90年代からお呼びだ

Bad Gear - The 90s called...

この回の結論

EM-1 は優れたライブ機でも便利なスタジオ機材でもない。UI の癖は無数、機能は限られ、古臭い Lo-Fi サウンドの数も少なく、市場にはもっと強力な代替がいくらでもある。それでも、ここしばらくで番組に出た中で最も楽しい機材のひとつだった。ワークフローは素直で、原始的な音作り機能しかないのにコーンなサンプルが刺激的なトラックの起点や現代的なアレンジの主役に化ける。EM-1 をオモチャと切り捨てるのは簡単だが、KORG の最近のドラムマシン/グルーヴボックス群を見ると、この軽い旧世代 Electribe 風味の方が正解だったのかもしれない。

何を喋っているか

  1. 番組口上。「Roland が考案したグルーヴボックス、つまり電子音楽を作る力を本物のスタジオ持ちから取り上げて、ひどい UI と格闘する暇だけはある十代に渡すために設計された道具」。今日の題材は Electribe EM-1、KORG が 2001 年、グルーヴボックスの第2波と第3波の狭間に投入した機械。ダサいダンス系クリシェの山を捨て、薬物依存歴のあるテナガザルでも扱えるレベルの原始的な代物にした。見た目は良い、ただし緑のやつが欲しい。
  2. 第1世代 Electribe の古典的デザイン。ハンズオンなコントロールが山ほど、ベロシティ非対応だが押したくなるラバーボタンはクロマチック鍵盤も兼ねる。プリセットは 90年代後半のダンスミュージックのジャンルを、それぞれ違う度合いの古臭さで展示している。
  3. 8 つのドラムボイス (チョークグループ 2 つ) と、シンセ的なモノフォニックエンジン 2 つ。
  4. 音源は 194 個の短くてザラついたサンプル。そのうち 144 が打楽器用に取られ、音程モノに残るのはたった 50 個。サンプルベースの兄弟機 ES-1 と違い、この生波形は差し替え不可。
  5. ドラムには単純な AD エンベロープとピッチ変更が使える。シンセ 2 声はもう少し凝った音作りが可能で、そのエンベロープを「いかにもデジタルな音のフィルター」に掛けられる。ドライブ段も同じくデジタル臭い。
  6. 各ボイスは個別に FX セクションへ送れる。アルゴリズムの品質はまちまちで、キレのいいコンプレッサーから、人類が知る限り最悪のリバーブまで。ライブ演奏向けに最適化されたマスターディレイもある。
  7. 内部音源も外部機材も 64 ステップシーケンサーで走らせられる。ドラム用とシンセ用の専用モードあり。現代のグルーヴボックスのような洗練は期待できないが、パターン打ち込みは直感的で、ロール、トランスポーズ、独立した 2 本のアクセントトラックといった追加機能も嬉しい。
  8. EM-1 はモーションレコーディングを積んだ初期の KORG 機のひとつ。ただしライブの Jam に組み込もうとすると途端に限界が出る。パートミュートは再生やパターンチェンジといった基本操作をした瞬間にキューを忘れる健忘症持ち。内部クロックも揺れまくり — 人によってはそれをグルーヴと呼ぶ。MIDI 実装は救いようがなく、パターン管理も辛うじて使える程度。
  9. パターンライトのような必須機能がシーケンサー停止中しか使えない。「今日もまた機材メーカーにお願いする、こういうフルサイズの MIDI 三点セットを積んでくれ」。兄弟機と違って EM-1 にはオーディオ入力がなく、原始的なメニュー構造はまあ大体は説明不要。中古なら 200 ドル前後で見つかるかもしれない。
  10. 2000年代初頭の入り組んだグルーヴボックス生態系の中で、EM-1 のシンプルさは新鮮な風だった。同時代機と比べてオモチャ以上の存在なのか。イントロ曲で既に Electribe の音は聴いてもらった。この一次元的でプラスチッキーな音にもっといい居場所が見つかるか、1本目の Jam で試す。
  11. 1本目の Jam。「思ってたより楽しかった」。ミックスバランスがぐちゃぐちゃなのとデジタルなアーティファクトは脇に置くとして。
  12. シーケンサーには独特の感触があり、レトロなビートとゴムっぽいシンセラインによく合う。Electribe シーケンスの「人間味」とでも呼ぶべきものは伝説級。スウィングを上げて、より有名なドラムシンセの兄弟機を加える。
  13. 2本目の Jam 後。「これ、昔のダンスレコードで聴いたことある音が絶対混じってる」。ER-1 の多用途なシンセエンジンは好きだが、EM-1 のサンプルを重ねるとミックスに太い風味が乗る。
  14. 今日の Jam はいつにも増して荒い音。ここで機械のパターンとサンプルを磨いて、暗く陰鬱、それでいて効率的な「93年風・高タンパクなダンスフロア向け」の一本に仕上げる。
  15. Verdict。EM-1 は優れたライブ機でも便利なスタジオ機材でもない。無数の UI の癖、限られた機能、古臭い Lo-Fi 音の少ないプール — 市場にはもっと強力な代替が山ほどある。それでも、ここしばらく番組に出した中で最高に楽しい機材のひとつだった。
  16. ワークフローは素直で、原始的な音作り機能しかないのにコーンなサンプルが刺激的なトラックの起点や現代的アレンジの主役に化ける。EM-1 をオモチャと切り捨てるのは簡単だが、KORG の最近のドラムマシン/グルーヴボックス群を見れば、この軽い旧世代 Electribe 風味の方が正解だったのかもしれない。
  17. 締め。高評価・チャンネル登録・patron 参加、そして次に扱ってほしい機材をコメントで、といういつもの案内。