この回の結論
Jomox のドラム機、とりわけ MBase は大好きだ。機能面では象徴的な TR 群に並ぶ音を出せるうえ、もっと現代的で使い古されていないパーカッション音に振れる仕掛けをいくつも持っている。ただし究極の再現性と直感的なワークフローを求めているなら失望する。難解なエンジンが取っつきの悪い UI の奥に隠れていて、変なパラメータスケーリングとマッドサイエンティスト的な思想に慣れるには時間がかかる。Jomox の中の人である Jürgen Michaelis は間違いなく天才で、クラシックなドラムマシンへの深い造詣、低音とパンチへの愛、比類ない技術力、そしてクローンをもう一台量産するのではなく唯一無二の何かを作ろうとする折れない意志は、電子楽器の市場がまだ終わっていないことの生きた証明だ。
何を喋っているか
- いつもの口上。「世界で最も嫌われているオーディオ機材の番組へようこそ」。常連視聴者ならご存知の通り、自分は全ての機材を愛していて、この番組は他人の憎悪を映しているだけ。だから自分のお気に入りの機材ですら bad gear 処遇の容赦ない嘲笑からは逃げられない。今回は Jomox の MBase、編曲の背骨たるパーカッションの、そのまた下半身に全振りしたシンセ。
- MBase は自分の音の武器庫に欠かせない一台だが、寄せられる批判もだいたい正当だと認める。一見して減点項目を綺麗に埋めている。完全に工業デザイン抜きの工業デザイン。80年代 Roland のメニュー潜りがセンチメンタルな体験に思えてくる UI。キックにアコースティックな一音を足してくれるプレビューボタン。
- プリセットの幅は「これを一晩中鳴らしていたい」から「消化器官の調子がおかしい」まで。そして一話おきに自分が使っているあのパッチ。エンジンは完全アナログだがデジタル制御で、チューニング可能なサイン波っぽいトーンが基本。Jomox お家芸の harmonics パラメータで酔っ払った矩形波に変えられる。
- それを 909 のピッチエンベロープで曲げ、パルス状のクリックとノイズインパルスからなるアタック音と組み合わせる。両者は好きなだけミックス可能。初代 MBase のノイズは1種類だけだったが、11 では色を広い範囲で追い込めて、ほぼデジタルに聞こえるピコピコまで出せる。
- 世代差の話を続けると、最新機はアタックの挙動を gate で微調整でき、素のままだと大雑把なアンプエンベロープを compression パラメータでいじれる。ここまでは古典的な TR サウンドの現代版という話だが、MBase を決定的に別物にしているのは LFO。
- MIDI シンク、面白い波形の選択肢、補助エンベロープとして使えるワンショットモード。これが怪物じみた低域彫刻の宇宙への入口になる。ただし残念ながら FM 領域までは届かない。倍音は一つノブの EQ で抑えられる。
- ワークフローは玉石混交。MIDI 実装は模範的で、アナログトリガー入力はゲート信号でもオーディオのインパルスでも常用している。ただし古代遺跡のようなメニュー体系は完全に慣れが要る味。
- 新型に足された値飛びするホイールも常に役立つとは限らない。トラップ勢は 808 的ベースラインを弾ける chromatic モードを気に入るはず。初代で粗かった点 (多くのプリセットスロットでライドのサイクル数が制限されていた等) は現行機で潰されていて、ブティックでない FX ペダル程度の値段で今も買える。
- キックのためだけに専用アナログシンセを使うのはやり過ぎに見えるかもしれない。MBase は手間に見合うのか、それともこの変わった設計と奇妙な UI が致命傷か。今日のイントロ曲で既に 11 は鳴っている。高域を出すためにメインのシンセラインは後処理でピッチを上げる羽目になったが、うちの隣人はそろそろ新しいホウキが必要だ。
- 2世代を並べて、片方をキック、片方をベース音に割り当てる。最高に映える使い方ではないが、と前置きしてデモ。
- 実績あるキック音は控えめに言っても本物。ベースとしての機能も、ピッチが完璧なクロマチック追従を求めないなら十分いい。MBase をいじるのは必ずしも楽しくない、特にジャム中は。それでも構わずやる、今度はもっとミニマルな編成で。
- パラメータはどちらかというと決め打ちして放置するタイプ。だが低域は愛用の Airbase よりさらに深く、UI に慣れさえすれば精密に追い込める。
- MBase みたいな特殊専用機だけで一曲やるのは古典的な YouTube 縛り企画。できるか試したい。高域の情報なんてどうせ過大評価だし、スネアを使わなければスネアの音が悪くなることもない。悪意しかない極太マクロハウス。
- Verdict。Jomox のドラム機全般、特に MBase の大ファン。機能的には象徴的な TR 群と同等の音を出せるうえ、より現代的で手垢のついていないパーカッション音に持っていける捻りが多数ある。
- ただし究極の忠実再現と直感的なワークフローを探しているなら失望する。難解なエンジンが不愛想な UI の奥に隠れており、変なパラメータスケーリングとマッドサイエンティスト的アプローチに慣れるには時間がかかる。Jomox の中の人 Jürgen Michaelis は疑いなく天才。
- クローンをもう一台量産せずに唯一無二の何かを作ろうとする折れない意志は、電子楽器の市場がまだ終わっていないことの生きた証拠だ。締めはいつも通り、like・subscribe・Patreon・下のリンクを使ってチャンネルを支援してくれ、あんたの bad gear が何を買えと命じてこようとも。