジャムするなら追加の機材が要る。
何を喋っているか
- 「世界一嫌われたオーディオ機材の番組」bad gear 開幕。電子リズム生成デバイスの技術がいくら進歩しても、ドラムマシンの理想像は相変わらず「気のいい宇宙人」「ADHD のサイボーグ鬼」「やたらグルーヴィなタイプライター」「ケンタッキー州スコッツビル出身のセッションドラマー」のままだと嘆く。
- 今日は Yamaha RY30。KORG S3 と並ぶ1991年組で、革新的機能・一級品のサンプルバンク・「90年代のテキストアドベンチャーゲームにふさわしいユーザーインターフェース」を武器に、人類を80年代クリシェの軛から解放しようとした機械。「まあ、うまくはいかなかったんだが」。
- 見た目は Sinclair Spectrum のチェック項目を全部クリア。頑丈なプラ筐体、手首に優しいスベスベのラバーパッド、そして「まあ、ディスプレイ」。主役は文句なしにモジュレーションホイールで、主要な音作りパラメーターにアサインできる。ライブ演奏には効く。
- レコードモードでパターンを変調するのにも使えるが、通常再生中に思いつきでいじる方法は見つけられなかった。当時のドラムマシンの例に漏れず RY30 は基本 ROMpler。ヘアメタル即応の80sキット、テクノの定番音がひと通り入っている。
- ラテンパーカッションが大量、ドラム音の断片、SE、基本波形。サンプルは今の基準だと決して新鮮ではないが、ドラムマシンの本分はそれをこねくり回して文脈に置くこと。キットは8ボイス、各ボイスが2サンプルで構成される。
- 2つの構成要素はそれぞれ独立してパンとピッチを設定できる。専用のディケイパラメーター、いかにもデジタル臭いレゾナント LPF/HPF + エンベロープも装備。ボイスごとのピッチエンベロープが効く。
- ベロシティによるピッチ/フィルター/エンベロープのモジュレーション、チョークグループ、柔軟なルーティング、極めつけは個別アウトとプロ仕様が揃う。操作は決して快適とは言えないが、2時間ふざけ回った末に生産的なワークフローは確立できた。パターンは最長4小節、リアルタイムとステップで打ち込める。
- パラメーター記録とノートタイミング編集の専用モードもあって上出来。当時は人が実際にドラムマシンで金を稼ぐ仕事をしていたので、本格的なソングモードと編集・整理機能が載っている。スイングは「あまり官能的でないメニュー」の奥に隠れている。内部メモリはすぐ埋まる。
- 特にパラメーター記録を使うとメモリを食う。ただし MIDI 実装は充実していて、当時 Roland R8 が最先端だった SysEx ダンプでのバックアップにも対応。面倒なメニュー潜りを回避するマクロ機能も搭載。ポリフォニーは15ボイス止まりだが体感はもっと多い。内部サンプルレートは48kHz で同世代の競合を上回る。
- 一方でシーケンサー解像度は96PPQN と、シンセ的な機能を持つ機械にしてはやや貧弱。クロマチックピッチバンクは嬉しい配慮。ヤマハは RY30 用のシグネチャー ROM カードを複数出していて、本体は TG 系の wave カードとも互換。この個体は友人 Matthias のスタジオで見つけたもので、彼のコレクションからまた一台借りてジャムしている。
- 中古価格が大きく上がっているのも驚きではない。RY30 はDAW 以前の最後の世代のトップエンド機。音作りの幅は時代遅れの UI を上回るのか。イントロ曲で聴いた通り、「歴代最悪ではないが、間違いなく最高でもない」。ここから恒例のドラムマシン処置に入る。
- エフェクト前のジャム。
- 「これは意外とファンキーだ」。スネアはパリッとしていて、ピッチのアーティファクトも好み。ただし RY30 はライブジャム用に設計されていないので、その場でのミュートやソロは個別アウトを使ってやるしかない。ここからエフェクトペダルをさらに突っ込む。
- エフェクトをかけたジャム。ハードリミッティングはこの音によく合う。
- ただし個別アウトはややノイジーで、高ゲインのエフェクトを通すと特に目立つ。シンセ機能は限定的とはいえ面白い音は出せる。というわけで「高級チーズと夜のつまみ」ジャム、ジャンルは cluttered minimal funk boss music。
- Verdict へ。エレクトロニックミュージック制作という高度に革新的な分野で、いまだに多くのアーティストが80年代前半の音に頼っているのは興味深い、という話から入る。
- RY30 はその課題に最初に取り組んだ機材のひとつ。サンプルの古びは否めないが、作り込まれたエンジンのおかげでRoland のクラシック機に負けないくらい音が張る。ヴィンテージ寄りでもう少しモダンな音を探しているなら一考の価値あり。ただしスタジオ作業用の設計で、UI は人を選び、ライブジャムには追加機材が要る。
- 90年代を通じてヤマハは今も通用するデジタル技術を量産した。AN1x のクリーミーな VA エンジン、RM1x のライブパフォーマンス機能、そして RY30 のドラムエンジン。「ヤマハのグルーヴマシンはとっくに出ていていいはずだ。あの古い中身を新品のピカピカな箱に入れるだけでいい」。
- 締めの挨拶とパトロン募集。月例ボコーダー shout out へ。TF4 に対して「本物のボコーダーが番組に出てから168日経った」ので、bad gear の地下墓所まで降りていったら小さなゴスキッドに出会った、という前振り。
- ボコーダー曲。「#we're only the mini maniacs」「polaroids of the pyramids」といった歌詞。
- 「記憶してたほど悪くない」。Quasimidi シリーズで underperformer が Tier VI 入り。支援への礼を述べて来月へ。