80年代の奇跡

Bad Gear - Roland JX-8P - An 80s Miracle

この回の結論

Roland JX-8P は、80 年代クラシックポリシンセというお題に対する行儀のいい回答。特にハードウェアプログラマがあれば扱いは楽で、見た目以上に多才になる隠し玉もいくつか持っている。80 年代を全盛期のまま連れ戻してくれる救世主かというと、まず違う。ストリングス、ブラス、その他あらゆる変な音は得意だが、面に押し出す音を出したい時に真っ先に選ぶ機種ではない。より文明的な時代のための、優雅な楽器とでも言っておこう。

何を喋っているか

  1. 「世界で最も嫌われているオーディオ機器の番組、Bad Gear へようこそ。メリークリスマス」。時は 80 年代半ば、Roland は問題を抱えていた。シンセ界は DX7 が支配していた。
  2. Yamaha の FM モンスターに対抗できる技術 (LA 音源と D-50) を Roland がかき集めるのに 1987 年までかかった。今日扱うのは 1985 年の JX-8P。従来型の減算合成で「可能な限り DX7 に似たキーボード」を作ろうとした Roland の試みだ。
  3. スタートレック TNG のブリッジ操作パネルみたいなデザインのこの戦艦級クラシックシンセは、シンセ愛好家に長らく無視され蔑まれてきた。旧世代の Roland アナログポリで最後まで妥当な値段で買えた 1 台でもある。ヴィンテージ市場は分単位で狂っていくし、Roland は Boutique 版の発売を発表したばかり。そろそろ取り上げる頃合いだ。「こいつ、もう本物の bad gear がネタ切れなんだな」というクリスマスツリーの下のコメントが目に浮かぶ。
  4. 一見して JX-8P は条件を全部満たしている。membrane スイッチ、80 年代らしい光る 1 行ディスプレイ、そして編集用のフェーダーが 1 本だけ。PG-800 プログラマか現代版の代替品を手に入れられない限りはこれで戦う。名前に「8」とあるがモノティンバーの DCO エンジンは 6 ボイスしかない。オシレータは 2 基。
  5. LFO が 1 基、レゾナンス付きフィルター、低域を整理するハイパス。エンベロープ 2 基はどちらかというとまったりした性格。反転もでき、VCA をオルガン型のエンベロープ形状にすればエンベロープ 2 を他用途に解放できる。
  6. 解放したエンベロープ 2 はピッチ変調などに回せる。オシレータのクロスモジュレーションで FM 風のトーン、さらにその先まで出せる。シンプルなコーラスは最高で、ポルタメントもある。
  7. アフタータッチと豊富なベロシティルーティングが JX-8P を非常に表現力のある楽器にしている。キーモードは見た目より奥が深く、poly には 2 種類のエンベロープ挙動があり、点滅する mono に設定すると 6 ボイス全部を重ねられる。
  8. ユニゾンも良い。特にマスターチューン欄に隠れている detune パラメータを使うと効く。Roland は当時の新しい FM 支配者たちに必死で対抗し、DX7 を思わせるプリセット (80 年代 TV 番組のオープニング的ピアノ、ベル) を積んだ。もちろんアナログお家芸の音も。
  9. 美味なストリングス、うねるリード、シンセブラス。そして今まで聴いた中で最高のサウンドトラック向けパッチ。内蔵ユーザースロットは 32 個で多くはないが、パッチをチェーンに並べられるのでライブ演奏で重宝する。
  10. リアパネルは真の 80 年代シンセにふさわしい面構え。ドイツのシンセ権威 amazona.de によれば 2000 年代半ばには 200 ドル程度で買えたが、今は 600 ユーロ/ポンドスタートが新常態。ちなみに純正プログラマを探すのは血圧に悪い。ジャムをまた提供してくれた友人 Wendy に感謝。
  11. Roland JX-8P はクラシックだが少し風変わりな 80 年代アナログの実力機。これを Bad Gear に載せるのは冒涜か? 今日のイントロ曲でもう JX-8P は鳴っていて、あれは自分史上一番のバージョンかもしれない。この限られた鍵盤演奏スキルでシンセに見合う演奏ができるだろうか。
  12. 演奏を経て一言。ヴィンテージ Roland の DNA は明らかに出ている。
  13. ただし、入手不可能物質でできた OG Jupiter のようなシンセにつきまとう「重さ」が足りない。パッチがミックスに労せず収まるスイートスポットを探すのにも時間がかかりそう。ユニゾンモードは文句なく素晴らしいが、エンベロープには批判もある。JX-8P からどれだけ生々しいベースを引き出せるか試す。
  14. ベース検証。
  15. もっと攻撃的なベーストーンは他でいくらでも聴いてきたが、そもそもそれ目当てでこのシンセを買うわけではない。JX-8P は礼儀正しすぎるくらいだ。本物の 80 年代アナログポリが Bad Gear に載ることは滅多にない。それとクリスマスを祝って、「ディスコボールでホールを飾れ」ヴェイパーウェイヴ・リックロール・シンスマス・キャロルをどうぞ。
  16. シンスマス・キャロル演奏。
  17. Verdict。JX-8P は 80 年代クラシックポリシンセというお題への行儀のいい回答。特にハードウェアプログラマがあれば扱いやすく、思った以上に多才になる隠し玉もある。80 年代を全盛期のまま呼び戻す救世主か? まず違う。ストリングス、ブラス、あらゆる変な音は得意だが、
  18. 面で押す音には真っ先には選ばない。「より文明的な時代のための、優雅な楽器」とでも言おうか。JX-8P の世間の評価の変遷は面白い。最先端 UI を積んだ時代遅れ技術として登場し、その後「誰も欲しがらない変な古キーボード」になり、次に「ひどい UI の流行の技術」になり、そして sleeper synth の代名詞になった。
  19. 「そして今は、Espen Kraft が『未来のクリスマスの幽霊』になって休暇中ずっと追い回してくるんじゃないかと怖い」。視聴の感謝と次回予告。like・subscribe・Patreon、見たい機材のコメント募集。
  20. 恒例の月イチ Patron ボコーダー・シャウトアウト。ティア 4 から開始。今回は Alesis Micron のボコーダーを試す。
  21. ティア 5 と 6。Dante 1981 は Dark Star ボコーダーを選択、良いチョイス。Micron をキャリア信号にしたらどう鳴るか本当に知りたかった。
  22. 改めてチャンネル支援への感謝。「また来年」。