この回の結論
音にクランチと汚れとヴィンテージ感を足す方法はいくらでもあるし、多くの偉大なアーティストが SP シリーズを選ぶのには理由がある。だが 202 が SP-303 のような後継機に結びついた「lo-fi の旨味」と「解放的なシンプルさ」を出せるかは疑わしい。伝説の vinyl sim エフェクトのような必須機能を欠いているし、確かに壊れたレコードみたいな音は出せるものの、その癖と制約の多くは自分の創造性を刺激するより苛立たせる方が大きかった。この古臭いワークフローと音の奇癖に惚れ込んだ人には価値ある一台になるが、今出回っている SP-202 の多くは「2025年の機材購入資金を作るための仮想通貨みたいな投資対象」として持ち主を変えているだけではないか。
何を喋っているか
- 「世界で最も嫌われているオーディオ機器の番組」へようこそ。今日は Boss SP-202 Dr. Sample、1998年のパフォーマンスサンプラーにして 60年代スタートレックのレコーダーのグルーヴィー版。SP シリーズの始祖であり、J Dilla ら伝説的アーティストが使った SP-303 の直接の先祖。
- ただし SP-808 の回で見たとおり、シリーズの旗艦だからといって全ての SP がカルト名機になれるわけではない。去年の SP-404 の盛り上がりを踏まえ、そろそろ全ての始まりの場所を見に行く時期だろう。
- 一見すると SP-202 は条件を満たしている。赤い 90年代版 Roland IRA デザイン (数週前に扱った DR-202 と同系統)、バックライト付きだがベロシティ非対応のパッド、ほぼ説明不要の UI。16スロットへのサンプリングは至って簡単で、音源を繋ぐか内蔵マイクを使い、録音を押し、パッドを選ぶ (機械が空きパッドを自動で選んでくれる) か、もう一度録音を押すだけ。
- モノ/ステレオで録音可能。サンプルレートは驚くほどクリーンな hi-fi 31.25kHz から、かろうじて使い物になる lo-fi 2 の 3.91kHz まで。実用的なのは standard と lo-fi 1 あたりだろう。
- 再生モードは2種類、ループも可能。BPM カウンターは精度は高くないがループ作業では役に立つ。サンプル編集はできるが耳だけが頼り。ループを走らせて、始点にしたい位置で MARK を押す。それで終わり。
- 終点も同じやり方で、BPM 検出の助けが付く — 「紙の上では実際より良さそうに聞こえる」機能。視覚的な手がかりはなし、ノブやボタンでの始点微調整もなし。あるのは猫並みの反射神経とちょっとの運だけ。
- ついでに録音後のサンプルレベルは変更不可、自分の知る限りクロマチック再生の手段もない。サンプルが揃ったら内蔵 FX で飾り付け。フィルターが2つ、うち1つはレゾナンス付き。
- FX を足すとポリフォニーが減る点に注意 — もっとも元から大した数はない。最大4ボイスが、standard と lo-fi のサンプルなら最低1つ、hi-fi サンプルなら最低2つ削られる。
- さらに pitch FX を除けば同時に処理できるサンプルは1つだけ。ディレイはステレオサンプルで動かず、そのステレオサンプルは (豆知識) ドライ再生だけでポリフォニーを2ボイス食う。内蔵メモリは hi-fi ステレオ16秒から、lo-fi 2 のモノで4分20秒まで。
- 拡張には入手困難で法外に高い 5V の SmartMedia カード (最大4MB) が必要。そしてカードを使うと — お察しのとおり — SP-202 のポリフォニーがさらに減り、FX セクションはほぼ使い物にならなくなる。外部入力にエフェクトを掛けられるのは良い点で、ポリフォニーの正しい使い道。RCA とミニジャックは機材の性格上驚きなし。
- 外部音源と内蔵サンプルをミックスするスイッチあり。MIDI 実装は当時 Roland/Boss が認めていた以上に酷い。電池駆動も可能。筐体はプラスチックだが頑丈で、自分の個体はノブがぐらつく。Reverb での中古相場と 5V 4MB SmartMedia カードの価格に触れる (字幕が崩れており数字は判読不能)。
- SP-202 は90年代の安価なパフォーマンスサンプラーとしても極端に制限が多い。その癖のある lo-fi サウンドは手間に見合うのか。冒頭のイントロ曲は SP-202 の standard モードでサンプリングしたもので、サンプラー特有のざらつきは明白だが信号は完全には壊れていない。4モード全部を切り替えながらもう一度聴く。
- lo-fi 2 はバンジョーとバグパイプ専用にしておくべき。次は兄弟機であるドラムマシンとの組み合わせが楽しみ、とジャムへ。
- Roland/Boss がこの2台を設計した時に思い描いていたのはこういう姿かもしれない。制約だらけでも完結したセットアップで、ヒップホップや lo-fi といった他ジャンルならもっと機能するかも。DR-202 にはサンプラー側をトリガーする専用 MIDI トラックがあるが、このジャムではあまり役に立たなかった。次はドラムサンプラーとして使えるか試す。
- ドラム打ち込みのデモを経て「これは af 級に頑丈だ」。短いドラムサンプルに使うにはいくつか回避策が必要だったが、タイミングは予想より良い。
- テンポを落としてループを流し込み、「勉強・リラックス、そしてサンプラーのアーティファクト鑑賞のための lo-fi ビート」を作る。
- Verdict。音にクランチと汚れとヴィンテージ感を足す方法は無数にあり、多くの偉大なアーティストが SP シリーズを選ぶのには理由がある。ただし 202 がその役目を果たせるかは疑わしい。
- SP-303 のような後継機にある「lo-fi の旨味」と「解放的なシンプルさ」を 202 は出せていない。伝説の vinyl sim を欠き、壊れたレコードみたいな音は確かに出るが、その癖と制約は創造性を刺激するより苛立たせる。この古臭いワークフローに惚れた人には価値がある。
- だが今持ち主を変えている SP-202 の多くは「2025年の機材購入資金を作るための仮想通貨みたいな投資」ではないかと締める。見てくれてありがとう、また次回。高評価・登録・Patreon、そして次に見たい機材をコメントで。