メンフィス・ラップ製造機

Bad Gear - The Memphis Rap Machine

この回の結論

DR-660 は、過去と現在のジャンルの内側の仕組みを理解させてくれる重要な文化遺物であると同時に、いまだに安いのにはちゃんと理由がある時代遅れの小さなドラムマシンでもある。音とワークフローを掘るのは楽しいが、もっと良い音のサンプル集がハードにもソフトにも山ほどあるし、こいつが得意なことは全部パソコンか現代のドラムマシンの方が快適にできる。DR-660 のような楽器は「音楽史の流れを変えるのに高い機材は要らない」ことを思い出させてくれる。とはいえ自分も、808 のカウベルからは1〜2週間ほど離れたい。

何を喋っているか

  1. 世界一嫌われたオーディオ機材の番組 Bad Gear。番組に出す機材の文化的な重要性を過小評価することは滅多にないが、やらかした時はコメント欄が必ず教えてくれる
  2. 今日は1993年の Boss DR-660。数ヶ月前に兄弟機の DR-5 を扱ったが、この2台がある伝説的ジャンル (今日まで popular music に影響を残している) の主材料だったことに全く気づいていなかった、と赤面しながら白状する。ひと目見た限りでは TR-808 の威光にタダ乗りしているだけの箱に見える。
  3. ベロシティ対応のラバーボタン、小技はあるが古臭いドラムシーケンサー、そしてやや平坦な90年代初頭のドラム音色を見る前に、この機械が定義したジャンルの歴史を掘る。
  4. そのジャンルとは Memphis rap、別名ホラーコア。80年代末、西海岸からも東海岸からも遠い場所で生まれた。最初から 808 中心だったが、沿岸のヒップホップのような予算はない。だから DR-660 のような安いドラムマシンが Portastudio ベースの宅録スタジオにとってゲームチェンジャーになり、遅くてローファイでベースがブーミーなビートが量産された。
  5. メロディックなカウベル、プロト・トラップとファンクの要素。このドラムマシンが入った古典的ミックステープは、DJ Zirk の 2 Thick テープ、Shorty Pimp と MC Spade のソロテープなど。前述の DR-5 と違い、660 は純粋なドラムマシンで、音程もののサウンドは最小限、クロマチックモードは無い。
  6. メンフィスの英雄たちは、1つのサンプルを移調した複数バージョンをパッドに並べることでこれを回避した。あの悪名高いファンクなカウベルはここから来ている。808 のクラーベに Decay を11まで上げたやつでも同じ手が効く。サンプルの移調レンジは広く、エンベロープはシンプル。
  7. Nuance パラメーターでシンバルやスネアのバリエーションをシームレスに作れる。909 ハイハットが無いのは不安になるレベルだが、808 キットは伝説級。FX はコーラスとリバーブだけで、自慢できるようなものではない。
  8. シーケンサーはもたつくが意外に強力。実用的なクオンタイズ、マイクロタイミング、フラム、リアルタイム/ステップ録音は想定内として、最大80四分音符というパターン長は嬉しいし、すぐ呼び出せるロール機能は今日の「庭のスプリンクラーみたいなハイハット」の生誕地かもしれない
  9. 望んでいない場面でシーケンサーを止めることになる回数が多い。リアルタイムのミュートや TR 式の on-the-fly プログラミングは見つけられなかった。ただし個別アウトがあるおかげでライブでの回避策も効くし、スタジオでも便利。ソングモードあり、5ピン MIDI あり、電池駆動なし、造りは頑丈。テネシー州の外でも伝説的ミュージシャンに使われている。
  10. 中古市場では Korg Volca 1台ぶんの値段で買える。DR-660 のような安い楽器がジャンル丸ごとを変えてしまうことがある。永遠の名機なのか、それともサンプル数個で代替できるのか。イントロ曲では半壊したテープデッキのクランチを再現しようとして失敗したが、低くピッチを下げたカウベルはいつだって効く。まずは 808 キットのクリーン版にトーナルなサンプルを足したところから。
  11. 808 キットのクリーン版によるデモ演奏。
  12. 何世代ものカセットコピーで容赦なく潰され続けてきた歴史を思うと意外だが、コンプみたいな普通の処理はあまり受け付けない。今回のジャムは本家とは程遠いものの、808 キットの独特な音、定番のハイハットロール、メロディーを作るための回避策ははっきり出ている。他のジャンルでも通用するか試す。
  13. 他ジャンルへの流用デモ。
  14. 思ったより簡単だった。909 ハイハットが2つあれば最高だったが、シンセベースのサンプルは FX ペダルの愛情を注げば光る。ミックステープを大量に聴いた結果、12bit サンプラーとテープデッキを持ち出して Memphis rap のフィナーレをやる資格は自分には無いと感じたので、代わりに歯止めなしのカウベル大放出とダウンテンポ・インダストリアル・ドリフトファンクの不条理へ。
  15. Verdict。DR-660 は、過去と現在のジャンルの内部構造を理解させてくれる重要な文化遺物であると同時に、
  16. いまだに安いのには理由がある時代遅れの小さなドラムマシンでもある。音とワークフローを探るのは楽しいが、もっと良い音のサンプル集がハードにもソフトにもある。こいつが得意なことは全部パソコンか現代のドラムマシンでもっと快適にできる。DR-660 のような楽器は「音楽史を変えるのに高い機材は要らない」ことの証明だ。とはいえ自分も 808 カウベルから1〜2週間は離れたい。
  17. 締めの挨拶。高評価・登録・パトロン・コメントで見たい機材のリクエストを、そして概要欄のリンクでチャンネル支援を。「あなたの bad gear guru が何を命じようとも」。