Roland SP-808ex グルーヴサンプラー

Bad Gear - Roland SP-808ex Groove Sampler

この回の結論

SP-808ex は、クリエイティブなサンプラーに今も求められているものを全部持っている ── 少なくともスペック表の上では。実際に触ると、有名な競合機のようなレスポンスの良さも、各パートを一本に束ねる筋の通ったワークフローも足りない。おまけに限られたポリフォニーが、現代の音楽制作の中心に据える資格を失わせている。ただし廃品というわけではなく、ディスクを入れなくてもシンセと FX プロセッサーは使えるし、そのまま受け入れて内なる90年代グルーヴボックスを解き放ってもいい。

何を喋っているか

  1. 世界一嫌われているオーディオ機材の番組へようこそ。今日の題材は Roland SP-808ex e-mix studio。2000年に出たこのグルーヴサンプラーは、1998年に Roland が市場投入したオリジナル SP-808 のアップグレード版。
  2. 小型の SP たちがカルト的な人気を獲得したのは周知の事実。なのに旗艦機だけがビートメイキング名機の殿堂に入れていない。何がまずかったのか。RAM が完全にゼロなこと、すぐ時代遅れになるストレージ媒体、そしてその媒体が出すノイズスペクトラムが「大人のおもちゃ」並みなこと。あとウクレレ級のポリフォニー。
  3. 一見すると SP-808ex は必要な箱に全部チェックが入っている ── 20年もののZipドライブのように。SP-303 の系譜を継ぐフレーズサンプラー、電子音楽向けに最適化されたフィルターを備えた多機能 FX プロセッサー。
  4. 19インチのフル装備レコーディングスタジオに期待するもの一式と、マイクシミュレーターみたいな90年代最先端アルゴリズム。「ボイストランスフォーマーとボコーダーは正直信じてない」。SP 系はローファイ FX で知られていて、それは後で実際に聴く。この FX プロセッサーの中にはモノフォニックシンセも同居している。
  5. そのシンセは意外と悪くない。70年代の System 182 モジュールに着想を得たステップシーケンサーがあり、FX とシンセのパッチを変調できる。FX とシンセのパラメーターは3つのノブと、お約束の D-Beam に簡単にアサインできる。D-Beam にはサンプルトリガーと簡易ピッチモードがある。
  6. このグルーヴサンプラーの成果は、4ステレオトラックのハードディスクレコーダーに録音でき、ある程度シーケンスもできる。オーディオファイルは例の Zip ドライブに保存 ── これ以上に90年代なストレージ媒体はない。Roland は他のどの機器も読めない独自ファイルフォーマットを選び、全オーディオをディスクから直接ストリーミングする方式にした。
  7. その結果、SP-808 には RAM と呼べるものがなく、Zip ドライブの性能に全面的に依存する。4つ以上のステレオファイルを同時に鳴らしたいなら最悪だ。そう、機械まるごとで4ステレオボイス。大して追い込んでいなくても「drive is busy」のメッセージが亡霊のように付きまとう。
  8. とはいえ、ジョージ・マーティン気取りでトラックをバウンスするのは簡単だ。サンプリングは直感的で「ほとんど不便ではない」。SAMPLING を押してパッドを選ぶと、自己説明的なメニューが手順を案内してくれる。もう一度 SAMPLING を押す。はい完了。
  9. サンプル管理は快調で、クリップボード機能もよく考えられている。VariPitch の音、タイムストレッチ、ピッチトランスポーズが気に入っている。ビートマッチとループも箱から出してすぐできる。入出力はマイク入力1、ライン入出力2系統、ヘッドホン端子。拡張カードでさらに端子が増える。
  10. 作りはしっかりしていてかなり重い。オリジナル SP-808 と ex 版は基本的に同じ機械で、違いは OS と 250MB の Zip ドライブとデザインだけ。OS もドライブも自分でアップグレードできるし、Roland A6 Video Canvas に変身させることすらできる。SP-808 については MIDI Maniac の動画とチュートリアルも観てほしい。
  11. 中古市場では簡単に手に入るし、値段も比較的手頃。SP-808ex は他のグルーヴボックスにも欲しくなる機能を多数積んだ強力なワークステーションに見える。Roland は削るべきでない所を削ったのか? 冒頭のイントロ曲でもう SP-808ex は鳴っていた。シンセはいいし、FX セクションはドラムバスでよく効く。
  12. ライブパフォーマンスで通用するかを実演。演奏。
  13. 「かっこいいけど4つ目のボイスが足りなかった」──「あ、あった。処理してないドラムトラックを消し忘れてただけだ」。制約はさておき、エフェクトはドラムによく効くし、シンセのゴムっぽくデジタルな音色は好きだ。
  14. とはいえ、これら全部を噛み合わせるのは簡単ではなく、操作は時々もたつく。SP-808 には伝説の兄弟機で知られるローファイ FX がいくつか入っているが、オリジナルの Vinyl エフェクトにあったコンプレッションのパラメーターがないのが物足りない。アウトボードを足してローファイジャムをどこまで持っていけるか試す。
  15. 「Vinyl FX はドンピシャではないかもしれないが、サンプルにとってのタイムマシンのように働く。いい」。
  16. 「D-Beam は総じて好きじゃないが、ハイハットに少し動きを足す用途では効く」。SP-808 は間違いなく最も90年代後半らしい機材のひとつ。サンプルCDのループを録り込み、ローファイ FX を全開にし、シンセのプラスチックっぽさは無視する。地下室のホームスタジオで「Y2K が我々を皆殺しにする」、パフパフ回して、ブロークンビートのバラード。
  17. そのローファイジャムの演奏。
  18. Verdict。SP-808ex はクリエイティブなサンプラーに人が今も求めるものを全部持っている ── 少なくとも紙の上では。実際には有名な競合機のようなレスポンスも、全パーツを束ねる一貫したワークフローもない。さらに限られたポリフォニーが、現代の制作環境の中心に据える資格を奪っている。
  19. 「本当に癇に障るもの」コーナー: Zip ドライブの絶え間ないうなり音と、不穏なカチカチ音。とはいえ SP-808ex が用済みというわけではない。ディスクを入れなくてもシンセと FX プロセッサーは使える。MPC2000XL をぶった斬ってカードリーダーを SP-808 に移植してもいいし、そのまま受け入れて内なる90年代グルーヴボックスを発揮してもいい。
  20. 視聴の礼と次回予告。高評価・登録・パトロン、次に扱ってほしい機材のコメントを募集。