この回の結論
Fizmo は独自のサウンドと面白い物語を持つ、深くて複雑な楽器。その音が欲しいなら、あるいは個人シンセ博物館にまたひとつレアで高価な機種がどうしても必要なら、代わりになるものは無い。ただし Fizmo の最大の強みであるゆっくり変化するダリ的なサウンドですら、自分の第一候補にはならない。上等な Waldorf か Hydrasynth、あるいは Absynth の方が汎用的でミックスに収まりやすいし、ワークフローもその3つの方が好みだ。今日 M-Audio Venom に投資しておけば、2025年には Moog One と Quantum と Hydrasynth Deluxe を揃えられるかもしれない。ひょっとしたら、だが。
何を喋っているか
- 世界一嫌われているオーディオ機材の番組、Bad Gear へようこそ。この番組の主役の多くは世界中どこでも手に入るし、たいてい安い。コメント欄で毎週開催される Bad Gear ビンゴを眺めるのも楽しい。
- だがごく稀に、シンセ論争王国に棲む臆病で神話的な獣が目の前を横切ることがある。あまりに希少で謎に包まれていて、無数の強い意見がどこから湧いてきたのかも分からないような楽器だ。今日は Ensoniq Fizmo。1998年のデジタル・ウェーブテーブル「的」シンセで、ダークモードに着色した Jazz 紙コップみたいなエアブラシ・ユニコーン。
- 伝説的メーカー Ensoniq が最後期に出した楽器のひとつ。Roland、Nord、Access といった他社がバーチャルアナログに focus していた頃、Ensoniq はサイケデリックで実験的、90年代のパラレルワールドから来たようなゆっくり変化する音に全振りした。というわけで今日は Van Halen の「Jump」は無し。一見すると条件は全部揃っている。ミームになれる塗装、ベロシティ対応の61鍵。
- アフタータッチ付き。「そんなに悪くなかった」。ジェームズ・ボンドの時限爆弾みたいなディスプレイと、たっぷりのハンズオン・コントロール。48ボイスの音源に潜る前に生い立ちを。Ensoniq は80年代からサンプラーとサンプリング・ワークステーションを作っていて、アジア勢よりアメリカ的な音と、間違いなく簡単な操作性を売りにしていた。
- Fizmo の Transwave 音源は1989年の VFX が初出。ブランドの人気は90年代前半、ASR サンプラー・ラインで頂点に達したが、その成功をディケイド通して維持できなかった。Fizmo 発売の頃、Ensoniq は Creative Labs に買収され、音楽機材部門は E-mu と統合された。
- 企業文化の違いと、サウンドカード生産へのほぼ全面的な軸足移動が、Fizmo の製造工程とマーケティングの両方に悪影響を与えた。結果が不良品、未完成の UI、そして早すぎる生産終了。名前の由来については情報が食い違っている。音源はサンプルベースで、ASR-10 や EPS 16 Plus と比較する人が多い。
- Fizmo サウンドの核はさっき出てきた Transwave。ウェーブテーブル的な構造で、ノイジーな90年代フラッシュバックからトランスフォーマー50の陰影、喉の奥から出るようなフォルマント系まで。ついでに基本波形とドラムキットまで放り込んである。
- Transwave はお馴染みの面々でモジュレーションできる。音源の残りはもっと平凡。各オシレーターにはやや安っぽい質感のフィルターが付き、ループ可能なエンベロープ3基がアンプ・フィルター・ピッチにプリルーティングされていて、汎用モジュレーションソースとしても使える。
- LFO とノイズモジュレーター、さらに内部・外部のモジュレーションソースが立派なリストで並ぶ。このサウンドを4つまでレイヤーでき、パンを振り、スプリットを組み、MIDI でマルチティンバー演奏し、プリセットに保存できる。
- グローバル LFO もある。Ensoniq は優秀なエフェクトでも知られていて、内蔵リバーブとマルチエフェクトは気に入っているのだが、フロントパネルからは編集できず、ルーティングもやや暗号めいている。複雑なレイヤー音の追い込みは骨が折れる。そこで5つのマクロ的な「Fizmo コントロール」が用意されている。
- 割り当ては「たぶんエフェクトのモジュレーションだろう」という推測を含めて、ウェーブ・モジュレーション、フィルターカットオフ、デチューン、それとプリセットごとに中身が変わるコントローラーが1つ。アルペジエーターは非常に多機能。
- もう分かっていると思うが、この音源はシネマティックなサウンドスケープに滅法強い。抽象的なアルペジオ。そしてもちろんパッド。パッド、さらにパッド。
- 表層の下にはもう一段深いパラメーター層がある。エフェクト設定、5ステージ・エンベロープのフルパラメーター、その他諸々は、古代の SoundDiver や Defective Records の Fizmo エディターといったソフトからしか触れない。さらに大半の Fizmo は容量不足の内部電圧レギュレーターを積んで出荷されている。
- 安全に使うにはレギュレーターの交換が必要。発売当時の価格は約1000ポンドで、完全かつ徹底的な商業的失敗と見なされた。生産台数が少なかったせいで中古価格は目眩がするほど高騰、さらに希少なラック版はもっと酷い。チャンネルを始めて以来ずっと Fizmo を探していたので、貸してくれた Simon には永遠の感謝を。
- 良くも悪くも唯一無二の楽器なのは間違いない。時代を先取りしていたのか、それとも80年代末の技術の焼き直しか。今日のイントロでも既にこのシンセが鳴っている。どうやらもうカンザスにはいないらしい。まずは全オシレーター全開のアマチュア・ヌードリングから。
- 演奏パート。
- 「難しいところだ」。Fizmo 初心者としては、刺激的で多面的な音を作ることと、耳をつんざく共振を抑えることのバランス取りに苦労した。特に数オクターブにまたがって弾くとキツい。改善の余地はあると思う。もう少し深く潜ってマルチスクリーン・ジャムへ。
- 「こっちの方がずっといい」。Fizmo はクラシックなシンセ音も出せるが、本領はもっと左寄りの音。アルペジエーターとマクロコントロールは好きだが、音源そのものをいじると奇妙なグリッチが出る。
- 開発者のひとり Scott Peer は、Fizmo の正しい弾き方は「鍵盤を1つ押さえてノブをいじること」だと言っている。というわけでそれをそのままやる、テクノロジー好きのゴス少年少女向けデヴィッド・アッテンボロー番組のサウンドトラック。
- Verdict。Fizmo は独自の音と面白い物語を持つ、深く複雑な楽器。その音が欲しいなら、あるいは個人シンセ博物館にレアで高価な機種がもう一台どうしても必要なら、代替品は存在しない。
- だが Fizmo 最大の強みである、長い時間をかけて変化するダリ的なサウンドですら、自分なら第一候補にはしない。良い Waldorf か Hydrasynth、あるいは Absynth の方が汎用的でミックスに馴染むし、ワークフローも3つとも Ensoniq より好みだ。今日 M-Audio Venom に投資すれば、2025年には Moog One と Quantum と Hydrasynth Deluxe を買えるかもしれない。ひょっとしたら、だが。
- エンドカード。高評価・登録・Patreon 支援と、次に見たい機材のコメントを募る。恒例の月例ボコーダー・シャウトアウトへ。ティア4。
- 「Fizmo のボコーダーを試すのがすごく楽しみだ」。ティア6は「Fizmo の前では皆平等」。支援への感謝と、また来月。