ドラムマシンの謎

Bad Gear - Korg S3 - The Drum Machine Mystery

この回の結論

KORG S3は色んな意味で謎めいている。生い立ちからして、M1の成功のあとKORGで何かが盛大に狂っていたとしか思えない。よく出来たドラム音源のパワーハウスなら80年代末の音楽機材市場を揺さぶれたはずだが、S3は最低でも2年遅れて出てきた。もう一つの謎が魂を打ち砕くようなUIで、番組で扱った全機材の中で基本の基本を覚えるのに一番時間がかかった。それが惜しい、S3には素晴らしい機能が山ほどあるからだ。この挑戦を受けて立つなら、多彩でクリシェの少ないドラム/パーカッションの土台が手に入る。Rolandの定番音にうんざりしていて、なおかつ目隠しでDark Soulsをやるのが好きな人に最適。

何を喋っているか

  1. 世界一嫌われたオーディオ機材の番組へようこそ。ここ数週間このチャンネルはRolandとYamahaの間を行ったり来たりしていたので、そろそろ「バッドギア製造元の不浄なる三位一体」の三人目から一台持ってくる頃合いだと思った。
  2. KORG S3 Rhythm Workstation。1991年のこの謎めいたドラムマシンは、旗艦モデルKORG S1の廉価版だ。そんな画期的製品は聞いたことがない? 自分もない。なにせ一度も日の目を見なかったからだ。1988年のM1が大当たりしたあと、KORGは世界征服を狙ってS1などの関連製品群の発売を予告した。
  3. KORGが読み違えたのは、コンピューターベースのシーケンサーの急激な台頭と、1989年のRoland R8がバカ売れしたことだった。その製品群で実際に発売されたのはS3だけ。M1の高評価だった機能をドラムマシンの形で多数積んでいるが、KORGはパーティーに遅れて到着し、S3は商業的失敗に終わった。
  4. この強力で複雑なマシンの棺桶に打たれたもう一本の釘が、暗号のようなUIだ。難解なマニュアルや迷路みたいなメニュー構造には慣れているつもりだが、これは率直に言ってサディスティックだ。見た目はブレット・イーストン・エリスが80年代の小説に出しそうなドラムマシンで、ツルツルで光沢のある筐体は最初の3週間はさぞ高級に見えただろう。
  5. M1風のボタンとディスプレイ、滑らかに回るジョグダイヤル、ベロシティ対応の硬いプラスチックのパッド (打鍵音がうるさい)。すっきりした前面と対照的に背面はごちゃごちゃで、RAM/ROMカードのスロット (音楽機材でサブスク型ビジネスモデルが登場する前の追加収益手段)、オーディオ出力6、MIDI出力2、フットスイッチ端子2、SMPTE LTCのシンク端子。
  6. 「LTCなんてもう20年近く使ってない。知りたい人か最近使った人はコメントを」。操作はいつも楽しいとは限らない。エンジンの核はティンバーに割り当てられる波形で、ティンバーがモジュレーターのルーティングと8ポイントのエンベロープの情報を全部持つ。1パッドはティンバー2つで構成される。
  7. その理屈は「ドラムはヘッドとシェルの2要素で出来ている」から。両者を独立して弄れて、この機能は正直めちゃくちゃ気持ちいい (whips the llama's ass)。高い音のアタックにトーナルな余韻、ドンキーコングみたいなキック、ゴーゴーなボンゴ、全部入っている。もちろんサンプルをそのまま鳴らしてもいい。
  8. 80年代末の定番ドラムに加えて基本波形やMoog風のサンプルなど、あの時代らしい変な音も入っている。16パッドで1キット。MIDIか内蔵シーケンサーで叩ける。演奏はMIDI4トラックのパターンに録音でき、それをソングモードで並べるとさらに4トラック使える。
  9. この狂騒の合間に、複雑なベロシティカーブ、MIDIコンプレッサー/エキスパンダー、ディスコタム式のピッチモジュレーションを設定でき、音をクロマチックに弾き、ロールやフラム、シャッフルやクオンタイズ、リズム演奏のあらゆる要素を徹底的にエディットできる。電卓みたいなUIで。いや電卓の方がまだテンキーがあるだけマシだ。内蔵エフェクトは優秀だがフィルターがない。
  10. 「深いのは分かった。S3先生、お気に入りの機能を忘れていたら若きパダワンを許してください」。中古価格も昔ほど安くはない。S3は多くの人が欲しがるものを揃えているが、急峻な学習曲線に嫌気がさすのも無理はない。イントロ曲でもう鳴っていて、スネアは90年代のバンドが全員持っていたピッコロスネアを思い出させる。
  11. 「言うのも恥ずかしいが、この呪われたマシンから何か絞り出せる所まで行くのに丸2日かかった」。そしてしばらく出番のなかったNovation Xioも登場。ジャム演奏。
  12. 「全部が完璧だったわけじゃないが、ほぼJomoxみたいな素晴らしいキックには驚かされた」。ただしこの程度の練習でS3のメモリの約3分の2が埋まったので、日常的に使うならRAMカードは必須。
  13. 謎のハムとノイズにも悩まされた。ドラム以外の波形は面白いが、やはりフィルターが欲しくなる。ここでElectro-Harmonix大盛りのジャムでS3にソニックなスパイスを足していく。
  14. S3とハードウェアエフェクターの相性は良い。より使いやすいシーケンサーを外部に使うとワークフローが速くなるだけでなく、サンプルプレイヤーのエンジン本体に集中できる。
  15. ROM音色の大半は80年代末の平凡な素材だが、S3はもっと新鮮な音も出せる。「もう少しカラフルに鳴らせるか試したい」ということで、生波形バブルガムポップ×2007年IDMのグルーヴスケープへ。
  16. Verdict。KORG S3は色んな意味で謎だ。その生い立ちは、M1の成功のあとKORGで何かが盛大に、盛大に狂っていたとしか思えないものだった。
  17. よく出来たドラム音源のパワーハウスなら80年代末の市場を揺るがせたはずだが、S3は最低でも2年遅かった。もう一つの謎が魂を打ち砕くUIで、番組で扱った全機材の中で最も基本の基本を覚えるのに時間がかかった。それが惜しい。S3には素晴らしい機能が山ほどあり、当時の競合より設計思想が進んでいて、サンプルはパンチがある。
  18. 特にキックが良い。この挑戦を受けて立つなら、多彩でクリシェの少ないドラム/パーカッションの土台が手に入る。Rolandの定番にうんざりしていて、目隠しでDark Soulsをやるのが好きな人に最適。そのあとチャンネル登録・Patreonの案内。
  19. 恒例の月イチ・ボコーダーshout-out。tier 4から。今日の一台はKORG Kaossilator Proと、オーストリア製時代のヴィンテージAKG D190。
  20. 「全部入り」ティアではDJ Disk MachineのリクエストでRoland VT-3 Voice Transformerを使用、マイクは高級な (fancy schmancy) KSM105。パトロンへの感謝で締め。