この回の結論
RM1x は本来 DAW が要るような作業をひととおりこなせる。ただしその機能の深さは相応の学習コストとセットで、今の機材事情ならもっと取っつきやすい選択肢がいくらでもある。同時に Yamaha は音源部でケチった。90年代の妙なローファイ音は大好きだが、あのチープな後味はいつも飲み下せるわけではない。当面これが制作の中心になるとは思えないが、レトロダンスの怪作だらけの回をやる口実がまた一つ増えたのは良いことだ。
何を喋っているか
- 90年代末、コンピューターがスタジオを制圧しつつあり、音楽機材メーカーは手持ちのシーケンサー技術を売る新しい口実を探していた。Roland の MC グルーヴボックスが当てた後、Yamaha は「古い技術をダンス層向けに包み直す」パーティーに少し遅れて到着した。
- 今日の題材は 1999年の RM1x。Yamaha は実績ある QY700 シーケンサーをベースに、いくつか手を抜き、リミックス機能とダンス系サンプルの山を足して、グルーヴィーな見た目の箱に詰めた。何が起こりうるというのか。
- 第一印象は全部合格。フルメタル筐体、ルーニー・テューンズが道を踏み外したようなグルーヴボックス鍵盤、実機ノブ、そして MC-505 ユーザーに確実に嫉妬させたディスプレイ。
- 他社がスマートメディアに移行済みの時代に、バックアップ媒体は依然フロッピー。出荷時から西暦2000年のダンスフロア鉄板ネタが山ほど詰まっている。
- パターンはアレンジの各部を表すセクションに分割されている。機種名からして当然だが、既成フレーズをリミックスすることがワークフローの中核に据えられている。
- 音源は 32音ポリのサンプルベース AWM エンジン。レゾナンス付きローパスフィルター、やや分かりにくいエンベロープ、LFO、ポルタメント。
- ダンス志向は明白。定番のドラム、ベース、リード、癖のあるパッドと FX。品質にムラのあるブレッド&バター音色多数。XG のジェネラル MIDI セットはレトロゲームのサントラ用として昔から自分のお気に入りだ。
- 各シーケンサートラックは内部音源16パートのいずれか、または任意の外部 MIDI 機器にルーティングできる。ミュートメモリー付きミキサーが良い。3基の FX エンジンはリバーブとモジュレーション系をしっかり出す。
- マルチ FX の Variation はセンドにもインサートにも使える。マスターのベースブーストで低域を足したいと思ったことは一度もない。もっと融通の利くイコライザーは世の中にいくらでもある。
- Clock Shift パラメーターで内部分解能 480ppqn を使い切れる。パターンチェイン、ソングモード、MIDI ディレイもある。リアルタイム/ステップ録音は人によっては古臭く感じるし、苛立たしい制限も付いて回るが、リスト表示のトラッカー風エディットモードがある。
- Groove はメインのシーケンスとは独立してバリエーションを作れる。Play FX は既存のシーケンスデータに非破壊で効かせられる。MIDI インプリメンテーションもかなり充実。
- 他のグルーヴ機で慣れた機能が見当たらなくても、たいていは若干ひるむ Job メニューの中にいる。アンドゥ/リドゥ、クオンタイズ、ノート・フレーズ・イベントの深い編集、トラックのやりくりに必要なものは一式そろっている。ただし自分の作ったものを確実に保存する方法はまだ見つけられていない。
- シフト+何かのボタン/ノブという隠し次元のワークフロー最適化もある。ステレオ出力1系統だけなのは痛い。好き嫌いはさておき、今の中古相場は妥当。RM1x は高級な旧世代シーケンサー技術と、そこまで高級ではないダンス音色の組み合わせだ。次の90年代リバイバルに最適な道具か?
- イントロ曲でも既にこの箱が鳴っていたが、Bad Gear テーマ曲にはもっと立派な演奏もあるだろう。音に少し呼吸させてみる。まったりしたアルペジオ、洗いざらしのパッド、ざらついたドラムサンプルが欲しいなら、類似品にご用心。
- キックとベースはやや薄いが、90年代ダンスの領域にとどまる限りは問題ない。もう少し奥行きを足すため、アナログ専門家を数台連れてくる。
- 外部音源と組み合わせると、このグルーヴボックスのローファイぶりが一層はっきりする。Play FX 機能自体は素晴らしい。ただし限界まで追い込むと音質が落ちる印象があった。
- この音を解き放てるか試す。「カメラ付き携帯が存在しなかった時代のパーティーはこうだった」。プロムナイトのディスコ DJ くらいにはファンキー、ビッグビートというほどではないワークアウト。
- Verdict。RM1x は本来 DAW が必要な作業を数多くこなせる。だがその機能の深さは相当な学習コストを伴い、今の機材事情ならもっと取っつきやすい代替が存在する。
- 同時に Yamaha は音源モジュールでケチった。妙な90年代ローファイ音の大ファンではあるが、あのチープな後味は必ずしも飲み下しやすくない。当面これが制作の中心にはならないだろうが、レトロダンスの怪作だらけの回をやる口実がまた増えたのは良い。
- チャンネル登録・Patreon の案内とパトロン謝辞。ティア4の月例ボコーダー枠。「最近ボコーダーが少なかった」ので古典 Quasimidi Sirius を引っ張り出す。
- 鳴らしてみて「Sirius の回でボコーダーを使わなかった理由を思い出した」。ティア6では Boss の Metal Zone と数台のペダルで救済を試みる。最後に支援への謝辞。