MS-20 mini

Bad Gear - MS-20 Mini

この回の結論

MS-20 mini はインスタの一瞬のショットならオリジナルと見間違えられるし、ヴィンテージシンセの風味もある程度は再現できる。だが先祖が最良の意味で「手に負えない獣」だったのに対し、ミニの方は無くても全く困らない癖を追加で抱えている。窮屈なフロントパネル、水準以下のビルドクオリティ、ノイズに侵された信号経路が、変なリトリガー挙動や融通の利かないパッチパネルという元からの奇癖に、嫌な形で上乗せされている。この10年でシンセ界がどう変わったかは実に興味深い。2030年の我々が今日のバカ騒ぎをどう思うのか、待ちきれない。

何を喋っているか

  1. 世界で最も嫌われているオーディオ機材の番組。有名楽器を真のアナログ形式で再発することを拒むシンセメーカーがいる中、KORG はその一味ではない。
  2. 今日は MS-20 mini。KORG の70年代末〜80年代初頭の名機を2013年に縮めた公式クローンであり、2004年の半独自仕様な MIDI コントローラーのそっくりさんでもある。象徴的なデザイン言語を受け継いだだけでなく、FBI に怪しまれそうな名前まで背負い、さらに「アナログリバイバルとかいうやつ、そもそも間違いだったのでは」という疑問まで突きつけてくる。一見したところ mini は全項目の86%を満たしている。
  3. スケール比較の基準物が無くても、ガタついたミニ鍵盤とミニジャックのパッチパネルを見れば「これはお前の親父の MS-20 ではない」と一目で分かる。後者は Eurorack に定義されたシンセ世界では必ずしも悪いことではないが、メイン出力と外部信号プロセッサー入力はフルサイズであってほしかった。
  4. モジュラー的な用途にはまだ他にも制限がある。2010年代の避けがたい小型化の産物。オリジナルとの共通点は多く、大筋は在来型ながら PWM の無いモノシンセ構成、そして無駄に暗号めいたラベリング
  5. ノイズを含む基本波形と、おなじみ愛すべきリングモジュレーション。フィルターに入ると話が少し面白くなる。ローパス/ハイパスの組み合わせ自体は初心者にもよく知られたところだが。
  6. オリジナル MS-20 は世代によって搭載フィルターが違い、今日に至るまでネット上で炎上議論の種になっている。初期型は伝説の KORG 35 フィルター、後期リビジョンはもっと平凡な設計。今回のこの個体は 35 系で、レゾナンス付き 6dB ハイパス + 12dB ローパス。
  7. 両フィルターとも自己発振可能で、有名な「音のバットマン化」ができる。エンベロープも同様に癖が強い。サステイン段が固定のもの (ピッチへ内部結線) と、音量とフィルターにプリパッチされた H+ADSR。
  8. オリジナル MS-20 の細かい癖の専門家ではないが、Sound on Sound によれば mini のモジュレーター挙動は先祖のそれとは違うらしい。LFO は1基で我慢するしかない。この構成で滑らかなヴィンテージシンセ音も、ギラついたアナログパンクも出せる。
  9. MS-20 の能力のごく一部にすぎない。パッチパネル経由でしか触れない機能が結構ある。エンベロープ反転、ピンクノイズ、LFO のパルス波、サンプル&ホールド、パッチ可能な VCA 制御、ホイールとモーメンタリースイッチのアサイン、そして本体をかろうじて使えるギターシンセに変える例の外部信号プロセッサー。
  10. Hz/V と S-Trig という規格は忠実だが、Eurorack 愛好家には失望のもとにもなり得る。トラックでは使い物にならないような面白い音を作るには十分。背面には USB とぽつんと1つだけの MIDI INがあり、ベロシティ無しのノートオン/オフしか受け付けない。
  11. アナログリバイバル黎明期の再発機としては悪くない話に聞こえるが、mini には多くのシンセ弾きが「これは無理」と判断する要素もある。まずオシレーターを切っていても顕著なノイズ漏れ。そして90年代の Behringer のミキシングコンソールより悪いビルドクオリティ。前者は自分の作りたい音を考えれば大した問題ではないが、後者はかなり興ざめになり得る。
  12. 価格設定は実に2013年的。展示品を貸してくれた Klangfarbe に感謝。この小さな MS-20 はもう10年近く前の製品で、その間にシンセ市場は大きく変わった。手頃なアナログ機が溢れる今でも戦えるのか、そして先祖の遺産に値するのか。今日のイントロ曲で既に鳴っていて、必要以上に効いてしまっていた。まずは普通のアナログモノシンセとして扱ってみる。
  13. デモ演奏。
  14. 滑らかな音と、ほとんど制御不能なフィルターレゾナンスの混合で、完全に MS-20 の領域。とはいえ反応の良いアナログコントロールはノブのぐらつきとクソみたいな鍵盤に台無しにされている。外部モジュレーションで音の語彙を広げられるか試したい。
  15. BeatStep Pro でのコントロールは、正しい規格に設定してやれば問題なく動いた。いろんなパッチを試している間は、例の散々議論されているノイズ問題に苦しめられた。
  16. このけたたましく鳴き叫ぶ白鯨で、ノイズを芸術に変えられるか試す時間。
  17. Verdict。MS-20 mini はインスタの一瞬のショットならオリジナルと見間違えられるだけでなく、ヴィンテージシンセの風味もある程度は再現できる。だが先祖が最良の意味での「手に負えない獣」だったのに対し、mini には無くても全然困らない癖がいくつも追加されている。窮屈なフロントパネル。
  18. 水準以下のビルドクオリティとノイズに侵された信号経路が、変なリトリガー挙動や融通の利かないパッチパネルという古典的な奇癖に、嫌な形で上乗せされる。この10年でシンセ界がどう進化したかは実に面白い。2030年の我々が今日のバカ騒ぎをどう思うか、待ちきれない。
  19. 高評価・登録・パトロン・コメントの案内。月例のパトロン向けシャウトアウト。teenage engineering の Choir で実際の発話を合成するのは理論上可能でも簡単ではない、ということで少し改造を加えて多少やりやすくした。
  20. それでも演奏はかなりの難行なので大目に見てほしい、と言いつつ tier 4 のシャウトアウト演奏。
  21. tier 6 のシャウトアウト。「どのテクノロジーを使っているか分かった人はコメントで教えてくれ」
  22. 演奏と笑い。改めてチャンネル支援への感謝、また来月。