この回の結論
Boss DR-3 は、音楽制作の世界が根底から変わっていく時期に出てきた楽器。先代の持つオールドスクールな味と単純さは無く、かといって後の電子楽器が持つコンピュータ連携や洗練された UI も無い。自分でも言っていて寒気がするが、DR-3 でできることは全部、パソコン、いや携帯でももっと簡単に速く良い結果で出せる。ただし機材に賢くあってほしくない場面 — 路上、あらゆるライブ、暗くて汚いクラブ — は誰もが知っている。DR-3 はひたすら正しい方向へ押し続けないと進まない荷役ロバのような存在で、動物愛護家としては、コンピュータを疫病のように避けたい人か、DAWless セットの繋ぎで高級グルーヴボックスを空けたい人にすすめる。あ、忘れてた。カウベルも入ってる。
何を喋っているか
- 本編前に重大発表。「2020 Best Online Music Tech Personality Award にノミネートされた。俺はもう Nick Batt に投票した。お前らが何をすべきかは分かってるな」と、自分に票を入れる気ゼロの告知。
- 世界で最も嫌われたオーディオ機材の番組 Bad Gear。あの快調な Boss DR-550 回をやったとき、Dr. Rhythm シリーズが多くのミュージシャンにとってどれだけ重要かを完全に見誤っていた。年齢もジャンルも経歴も関係なく、コメント欄のほぼ全員がこの小さな Boss のノイズメーカーにまつわる思い出を持っていた。今日はもっと新しいモデル、DR-3 を扱う。
- DR-3 は 2003 年発売。翌年に多機能な DR-880 が続き、そしてこの、何だかよく分からんやつが出た。DAW 革命が既に本格化していたにもかかわらず、いや、だからこそ Boss はギタリストとソングライター向けの古典的デジタルドラムマシンを作り、ついでにベースパートも突っ込んだ。同じ年、本人は魔改造したマシンで Fxpansion BFD のバックアップコピーを回していた。
- 当時の自分にとって DR-3 みたいな楽器は完全に格下、相手にする価値も無かった。だが 2020 年の自分は、あの磨き上げられたドラムライブラリにいい加減飽きている。幸いこの番組なら Zero-G Datafile One のサンプルで押し通しても許される。DAWless という言葉が生まれるずっと前から「何が何でもコンピュータを避けたい」派には、DR-3 は一見すべての条件を満たしている。数は多いがやや小さいベロシティ対応パッドは、パターン選択も兼ねる。
- 大きなバリューダイヤルと、モード・トランスポート・メニュー移動用の一見自明そうなボタン群。タップテンポもあり、キーシフトはおそらくベースパートの移調用と思われる。
- バッキングトラックの仕上げ用に Boss は TSC テクノロジーを搭載。マルチバンドコンプ + EQ セクションとリバーブエンジンで、カラッカラに乾いたドラムサンプルに息をする空気を与える。スタイルと呼ばれる非常に凡庸なプリセットパターンセットが 100 種、これまた似たり寄ったりのドラム/パーカッションキットが 50 種。
- 自作パターン・自作キットも作れるが、ここから頭を掻きむしる時間が始まる。90年代音源モジュールの UI 地獄を散々見てきた人間でもこれはきつい。DR-3 でそこそこ複雑なスタイルを組んでから 24 時間も経っていないのに、操作方法をもう 95% 忘れた。メニューダイブと、設定の保存待ちのぼんやりした記憶しか残っていない。
- 「パターンを Bass A から Fill A にコピーする」程度の単純作業に、必要とは思えない回数のボタン押しが要る。パターンとキットは 2 バリエーションを切り替え可能、スタイルの指定パートをミュートできる。START と大文字で書いてあるボタンに向かって矢印を引き「押すとスタート」と書かれたシールのセンスは嫌いじゃない。ベースパートを切れないという苦情が多いが、
- 全パターンでできるわけではないものの、たいていはミュートボタンがまさにそれをやるように設定されている。MIDI IN があり、サンプルのトリガーと外部クロック同期が可能。背面に小さなボリュームノブ、出力はフォンと RCA 両方あるのが嬉しい。ドラムサンプルのピッチを変える方法を見つけた人はコメントを。できないなんて信じたくない。
- 電池駆動のこのユニットは最近ディスコン。中古は 70〜200 ドル/ユーロ/ポンドで大量に出回っている。まともなドラムマシンに見えるが、本当に先代からの進歩なのか。イントロ曲で既に鳴っていた通り、ロック系のドラムはきっちり決まるし、音はパンチがあって実用的。ただしリアルタイムでいじる機材ではない。
- 小さな Moog フィルターでベースサンプルにドラマを足せるかを検証。
- なぜこいつにマルチバンドコンプが入っているのか理解した。サンプルのバランスが悪い。滑らかなベースフィルタースイープは難しく、内部でドラムボイスのレベルを詰めるときはシンバル類が暴れないよう相当慎重にやる必要がある。パターン選択によるごく初歩的な曲構成システムは、純電子音楽でも十分理にかなっている。
- ただし自分の音楽的アイデアをこの機械に入れる作業が面倒でしかたない。シーケンサーのことは一旦忘れて、内蔵マスタリングチェーンを限界まで追い込んだロボダンスなルーティンを披露。
- 「悪くない」。マルチバンドコンプ全般が好きではなく DR-3 のマスターダイナミクスも例外ではないが、仕事はきちんとこなす。次は、ソフト音源と生ギターを足してバッキングトラックの一つを不気味の谷から引っ張り出せるかを試す。
- ギターは何十年来の親友でありバンドメイトの Martin。実演。
- Verdict。Boss Dr. Rhythm DR-3 は、音楽制作の世界が根本的に変わっていく時期に出てきた楽器。先代のオールドスクールな味と単純さは無く、かといって後発の電子楽器のようなコンピュータ連携や洗練された UI も無い。
- 人が言っているのを聞くといつも身がすくむ台詞だが、DR-3 でできることは全部、パソコン、いや携帯でももっと簡単に速く良い結果で出せる。とはいえ、機材に賢くあってほしくない場面は誰もが知っている。路上、あらゆるライブ、暗くて汚いクラブ。この Boss のバス+ドラム機は相変わらずひどい。触った瞬間に音楽を作りたくさせ、頭の中に絵を描かせ、創作中に手を引いてくれる機材というものがある。DR-3 はそうではなく、
- ずっと正しい方向へ押し続けないと進まない荷役ロバのような存在。動物愛護家としては、コンピュータを疫病のように避けたい人か、DAWless セットの繋ぎで高級グルーヴボックスを空けたい人にすすめたい。「あ、忘れてた。カウベルも入ってる」。最後はいつも通り、次に扱ってほしい機材をコメントで、と締め。