靴下の詰め物

Bad Gear - Korg Nu:Tekt NTS-1 - The Stocking Filler

この回の結論

この小さな DIY 楽器を出したのは KORG の賢い一手。NTS-1 は使いやすく多彩で、土台の技術が食物連鎖の上位にいる楽器から来ているのがはっきり分かる。バックアップ機2台・パワーバンク3個・特注エンクロージャー・MIDI コントローラー・フルメタルのステレオ DI ボックス無しでライブに持ち出す気にはならないが、音では十分に戦えるし「もっと欲しい」と思わせる。Teenage Engineering の Pocket Operator ほどギミックに寄っておらず、永遠に持つ作りではないにせよデザインはタイムレス。もしかすると IKEA は、組む相手の会社を間違えたのかもしれない。

何を喋っているか

  1. 世界一嫌われたオーディオ機材の番組へようこそ。高級機材が並ぶ広々としたスタジオは昔から、成功した人間・金回りの良い人間、そしてとんでもなく借金を抱えた人間の特権だった。
  2. だがそういう聖域がどれだけ立派でも、もう良い音楽を作るのに必須ではなくなった。それは良いことだ。今日は KORG Nu:Tekt NTS-1。RadioShack の DIY シンセ工作の時代からずいぶん進歩したものだと分かる一台。この IKEA 方式のデジタル・オープンソース・キットは、使い捨てのクリスマス靴下の詰め物と、真っ当なハイテク音楽制作ツールの中間あたりをうろついている。Moog と Prophet で埋まったオタク洞窟ほどのインパクトは当然ない — 本当にそうか?
  3. 一見して NTS-1 はけっこうな数の項目にチェックが付く。ただしその項目を、出荷前に自分で折り曲げなければならない — DIY キットだから。とはいえ組み立ては大した難関ではなく、自分みたいな不器用な人間でも問題ない。組み終わるとミートボールが食べたくなる。
  4. 小型のモノシンセで、まず定番の波形をいくつか積んでいる。そして定番とは言い難い可変シェイプの波形も。サブオシレーターで太らせることもできるし、オシレーターモデルの作者が好き勝手に思いついた方法でぐちゃぐちゃに加工することもできる。
  5. フィルターはおなじみのローパス・ハイパス・バンドパス。基本的なフィルターエンベロープで変調できる。エンベロープと言えば、monologue や electribe 2 に載っている簡略化されたエンベロープ操作には自分もさんざん文句を言ってきたが —
  6. NTS-1 みたいに徹底的に削ぎ落とした楽器なら、あれで問題ないと感じる。KORG は第2レイヤーの操作系を実装していて、そこから前述のフィルターエンベロープに加えて LFO にもアクセスできる。LFO はアンプ・ピッチ・オシレーターシェイプにルーティング可能。PWM に最適だが、用途はそれだけに限らない。
  7. FX セクションは大のお気に入り。無難で使い勝手の良いモジュレーション系とディレイ、そして本気でグルメなリバーブが入っている。アルペジエーターはラッチでき、プリセットのスケールも選べる — ただしカスタムスケールは作れない。
  8. 多くのメーカーならここで「はい終わり」にするところだが、KORG はもっとオープンソース寄りの道を選んだ。大量のカスタムオシレーターと FX を本体に読み込める。prologue と minilogue xd と同じフォーマットだ。無料のものもあれば、とんでもなく高いものもある。エコシステム全体を追いかけたらこの回の尺には到底収まらない。試したのは Ruisu Maker のドラムマシン(まだベータ段階)と、
  9. Hypercubed Music の 808 シンセ。これがすごく楽しい。どれが絶対に外せない必須アドオンなのかは、コメント欄で活発な議論が繰り広げられるはず。MIDI 実装もかなり広範囲。ではこの魅力的なハイテクの塊が、なぜ Bad Gear に出てくるのか?
  10. 要するにこれは、小さなネジで緩く留めただけの基板2枚だから。ポット・ディスプレイ・ボタンはこれ以上ないほど簡素で、性質上どうしても頼りない。そしてミニ鍵盤が嫌いな人たちが、NTS-1 のメイン入力装置であるあの小さな半音階の絆創膏をどう思うかは容易に想像がつく。
  11. さらに MIDI を含めて全部の接続がミニジャック。USB 由来のノイズ問題の報告も多数出ている。電池ボックスは無し、パッチの保存もできない。何の保護もなしにバックパックに放り込むのは正直ためらう。とはいえ100ドルそこそこで何を期待するのか。NTS-1 は非常に安価で、機能満載かつ極限までミニマルな楽器だ。プロの音楽制作の中に居場所はあるのか?
  12. 実はこの小さな KORG のシンセの音は、今日のイントロ曲で既に聴いてもらっている。組み立てた後に片付ける時間なんて無かった、という音がしっかり入っている。まずは waves オシレーターとアルペジエーターを試したい。
  13. これはちゃんと本物のシンセの音がする。特に内蔵 FX を 11 まで振り切ったとき。UI はシンプルなのに応用が利き、ちょっとした嬉しい不意打ちも起きる。しかも今のは、
  14. 素の状態でこの機体が持っている機能のごく一部にすぎない。次は Hypercubed Music のコードオシレーターを、もっとチルなアレンジで聴いてみる。
  15. 当然これは本物のポリシンセの代わりにはならないが、十分すぎるほど良い音がする。ここでもシンセ本体が堅実な土台を作り、FX セクションがケーキの飾りを乗せる形。パッチが保存できないのはやはり惜しい。
  16. NTS-1 はジャムの主役としてもよく機能する。そろそろコンピューターに繋ぐ時間だ — このダウンテンポの、トランス・マトリックス・テック風デジタルワイヤーフレームの荒野で。
  17. Verdict。この小さな DIY 楽器をリリースしたのは KORG の賢い判断だった。NTS-1 は使いやすく多彩で、土台の技術が食物連鎖の上位にいる楽器から降りてきているのがはっきり分かる。
  18. もちろん、バックアップ機2台・パワーバンク3個・特注エンクロージャー・MIDI コントローラー・フルメタルのステレオ DI ボックス無しでライブに持っていく気にはならない。だが音では堂々と渡り合えるし、もっと触りたいと思わせる。たとえば Teenage Engineering の Pocket Operator ほどギミック寄りではない。永遠に保つ作りではないが、デザインはタイムレスだ。もしかすると、IKEA は組む相手の会社を間違えたのかもしれない。
  19. アウトロ。楽しんでもらえたなら高評価・登録・Patreon 支援を。あと次に取り上げてほしい機材をコメントで教えてくれ。