この回の結論
V-Synth は疑いなく唯一無二の楽器で、往年のハイテクの塊、当時最先端だった音作りの可能性がぎっしり詰まっている。少なくとも表面上は絶望的に時代遅れだ。タッチスクリーンは現代の iPad の足元にも及ばず、VariPhrase は Ableton のグラニュラーに顔負け、全体のトーンは90年代末の VA の栄光と現代のプラグインの間の不気味の谷に迷い込んでいる。だがこのシンセの不格好さに身を委ねた瞬間、ローランドのチープさとゼロ年代の未来主義と実験的音響探求が交わる地点から、プロ級の音を吐き出しはじめる。好みは分かれる楽器だが、ローランドにもそこそこまともなディスプレイの楽器が作れるという生きた証拠ではある。
何を喋っているか
- 世界で最も嫌われたオーディオ機材の番組へようこそ。どの世代にもローランドのフラッグシップシンセがある。すべての始まりとなった1台、プリセットを積んだ1台、パーティーのやり方を知っていた1台。そしてそこから先は多かれ少なかれ下り坂だった。
- 今日扱うのはゼロ年代の V-Synth シリーズ。シンセシス、サンプル切り刻み、サウンド変形、ボイス処理を箱に詰め込んだ道具で、ここでは2005年の XT が代表。ローランドがまだ革新的なものを作ろうとしていた時代の技術に基づいている。ビジネス的には一見あまり意味がなさそうだが。
- XT はチェック項目を全部埋めている。骨董品みたいな ATM のタッチスクリーンを中心に据えた巨大ラックだが、これは思ったほど悪くない。物理コントロールは削られていて、バックライト付きボタンとメインエンコーダー、それに少しグラつくノブだけ。オリジナルにあったダブル D Beam とスナイパースコープみたいなパッドは無い。ネイティブのエンジンは驚くほど保守的だ。
- 24音ポリを食い潰すのは汎用的なデュアルオシレーター。標準波形からの減算合成に加え、ハイファイ版のノイズと、Juno や D-50、JP-8000 といった名機に着想を得た波形が入っている。
- 一部のモデルにはサブオシレーターが付く。モジュレーション系は豊富で、オシレーターごとに専用 LFO、さらに fat のようなタイプ固有のオプションもある。
- この生の VA トーンは外部ソースに差し替えられる。ここからが本当に面白いところ。ファクトリーライブラリの音、本体でサンプリングした音、コンパクトフラッシュや USB から取り込んだオーディオファイルが使える。当時のサンプルプレイヤーの大半は再生範囲に限界があったが──
- 極端なピッチ範囲でこそ効いてくるのが VP-9000 譲りの VariPhrase。ピッチ、フォルマント、テンポのリアルタイム伸縮が自在にでき、テンポシンクや各種再生モードも揃う。そこにリングモジュレーションのバリエーションを掛けられる。
- FM もある。このカクテルをフィルターに通す。もっとも、通さなくてもいい。COSM アルゴリズムベースのマルチエフェクトが2基あり、ありきたりのローパスの遥か先まで連れて行ってくれる。
- エフェクトは3種類の構成に組める。しかもそれぞれに専用 LFO 付き。さらにもう1基の LFO とアンプ用エンベロープ。90年代末のギター用マルチエフェクトの怪物だ。この巨獣はマルチティンバーで鳴らせて、簡易アルペジエーターとステップシーケンサーで動かせる。
- バーチャルのタイムトリップパッドもある。プリセットはよく整理されているが、ドラム音の実装だけは少々奇妙。第1世代の V-Synth は拡張カードで盛る必要があったが──
- XT には最初から2枚入っている。D-50 モードに切り替えれば Fantasia が鳴り放題。もう1枚の Vocal Designer とローファイなコンバーターエミュレーションで、レコーディング用のハーモナイザーにもなる。
- 詳しくは今日の Patreon ボコーダーシャウトアウトで。この途方もない音作りの砲兵隊は、本体の古めかしいプロセッサによってかろうじて繋ぎ止められている。ライブでモードを切り替えるのは心臓の弱い人向けではない。妙なノイズは出るし、パラメーター操作はもたつくし、Windows 95 のデスクトップ美学は我々の大好きなメニューダイブと実によく合う。
- XT と前述のオリジナルに加え、ローランドは2007年に GT も出した。V-Synth エンジン2基、ポリ数増。そして恒例により、我らが大好きなシンセメーカーは実装でやらかしたらしい。リアパネルは実に壮観。どれも安くはない。この逸品を貸してくれた Mario 氏に感謝。DAW が音響デザインの世界を席巻していた時代、ローランドのビジョンは未来的であると同時に時代錯誤でもあった。
- このゼロ年代の奇物に現代の音楽制作で居場所はあるのか。今日のイントロ曲で既に XT は鳴っていた。非常にデジタルな音だが確かにパンチはある。このシンセエンジンが実際どこまで弄れるのかを知りたい。
- 面白い。VA セクションもアナログ的な鳴りとはほど遠い。全体のトーンは音楽的で大きく、出せる音の幅は膨大だ。
- V-Synth の遠い親戚をサンプリングして、2曲目のジャムにできるだけ多くのパッチを詰め込んでみる。
- 見どころが多い。D-50 エンジンはど真ん中。ローランドの定番トーンが簡単に取り出せるし、カスタム波形の運用も申し分ない。Vocal Designer は歳の取り方が良くなかったが、間違いなく唯一無二の音ではある。
- 最初の2曲で安全運転していたのがバレたと思う。ここからは楽器の実験的な側面を探る番、メタ生物学メガコープ・サイバーパンク・テクノ賛歌で。
- V-Synth は疑いようもなく唯一無二の楽器。往年のハイテクの大きな塊で、かつて最先端だった音作りの可能性がぎっしり詰まっている。コンピューターが、この楽器が本来やるはずだった仕事のほとんどで急速に上手くなっていった時代の産物だ。
- 少なくとも表面上は絶望的に時代遅れ。タッチスクリーンは現代の iPad に敵わず、VariPhrase は Ableton のグラニュラーに顔負け、トーンは90年代末の VA の栄光と現代のプラグインの狭間の不気味の谷に落ちている。しかしこのシンセの不格好さに身を委ねた途端、プロ級の音を吐き出しはじめる。
- ローランドのチープさとゼロ年代の未来主義と実験的音響探求が交わる地点の音だ。好みは分かれるだろうが、ローランドにもそこそこまともなディスプレイの楽器が作れるという生きた証拠ではある。視聴に感謝、また次回。高評価・登録・パトロン・コメントもよろしく。
- パトロン全員への謝辞と月例ボコーダーシャウトアウト。ついに Roland V-Synth XT の Vocal Designer で読み上げ。tier 4 の面々。
- 改めてチャンネル支援への感謝、また来月。