この回の結論
OP-1 は事実上批判が効かない機材だ。デザイン上の判断も機能の欠落も技術的な弱点も、全部「制限こそ OP-1 最大の機能だ」というマントラで拭い去られてしまう。そこに一片の真実はあるし、OP-1 には非常に個性的なモダンな音があって、電子音楽に別角度から入っていける。ただ大胆なコンセプトも繊細さも大胆な美学も関係なく、自分は使っていてまったく楽しくなかった。ワークフローを味わい尽くすにはもっと長い時間が要るのは確かだが、余計な抽象化の層と、各パーツの噛み合わなさと、極端に貧しい接続性のせいで、Elektron か古い Electribe か、いっそ DAW みたいなもっと一本筋の通った設計が恋しくなった。OP-1 に判定を下すのは拒否する。見事に使いこなしている人は大勢いるが、これは自分が楽器に求めるものの正反対だ。Bad Gear なんて番組の司会をやっているツケがついに回ってきたらしい。
何を喋っているか
- 世界で最も嫌われた音響機材を扱う番組へようこそ。ゼロ年代はシンセ愛好家にとって厳しい時代だった。90年代末のグルーヴボックス革命と「アリ用 MS2000」(microKORG) 登場のあと、真の革新はほとんどなく、皆が DAW の可能性に耽っていた。
- 何かが足りないと皆が気づき始めるまで数年かかった。今日は Teenage Engineering OP-1 の話。イン・ザ・ボックスのワークフローにつきまとう「選択肢が多すぎて麻痺する」問題と、さんざん批判された即応性の欠如に、最初期に対抗軸を示した楽器だ。
- 2011年のシンセ/サンプラー/トラックレコーダー/ルーパー/FX/ラジオにしてスカンジナビアンデザインの金字塔。世界的 EDM ヒットの MV で Pharrell Williams を差し置いて主役を務め、サンフランシスコ近代美術館 (SFMOMA) のコレクションにも入った。ここまで来ると、こっちが居心地悪くなってくる。
- 一見しても三度見しても、OP-1 はプロですら使いこなす気がないほど多機能だ。「正直、Sketch は使ったことがない」。中身は Casio VL-1 のアルミ版みたいなもので、ディスプレイの大半をやたらデカいテープリールが占領している。クリック感の気持ちいいボタンはベロシティ非対応。エンドレスエンコーダーは LEGO 化できる、まあいい。
- ミニジャックの MIDI 端子は最悪、というわけで Teenage Engineering は MIDI 端子を一切付けないという方法でその問題を解決した。USB MIDI には対応。シンセエンジンは豊富で、FX 付き、サンプリングに特化したもの、FM、弦の PD 物理モデリング、8ビット合成、その他まっとうな/まっとうでない音作りが揃う。
- 8つのパッチをスピードダイヤルに登録でき、本体鍵盤・USB・内蔵シーケンサーで鳴らせる。ドラム専用エンジンは2つ。サンプルベースの方は最大12秒のオーディオファイルから単発を叩けて、素材のチョップに向く。
- 素材は内蔵マイク、ラジオ、レコード、なんなら YouTube からでも録れる。ドラムシンセの方はまだ完全には理解できていない。OP-1 はマルチティンバーではないので、アレンジを組む唯一の方法は仮想テープ4トラックに一本ずつ演奏を録っていくこと。
- アナログテープ挙動のシミュレートはありがたいが、なくてもいい癖も混ざっている。テープ長6分の制限とか、面倒な消去手順とか。完成曲は「アルバム」にマスタリングでき、USB バックアップにはトラック個別のデータも含まれる。テープ周りはよく作り込まれていて、「制限が創造性を生む」ワークフローは多くのユーザーに歓迎されている。
- とはいえ本物の Undo か、せめて仮想トラックがあれば人生はずっと楽だった。テープに書いた音はもうクオンタイズできない。安心してほしい、書く前にもクオンタイズはできない。一方でクリエイティブなシーケンサー群は揃っていて、アルペジエーター、SH-101 式を強化したようなシーケンス、
- 古典的なパターンエディター、そしてアイザック・ニュートンが誇りに思ったであろうシーケンサー (重力で球が跳ねる Tombola)。TE の連中がマルクスの商品フェティシズムを知らないはずがない。個人的に一番使えたのは Finger。
- これらのシーケンサーはテープのトランスポートに同期しないが、タイミングを合わせる裏技はいくつかある。Lift/Drop 機能は見た目以上に強力。FX セクションのやりすぎなデザインが使いやすさに貢献しているかは疑問だが、リバーブ、ディレイ、ディレイ、ディレイ、
- フィルター、変な音破壊装置と一通りある。トイザらス的な玩具箱の中で、LFO セクションはほぼモジュラー級の多彩さで光る。他にはミキサー、マスター EQ と FX、ライブ向けの機能、マスターバスのコンプ/サチュレーション的なやつ、メーター、バッテリー残量、スピーカー。PC 接続時にはノイズとスタックノートの問題があった。
- Shift ボタンを死ぬほど使うことになる。G フォース加速度センサーが自分に必要だったとは知らなかった。挙げ忘れた推し機能があればコメントで教えてくれ。OP-1 は発売当初から高価で、2018年に一度生産終了、中古相場は跳ね上がり、今はまた買えるようになったがコンパクトなフィールドミキサーよりちょっと高い。
- OP-1 は、IKEA のキッズコーナーにありそうな筐体に閉じ込められた、緩くつながっただけの良い音のツールの寄せ集めに見える。これは国際的な宝物なのか? 今日のイントロ曲でもう OP-1 の音は聴いている、あれは驚くほど汚い音も出せる。まずは「何をやってるか全然わかってない時期」のジャムから。
- ジャム。熟練ユーザーなら表面をなぞっただけだとわかるはずだが、シーケンスを同期させてドラムにダイナミクスを付けるところまでで結構な時間を食った。
- 物理 MIDI がないことは DAWless セットアップで使える機材を制限する。ただしマスターチャンネルの片方からクロック信号を出せる。というわけで Pocket Operator につないでみる。
- 演奏。リバーブは自分の好みには少しボクシーだが、生の音、特にストリングシンセはかなり気に入った。ただ多くの人が新鮮だと感じるあのワークフローに、自分はどうしても馴染めなかった。
- OP-1 を DAW につないだらもっとうまくやれるか試す。やる気を出させるジム用プレイリスト、プログレッシブハウス系 EDM のビッグルーム悪夢。
- Verdict。OP-1 は実質的に批判が効かない。デザイン上の判断も機能の欠落も技術的な弱点も、全部「制限こそ OP-1 最大の機能だ」というマントラで拭い去られる。そこに一片の真実はある。
- OP-1 には非常に個性的でモダンな音があり、電子音楽に別角度から入っていける。だが大胆なコンセプトも繊細さも美学も関係なく、使っていてまったく楽しくなかった。ワークフローを味わうにはもっと時間が要るのは確かだが、余計な抽象化の層、パーツ同士の噛み合わなさ、貧しい接続性のせいで、Elektron や古い Electribe、いっそ DAW のような一本筋の通った設計が恋しくなった。
- OP-1 に判定を下すのは拒否する。見事に使いこなす人は大勢いるが、これは自分が楽器に求めるものの正反対だ。Bad Gear なんて番組の司会をやっているツケがついに回ってきたらしい。視聴に感謝、また次回。高評価・登録・Patreon・コメントもよろしく。