世界最大のシンセ博物館?

The Biggest Synth Museum in the World???

この回の結論

博物館は毎日14時から19時まで開館。控えめな入館料は非営利ミュージアムの運営維持に充てられ、会場はコンサートやその他のイベントにも使われている。クラーゲンフルトはウィーンから車で3時間半、地元の空港はヒースローとは程遠いので、隣国スロベニアやイタリア側から入ることも検討したほうがいい。シンセ狂ではない同行者がいても、この地域は息を呑むほど美しく他にやることも沢山あるので問題ない。

何を喋っているか

  1. 「言葉が出ない。この、俺が黙ってる瞬間を楽しもう」で開幕。ようこそ eboardmuseum へ。シンセと鍵盤楽器の博物館としては世界最大級。舞台はオーストリアの街クラーゲンフルト、アルプスの麓でヴェルター湖のすぐ隣。定番の名機から奇妙で無名なものまで、良いのも悪いのも可愛いのも揃っている。
  2. 伝説的ミュージシャンが所有し実際に弾いた楽器、あらゆるシンセの一点物バージョン、そして信じ難い数のオルガン。最初期の Hammond もあれば「これは一体何なんだ」という物体もある。「シンセが多すぎるので助っ人を連れてきた」と共演者が登場。
  3. 館長 Gert Prix の紹介。シンセの歴史と修理の専門家であるだけでなく、恐ろしく上手いプレイヤーで、数学の教授で、生まれついてのエンターテイナー。Jupiter 8 に何か逸話は? と聞くと「俺は 6 のほうが好きだ」。積んである個体を指して「これは Jupiter 12 だ」。続いてドイツの電子音楽誌が誌上で発表した自作シンセ Formant。「どこから来たかは覚えてない、調べないと分からない」
  4. 「盗んだわけじゃないよね?」「イエスとも言わないしノーとも言わない」。70年代半ばの Roland System 100 は工場から出た新品のデッドストック。そして Grateful Dead が使っていた Hammond M3。
  5. Grateful Dead は2台持っていて、1台は本国用、1台はヨーロッパツアー用。これがヨーロッパで使われた個体。「Grateful Dead よ、力を見せてくれ」。左のは Mike Oldfield のツアーに出ていたもの。話題は先週の Kate Bush の記事へ、80年代に Fairlight で自分のオナラをサンプリングしてレコードに入れたという件。
  6. 「本当に?」— 字幕が崩れているが、屁の名前をめぐる下らないやり取りが続く。次は Tangerine Dream が使っていたオリジナル個体。完全ポリフォニックで、しかも本当に最初期の一台。設計が後年の有名なデザインとは違い、トグルスイッチが並んでいる。これは Moog が買い取ったもので、ピッチホイールとリズムコントローラーを切り替えられる。
  7. 電源を入れると35年間チューニングが狂っていない。これも完璧に動作する。「昔は本当に良いコンソールを作っていた」と Minimoog の木製筐体。「Opus に何か特別な話は?」「特にない」「10点満点なら?」「10」。そして「Moog を『ムーグ』じゃなく『モーグ』と呼ぶようになったのはいつから?」「Bob Moog 本人に会ってからだ」。Memorymoog が入るはずの空きスペースを指して「無いのが本当に悲しい」
  8. Crumar DS2。イタリア製でさほど有名ではないが、当時必要だったものは全部入っている。Crumar Bit は好きか、と聞くと「何台か持ってるが、とんでもなく信頼性が低いし鍵盤のタッチは最悪だ」
  9. Korg Poly-800 が並んでいる、数えたら10台。「この Poly-800 は今まで見たことがないし、二度と見ることもない」— 白鍵と黒鍵を入れ替えた個体。奥さんと二人で午後をまるごと使って2台分やった。目的は人をからかうためだけ。白と黒で1台ずつ。続く Yamaha のシリーズは何を意味しているのか理解するのに時間がかかる。
  10. 「あんたが俺と同じ発音で Yamaha と言うのが嬉しい。ネットではその発音でしょっちゅう馬鹿にされるんだ」。CS コーナーへ、50、60、80 の大物。「特別なパネルを開けていい?」— インディ・ジョーンズが秘宝の洞窟を開ける場面のような扱いで出てきたのは、Harold Rhodes 本人のサイン。
  11. Roland RS-09 をはじめストリングマシンが山ほどある。お気に入りは? と聞くとイタリア製の一台。Hohner の名前が入っているが実体は Logan というイタリアの会社の製品。他のストリングマシンとの決定的な違いは、49鍵それぞれに独立したエンベロープジェネレーターが付いていること。
  12. 「デザインがいい。俺は弾かなくても見ているだけでいい」— だが音も本当にラッシュ。「飲み物を置くのに良さそうだな」「やっていいぞ」。そして例の Mellotron、有名なビートルズのフルート。他にも人生で見たことのない Mellotron 系の楽器が並ぶ。
