この回の結論
AS-1 は妙な生き物だ。音は「大人になったシンセ」の音がするし、総合的なサウンドも UI も、オリジナルの Mopho のような似た機材より好きだ。ただし本来設計されたはずのライブでの実演奏性という点では期待に応えない。プリセットのパターンは確かに良く、怪しい MIDI クロックも「セットのもう1デッキ」として使う DJ にはさほど問題にならないだろうが、フロントパネルに何を出すかの疑わしい選択と、面倒なシーケンサーのワークフローは多くのシンセ弾きにとって致命傷になり得る。それでも数々の癖と制限にもかかわらず、AS-1 は芯のところで本物の楽器だ。慎ましい DJ 機材にすらシンセ史の偉大さを注ぎ込めるのは、Dave Smith のような伝説だけだと思う。
何を喋っているか
- 世界一嫌われたオーディオ機材の番組へようこそ。Dave Smith は議論の余地なきシンセの神の一人で、伝説的な電子楽器を数多く作っただけでなく、PB&J 以来もっとも壮大なコラボの数々もやってのけた。MIDI オールスターズの頭脳であり、KORG と組み、もちろん Roger Linn とも組んだ。
- 今日の題材は Toraiz AS-1。この2017年のアナログシンセは、巨匠自身と DJ 機材メーカー Pioneer との短い情事の産物だ。要するに「めちゃくちゃ人気のあるシンセからモノフォニックの声を1本抜き取り、シンセ好きがあれほど愛した UI 要素の大半を取り払って、Pioneer がその辺に転がしてた箱に突っ込んだ」代物。「こりゃご馳走だぞ」
- 一目見て…いや、違う、もっと寄って見ろ。ああ、AS-1 はチェック項目を全部埋めている。分かりにくいシーケンサー、ベロシティもアフタータッチも完全に欠いたリボン鍵盤、そしてそれが叩き起こすのはモノフォニックの Prophet-6 エンジン。オシレーター2基に、サブのトライアングルとノイズジェネレーター。
- オシレーター同士はシンク可能、ランダムにデチューンでき、パルス幅も変調できる。ローパスフィルターの基本コントロールは良い出来。
- 使えるハイパスフィルターもある。フロントパネルにあるのはあとエンベロープ2基と LFO 用のツマミが数個だけ。他のパラメーターは全部、オリンピックプール並みに広いのに浅いメニューで潜って設定する。DSI Mopho の愛好家なら嫌というほど知ってる感覚だ。
- ただしエンコーダーの出来はずっと良い。最初の嫌悪感さえ乗り越えれば、このメニューで基本的なモジュレーション、アフタータッチ、スライダーを、ささやかな数のパラメーターに割り当てられる。内蔵の FX エンジン2系統は気に入っている。ディストーション、
- リングモジュレーション、シンク可能なディレイ、モジュレーション系 FX。AS-1 は DJ とライブパフォーマーを想定した設計なので、内蔵の64ステップシーケンサーがワークフローの中核をなす。
- あまりに中核すぎて、例の怪物メニューを使ったシーケンス打ち込みに、健康を害するレベルの時間を捧げる羽目になる。モーションレコーディングもパラメーターロックも無い。ただしアルペジエーターは楽しい。リスタート機能は便利。MIDI マスタークロック次第で、AS-1 はタイミングを保つのに苦労する。
- 特にセット中のパターン切り替えで顕著。ERM Multiclock みたいな超高額の専門機を使えばだいたい大丈夫だったが、結果は常に満足いくものではなかった。DrumBrute Impact を古参の MOTU 経由で使うと期待外れ。ライブ向きさの度合いは、プログラム選択エンコーダーがカットオフのツマミの真横にある事実と同程度。ただしプリセットを作った人たちの仕事は素晴らしい。
- ビルドクオリティは上等。ミニマルすぎる UI は MIDI CC とソフトウェアエディターで回避できる。そしてこのシンセは、Prophet-6 デスクトップの6分の1より高い。
- Bad Gear の供給網をまた救ってくれた asifi に感謝。生の Prophet 系サウンドと DJ 機材の利便性の組み合わせは多くの人が待ち望んだものだが、AS-1 はそれを届けられるのか、それとも制約が多すぎるのか。イントロ曲でもう音は聴いている。「May the Dave be with you (デイヴと共にあらんことを)」。まずは定番の16ステップ・アシッド展開で何ができるか見る。
- アシッド系ジャム。
- 血筋はかなり明白だ。あのオシレーターの紛れもない音色、効きの良いフィルター、おまけに良質なエフェクト。ただし長いパターンの打ち込みは全然楽しくないし、例のタイミング問題はかなりの興ざめ。テンションを一段落として、AS-1 が柔らかい音も出せるか試す。
- 柔らかめのパートの演奏。結果は玉石混交。
- 攻撃的でない音色は楽しめたが、妙で一貫性のないチューニングの狂いに何度もぶつかった。音によってはポリの兄弟機で鳴らした方が似合う。リボン鍵盤の演奏感は良くないが、タッチスライダーは驚くほどよく効く。次はシンセエンジンの Prophet らしさに集中し、DAW に繋いで「モノシンセ + 重ね録り = ポリフォニー」で壮大な原初ベースミュージックの再構築を。
- 多重録音デモ。そして Verdict へ。AS-1 は妙な生き物だ。音は「大人になったシンセ」の音がする。
- 総合的な音も UI も、オリジナルの Mopho のような似た機材より自分は好きだ。だが本来設計目的だったはずの、ライブでの実演奏性という点では落第。プリセットのパターンは良いし、怪しい MIDI クロックも「セットのもう1デッキ」として扱う DJ には大して問題にならない。ただしフロントパネルに出すパラメーターの疑わしい選択と、面倒なシーケンサーのワークフローは、多くのシンセ弾きにとって決定打になり得る。
- それでも数々の癖と制限にもかかわらず、AS-1 は芯のところで本物の楽器だ。慎ましい DJ 機材にすらシンセ史の偉大さを注げるのは、Dave Smith のような伝説だけ。視聴に感謝、また次回。いいね・登録・patron 参加と、次に見たい機材のコメントもよろしく。
- 月例ボコーダー謝辞のコーナー。「言うのが恥ずかしいが、ついにボコーダーが尽きた」。しかし人類が知る限りもっとも恐ろしい場所、自分の Web ブラウザの中に1つ見つけた。これは真の bad gear なので、Zoom の FX ペダルで少し味付けしてみる。ここから tier 4 の名前読み上げ。
- 続いて tier 6 の名前読み上げ。
- チャンネル支援への感謝。「また来月、できれば本物のボコーダーと共に」