この回の結論
2010年前後のアナログ復権は KORG Volca のような楽器と結び付けて語られがちだが、それは構わない。歴史的な始祖は確かに Tetra と Mopho でも、そこには競合のような遊び心が無いからだ。これはプロの楽器で、気楽なライブ・ツイーク用に仕込むことはできるものの、ノブいじりの至福への道は退屈なメニューとソフトエディターで舗装されている。それでも音は間違いなく素晴らしく、UI の老け方はひどいが、プラグインの認証や DRM やクラウドのサブスクと戦うよりはまだ楽しい。
何を喋っているか
- 世界一嫌われたオーディオ機器の番組、Bad Gear へようこそ。Dave Smith が作ったシンセを買う理由なら山ほどある。初期 Prophet の重厚さ、Evolver の頭がおかしくなるような音作りの可能性、Vector シンセ全般の直感的な UI コンセプト。ただし彼は Tetra も作った。
- 一見すると、この小さなシンセは欲しくなる条件を全部満たしている。2010年の Tetra の4ボイスは、DSI がゼロ年代末に出した「Pro-One 的なあの黄色いやつ」(Mopho) とほぼ同じ中身。
- 良くも悪くもフロントパネルの設計もほぼ同一で、あの多機能プッシュ式ノブ付き。クラシックなライブ・ツイーク以上のことをやろうとすると話が変わってくる。
- 任意のパラメーターを割り当てるには、parameter assign ボタンを押し、果てしなく長いくせに階層は浅いメニューをステップして、もう一度ボタンを押す。この多少ひねくれた方式で、21世紀版 Prophet のデュアルオシレーターエンジンを操る。
- 専用ノイズジェネレーター付き。アナログオシレーター部の、巨大でザラつきがちで周波数帯域を占有しまくる暴力性。それを2基のサブオシレーターだけでなくフィードバック回路まで足してさらに押し上げている。
- 自己発振可能なローパスフィルターがオシレーターに見合った出来なのは驚くにあたらない。カットオフノブをいじるのはかなり気持ちいい。
- 3基の ADSR エンベロープのうち1つがその高貴な任務に充てられ、残り2つはアンプ用か自由割り当て。4基の LFO も同様。モジュレーションマトリクスは使いやすい — ちょっとしたメニュー・シュノーケリングを厭わなければ。
- ここまでは Mopho ファンには周知の話だが、Tetra の売りはあくまでポリフォニー。ユニゾンで4ボイスは多いとは言えないが、レイヤーとスプリットが可能。しかも各ボイスに個別アウトを持つ本物のマルチティンバー動作で、1台で独立したモノシンセ4台になる。
- ただしこの素晴らしさは、人間工学とは無縁のワークフローに縛られている。パッチのネーミングも、4鍵で走らせる内蔵シーケンサーのトラックも、ほぼ無限に続く一列のパラメーターというジャンプスケアの列をいじって組む羽目になる。イマイチなアルペジエーターをマルチティンバー・コンボモードで使う方法は見つからなかった。
- そのコンボモードはプログラムモードとは別に512個のパッチメモリを持つ。一方、Mopho で皆が愛した外部オーディオ処理は非搭載、内蔵エフェクトも無し。ソフトエディターは各種あり、専用の Max for Live パッチはよく動いた。実際に Tetra をポリチェインした人はコメント欄へ。ビルドクオリティはまずまず、たまにノブが暴れる程度。
- 膨大なコレクションからまた1台貸してくれた Grove Baggage Sound System の Mätäd Fuse に感謝。Dave Smith はアナログ復権がメインストリームになる何年も前に全ベットしていた。この初期のハードウェア希望の灯は今日でも通用するのか。イントロ曲でもう Tetra は鳴っている。
- ジューシー。ピコピコ、ブリブリ、クラシックなベース、80年代のキッチュさ — これを全部1曲に詰め込めるか試す。
- あのジャムはちょっと欲張りすぎたかもしれない。だが Pro-One 的なベースとレトロなポリのパッチは最上級品で、実験的な音にも事欠かない。次はポリ音源をもう少し掘りつつ、内蔵シーケンサーでパターンを組む。
- 悪くない。シーケンサーのワークフローは楽しさとは程遠いが、基本的な音楽的モチーフを走らせるのは簡単で、このシンセの血筋は隠しようがない。
- 象徴的なシンセ音は置いといて、Tetra はあらゆる種類の変な音とパターンが得意。モジュレーションとフィルターの悲鳴を全開にする。Serum じゃなくてこういうシンセを使ってくれるならサイトランスももっと聴くと思うが、話が逸れた。清々しく古臭い Goa トランス。
- Verdict。2010年前後のアナログ復権は KORG Volca のような楽器と結びつけて語られがちで、それはそれで構わない。というのも、この功績が無ければ Tetra は Dave Smith の偉大さというモザイクの、ただの一片で終わっていたからだ。
- Tetra と Mopho は歴史的には確かにこの潮流の始祖だが、さっき挙げた競合のような遊び心は無い。これはプロの楽器だ。気楽なライブ・ツイーク用にセットアップすることはできるが、ノブいじりの至福への道は退屈なメニューとソフトエディターで舗装されている。しかも今どきのプラグインの出来を考えると、後者はますます魅力が薄い。
- Tetra が素晴らしい音のシンセであることは疑いようがない。UI の老け方はひどいが、プラグインの認証や DRM やクラウドのサブスクと格闘するよりはまだ楽しい。視聴に感謝、また次回。like・subscribe・Patreon・下のリンクで支援を — Bad Gear の客人が何を買えと命じてこようが関係なく。