  13. それもそのはず、20台しか作られておらずそのうち2台がここにある。中身は効果音テープで、セクションを押すと機械が勝手にテープを架け替えて正しい位置まで引っ張ってくれる。「これを見たことがある人はそう多くないと思う」。今テープが減速して止まるところ。
  14. 「本当に素晴らしい技術だ」。テープの中身はウィーンの聖シュテファン大聖堂、馬に乗る音。BBC は映像作品の効果音をこの手の早替え機で全部作っていた。「言葉が出ない。滅多にないことだ。この、俺が黙っている瞬間を楽しもう」。クラビネットの試作機、スライダーが最高にかっこいい。
  15. 全く別物として、極めて希少な Hammond。自動演奏 Hammond で、プレイヤーピアノを作っていた Aeolian 社との共作、1938年に数ヶ月だけ生産された。世界に残る唯一の個体かもしれない。出所はニューヨークの葬儀場。そして当然 DX1 もある。「エンターテイナーにとって完璧な楽器だ」「なぜ Yamaha はもう作らないんだ?」「作れないからだ」
  16. 「これが何なのか聞くのが恥ずかしいんだが」— 実物は見たことがなく、Fairlight のサンプルセットでしか知らない、「たぶん俺が若すぎるんだろう」。「これがそのオリジナルだ」。合唱の音が鳴り、「聖歌隊をありがとう」。ARP のタワーには逸話があるはず、と振ると「いつもノブが無くなってるやつ」「いつもノブが固着してるやつ」。PPC = proportional pitch control。「PPC って病名みたいだな」
  17. Crumar は初期に色々な機種を出し、後にブラスとピアノを合体させた Multiman 系に落ち着いた。一番売れたのが Multiman-S、次の Multiman S2 は非常に希少、これが最初の Multiman でこれも希少、2台持っている。Poly Box のノブは軍用品みたいに見える、と言うと「実際そうだった可能性が高い」
  18. 「これが世界最悪のキーボードだ」。Ibanez がストンプボックスを作り始めるきっかけになった機種だと思う、二台目は一度も見たことがない、あったら買う。Traveler フィルターの単体版があるとは知らなかった、それもそこにある。そして Chorus Ensemble が3台、「なぜなら今でもこれが最高だからだ」。展示の多くはヴィンテージの PA に繋がれてすぐ鳴らせる状態で、維持と修理にかかっている労力が信じ難い。
  19. とはいえヴィンテージの CS-30 をジャムで使える状態に持っていくには数時間では足りないだろう。「見ろ、フロアがもう一つあった」。オルガンがさらに増える。ドラマー用のキーターがあり、Slap It もある。「Polysix があるのに誰も気に留めないのが変な感じだ」
  20. もう一台の大物、ただし齧られている。「見た目が酷い」「二口目は要らないだろうな」。もう誰も興味を持たなくなった80年代の黒い Roland たち。Hammond の物量が圧倒的。「SD シンセシスって一体何だ」。気付くとまた別の部屋にもオルガン。「何の話をしてるんだ」「俺はオルガン・フェチなんだ。自分の体の話じゃないぞ」
  21. さらに下の階がある可能性は? 「そこは掘って進むしかない」。シンセウェイヴ調の内装が良い、実に美しい。縦型ミキサーは操作すると自分がスピーカーの真正面に立つ設計で、体をマッサージされることになる。またオルガン。Leslie を全部同時に回したら巨大なタービンができて別次元に持っていかれるのでは。最後の部屋にはまた Polysix、そしてまた Polysix。
  22. 「よし、今日はここまでにしよう」。博物館は毎日14時から19時まで開館。控えめな入館料は非営利ミュージアムの運営維持に充てられ、会場はコンサートやイベントにも使われている。クラーゲンフルトはウィーンから車で3時間半、地元の空港はヒースローとは程遠いので、隣国スロベニアやイタリア側から入ることも検討したほうがいい。
  23. シンセ狂ではない同行者がいても、この地域は息を呑むほど美しく他にやることも沢山ある。「この小さなゴンゾ・ドキュメンタリーが気に入ったら、高評価・登録・パトロンに。共演者のやってることは全部チェックしろ、完全な伝説だから。eboardmuseum に行け」。ここから NG 集: 「オーストリアじゃサウンド・オブ・ミュージックなんて誰も気にしてない。あれは観光客向けだ」
  24. サウンド・オブ・ミュージックはミーム経由で知った、子供の頃は知らなかったし誰も気にしていなかった。もちろんツアーやグッズは山ほどあるが、あれは主に観光客向け。本気で好きなオーストリア人がいるとしたら、それは一周回って海外で人気になり、国際メディア経由で逆輸入されたからだ
  25. 「興味深いな」「具体的すぎて B ロールにならないぞ」。そして長年言い続けているモットーの一つ、「バナナにノーと言うな」。誰かにバナナを差し出されたら、腹が減っていなくても必ずイエスと言え。完璧に包装されているしポケットにも入る。バナナには7種類の糖が入っていて、
  26. その7種類が順番に複雑になっていくので、なめらかにエネルギーが供給され続ける。だからバナナは一番幸せな果物なんだ。締めは「そんな持ち方は絶対しないけどな」