Roland Cloud

Bad Gear - Roland Cloud

この回の結論

Roland がクラウドに執着するのは十分理解できる。ハード製品に使い回せる統一技術、スケールのしやすさ、そして何より甘い甘いリカーリング・レヴェニュー。ただしその方針の結果、全体のトーンはどこか似通ってしまい、自分が音的に気に入っているクラウド音源のほとんどはクラウド以前の技術に基づいたものだ。Roland から見ればそれらは技術的な負債にしか見えないはずで、近い将来プラットフォームから消され、ライセンス状況がどうであれ手元には何も残らない、という展開になっても驚かない。

何を喋っているか

  1. 世界で最も嫌われたオーディオ機材を扱う番組 Bad Gear へようこそ。「Roland がゴーストを追いかけないのは皆知ってのとおりだが、他の大企業と同じで、まったく別の何かを追いかけている」。
  2. 今日の題材は Roland Cloud。ソフト音源エコシステムのこのマトリックスは、既に賛否のあった Content Store を土台に2018年に投入され、現代インターネット特有の UX の悪夢を、真の Roland ファンですら「例のあの人」より度し難いと感じるレベルにまで昇華させた。おまえは何も所有しない。
  3. はっきりさせておくと、Roland はデジタル製品の「所有」も一応認めている。ただしあなたのコンピュータ上でちょっとしたガレージセールを開く権限を彼らに与えることが条件だ。中身はアナログの Behringer ベストセラー機のソフトクローンという倒錯。
  4. さらに Gaia 2、MC シリーズ一式、旗艦の Fantom、そして自分の半分壊れた System-1 といったハード向けの、実体のないサウンド拡張が並ぶ。機種によってモデリング版とサンプル版の両方が用意されている。サンプルパックも少し売っている。
  5. その中心にあるのが Zenology プラグイン。一見「デジタルの蟻のための microKORG」に見えるが、蓋を開けると往年の80年代 Roland 構造そのもの。4つのパーシャルがそれぞれシンセ1台分に相当する。
  6. 読み込めるのは実績十分の音作り素材 — ドライエイジングされた PCM 波形、モダンな VA ノイズ、そしてスーパーソウ。最後のやつは Gaia / SH-101 で使われているループ素材と怪しいほどそっくりだ。あとは飾り立てられたフィルターセクションをあてもなくクリックして回る。
  7. 各パーシャルには本物の Juno より LFO が1個多い。やや貧血気味の後味は大量のエフェクトで誤魔化す。Roland には Model Expansion なるものもあるが、要は専用のプリセットライブラリと UI を持たされた Zenology パッチにしか見えない。
  8. それでも ACB ベースと思われる Plug-Out 対応プラグインとは測定できる音の差がある。専用エフェクトプラグインの品揃えは少ないが質は上等で、Roland はついでにホーン数種と分厚いピアノも放り込んでいる。Zenbeats はタッチスクリーン最適化の基本的な DAW で、Mac に最初から入っていた GarageBand と同じ頻度でしか使わないやつ
  9. Galaxias は KORG Gadget と Apple MainStage の子供みたいな代物。DAW の内外で最大4つのクラウド住民を編成でき、分厚いレイヤーと自己完結した制作環境が作れる。
  10. 2年ほど前、我らが大好きなライフスタイルブランド兼プラグインメーカーが、オリジナルの Jupiter-8 一台分の値段で DW を買収した。だから伝説的なドラム音源がここにあるのも驚きではない。Roland のリトル・ショップ・オブ・ホラーズ (Cloud Manager) は使いやすいが、M1 Mac を重くし、しょっちゅう落ちる。特にコンテンツをダウンロードしようとした時に。
  11. プラグインの安定性と CPU 負荷はまあまあ。圧倒的な物量のソフトは、最新世代の Boutique とジジイ向け Native Instruments の中間くらいの、十分許容できる音質で提供される。ただしコンセプト全体はやや混乱している。会員プランは4段階、「払った分だけの中身」から、今使っている Ultimate ティアまで。
  12. Ultimate は在籍している間だけ全コンテンツにアクセスできる。3ヶ月で50ドル強かかった。例のライフタイムキーは、対応するアナログ実機より高くつくことすらある。全有料プランに1ヶ月の試用が付くので、システムに一発ぶち込みたいだけならやることは分かるだろう。
  13. Roland のアナログ遺産の面倒は競合が見てくれていて、当の本人の関心は肉体なきクラウドの恵みにある。このサブスク中心のモデルは、本当に客が求めているものなのか。今日のイントロ曲では Cloud の 707、303、SH-101、そして Zenology のスーパーソウパッチを既に鳴らしている。コンピュータのトラブルはほんの少しだけで済んだ。まずは ReBirth のハイブリッド・フランケンシュタインから。
  14. ジャム。想定より楽しかった。
  15. もっとも TR のサンプルを数発使えば同じことはできた。ZEN ベースと思われる 303 プラグインを、手持ちの TB-3 の ACB モデルと同じくらい良い音にするのには苦労した。その ZEN Core エンジンこそがここでの重労働の大半を担っており、その姿が現れるのが Zenology プラグイン。次はそれを全パート、ドラムまで含めて使ってみる。
  16. ZEN Core 一本でのジャム。
  17. Hydrasynth ではないな。音全体にどこか空洞めいた質感があり、万人の好みには絶対にならない。ただしワークフローはめちゃくちゃ速い。Roland のコーポレート・アイデンティティは今も一握りのヴィンテージ・シンセ名機と強く結びついているので、クラウド版の Juno と Jupiter が仕事をこなせるのか確かめる。地元の Roland チーズ工場謹製 System-8 リイマジンを、シンセウェイヴ制作の腕をどこかに置いてきた脳で鳴らすとこうなる。
  18. Verdict。Roland が最近クラウドに取り憑かれているのは十二分に理解できる。
  19. ハード製品に再利用できる統一技術、スケールのしやすさ、そして何より甘い甘いリカーリング・レヴェニュー。ただしその結果、全体の音はどこか均質になり、自分が音的に本当に気に入っているクラウド音源はほぼ全部クラウド以前の技術ベース。Roland にとってあれらは技術的負債にしか見えないはずで、近い将来プラットフォームから抹消され、ライセンスがどうあれ手元には何も残らなくなっても驚かない。
  20. あらゆる宗派と国籍のシンセ好きが「なぜ本物のアナログシンセを出さずにこんなことを」と自問してきた。仮説がある。鍵盤楽器は Roland の売上の3分の1未満で、それには電子ピアノやワークステーション、家庭用キーボードも含まれる。それらを除くと、実際のシンセは売上のおよそ10%程度しか残らないと推測する。
  21. つまりシンセは、Nestlé にとってのドッグフードより Roland にとって重要ではない。未来へようこそ。以下、パトロンへの謝辞と告知。