この回の結論
スタンドアロンのハードウェア・プラグインホストという構想は、あまりうまく歳を取らなかった。Muse Research の Receptor や MuseBox、キーボード一体型 DAW の Open Labs NeKo みたいに面白い機材はいろいろあったが、今のミュージシャンは結局 PC を使うか、iPad を使うか、そもそもプラグインなんて10フィート棒の先でも触りたくないかのどれかだ。V-Machine で動くプラグインには今でも弾いて楽しいものがあるが、非力な CPU・イライラするワークフロー・その他の制限リストの長さを考えると、古い軍用グレードの ThinkPad と Fast Track Pro を買った方がマシかもしれない。それでも Crysis は動かないが、Unreal Tournament 99 なら問題なく走るはずだ。
何を喋っているか
- 世界一嫌われたオーディオ機材の番組へようこそ。ここ数週間は「賛否は割れるが人気はある」楽器が続いたので、そろそろまたマイナーで、見捨てられて、時代遅れなやつをやる時間だ。地獄への道は善意で舗装されている。
- 今日は 2008年の SM Pro Audio V-Machine。PC を実際に使う面倒抜きでプラグインの万能さを約束した、スタンドアロンのハードウェア VST プレイヤーだ。作ったのは「オーストラリア版90年代 Behringer」とでも言うべきメーカー。で、Crysis は動くのか。ぱっと見の V-Machine は、バーベキューにエビをもう一匹放り込みそうなオージー感はゼロ。
- 超ミニマルな UI はお世辞にも心躍るものではないが、弾けるし、いじれるし、MIDI 経由でメニューを潜ることもできて、これは一応ちゃんと動く。本体は単体で USB ホストとして機能する。
- ゼロ年代後半のテクノロジーに詳しい人ならもう察しがついている通り、この機械の正体は小さな Linux コンピュータだ。CPU 1GHz、RAM 512MB、フラッシュメモリ 1GB。これは全然足りないので、付属の Sonic Projects OP-X のようなヴィンテージ系ソフトシンセですら CPU 負荷が振り切れがちになる。
- 同じメーカーのストリングス系プラグインや、付属の昔ながらのフリーウェアあたりなら余裕の範囲。ただし V-Machine で実際に動かせるソフトのリストはあまり長くない。理由は複数あって、32bit の PC 用プラグインのみ、フル・ライセンス版が必要 (今となっては入手自体が難しいものも多い)、そして最悪なのが——
- プラグインごとに「wizard ファイル」なるものが要る。公式の配布コレクションがあり、テキストエディタで自作もできる。プラグインと設定を本体に送り込むには VFX というエディタソフトが必要で、Windows 10 では十分安定して動いたが、使っていて楽しいものでは全くない。USB ケーブル経由の転送も技術的には可能だが、データ転送が信じられないほど遅い。
- 結局いちばん現実的なのは FAT32 の USB メモリにセットアップを保存する方法。V-Machine は外部ドライブからも内蔵メモリからも直接プラグインを走らせられる。最大4チャンネルのマルチティンバー、センド・インサート・マスター FX も可能だが、貧弱な CPU 性能に思いっきり足を引っ張られる。あとこの機械のファイルシステムはいまだに理解できていない。
- 大昔のフリーウェア・プラグインのインストールはたいていうまくいく。そして Delay Lama も動く——もう買う理由はこれで十分だ。パラメーターはアルファベット順に並ぶが、その並びがしばしば間違っている。MIDI ラーンは速くて簡単。
- みんなが V-Machine を欲しがった主な理由はたぶん、ファンノイズが無いこと、はっきり分かるレイテンシーが無いこと、プログラムチェンジのグリッチが無いこと、未解決のバグが無いことだった (実際にはそのどれも無くなっていない)。SM Pro Audio は 2012年に Harman Kardon に買収され、サポートは一切存在しない。ただ V-Machine 愛好家のグループが情報とソフトの配布で機材を生かし続けている。
- RAM も内蔵メモリもアップグレード可能。割れたプラグインは試していない、だってほら、違法だから。買うなら値付けが完全にランダムに見えるので、Classic Keys コレクション付きの個体を探すといい。PC 抜きでプラグインを使うという発想は魅力的だし、当時は大いに期待されていた。未完成で非力なこの機械は、今でも楽しいのか。
- 実は今日のイントロでもう V-Machine の音は鳴っていた。本物のシンセと間違えた人もいるかもしれない。骨董品級のフリーウェア・プラグインを立ち上げて、この機械のマルチティンバー性能を試す時間だ。
- うわ、完全に思い出巡りの旅だった。古いプラグインの中には今でもかなり良いものがあるが、いくつかのバグと格闘したし、マルチティンバーのパッチを組むのにかなり時間がかかった。好みのシンセ音は CPU を振り切ってしまう。
- というわけで妥協が必要になった。もう少し息をさせてやろうということで、定番のマルチスクリーン・ジャムへ。
- 本物のハードウェア楽器でもっとひどい音は聴いたことがあるが、2022年にわざわざ自慢するような音でもない。しかも音をゼロから作り込む作業は、USB メモリを本体とパソコンの間で往復させ続けるのと同じくらい退屈だ。とはいえ原石の中には光るものもある。それを磨けるか試したい。
- その舞台が「サイケデリック・アルパイン・ムンバートン風シュープラットラー (バイエルンの民族舞踊) チュートリアル」。ジャム。
- Verdict。スタンドアロンのハードウェア・プラグインホストという概念は、うまく歳を取らなかった。Muse Research の Receptor や MuseBox、キーボード一体型 DAW の Open Labs NeKo など面白い機材はあったが、今の音楽家は本物の PC を使うか、iPad を使うか、そもそもプラグインなんて10フィート棒の先でも触りたがらないかのどれかだ。V-Machine で動くプラグインには今でも弾いて楽しいものがある。
- だが非力な CPU、イライラするワークフロー、その他の長い制限リストを考えると、古い軍用グレードの ThinkPad と Fast Track Pro の方がマシな選択かもしれない。それでも Crysis は動かないが、Unreal Tournament 99 なら問題なく走るはずだ。観てくれてありがとう、また次回。
- 高評価・チャンネル登録・Patreon 支援と、次に番組で見たい・聴きたい機材をコメントで。