Move (ゴミ箱行き???)

Bad Gear - Move (to Trash???)

この回の結論

音楽テクノロジー界のジョルジオ・モロダーたるこの私でも、ここまで嘲笑と侮蔑を浴びた製品リリースは滅多に見たことがない。ライフスタイル製品まるだしのマーケティング、時代遅れの携帯電話用 CPU、パッとしない機能表を見れば当然の反応だ。だが完全に飽和しきったグルーヴボックス市場で、ちょっとしたジャムをここまでシームレスにアレンジへ持っていける楽器には、まだ出会ったことがない。ワークフローはまだ荒削りだし、このミニマリズムは万人向けではないが、コンセプトは賢い。今後の成否は Ableton のファームウェア更新方針次第だ。

何を喋っているか

  1. 「世界一嫌われてるオーディオ機材の番組」へようこそ。Ableton については自分は Live バージョン2からのユーザーなので、Ableton は何をやっても間違えない。製品が素晴らしいからではなく、揚げすぎミーム化した自分の脳が Excel みたいなグリッドに手で MIDI ノートを描く作業に慣れきってしまったからだ、と自虐。ついでにマスターをクリップさせ、ガタガタの Max for Live パッチで CPU ピークを召喚するのもお約束。
  2. 今回は Move。これまでの Ableton ハードウェアは食指が動かなかったが、この 2022年のリークが受肉したような新製品 ——「iOS アプリと真っ二つに切った Push 3 の不義の子」「ママ、Circuit 買って → うちに Circuit あるでしょ」「FL 使いのマキアート野郎のアクセサリー」—— は即買いだった。
  3. 第一印象。OP 系の箱に喧嘩を売るような、ほぼラベルの無い UI。Minecraft より Shift 機能が多い。極小だが精細なディスプレイ、マクドナルドより速い Wi-Fi、そしてオーディオ伝統主義者にとっては煽り以外の何物でもないリアパネル。バッテリー駆動で、TR スタイルのステップシーケンサー用ボタン付き。
  4. MPC 2台分のベロシティ対応ラバーパッド、アフタータッチ付き。それで鳴らせるのは合計4トラック
  5. ドラムやメロディ用のサンプルに加えて、Ableton のバーチャルアナログ Drift と Wavetable の音が出せる。FM も物理モデリングも無いので、音楽制作の邪魔をされる心配は一切ない
  6. 各パッチには Redux・リバーブ・サチュレーションといったエフェクトを2レイヤーまで足せる。ただし予想どおり、音源のコントロールはプリセット選択と少数のパラメーターいじりのみ。ノブは見た目こそエレガントだが、触るとプラスチック感。
  7. 編集したプリセットは保存可能。4トラックは32個あるセットのひとつの中で管理され、各セットには Ableton Live 名物のクリップが最大8個入る。パターン最大長は16小節。
  8. クリップの録音・編集まわりは粗いが配置は良い。ドラム用の 16 pitches モードもある。undo ボタンまで付いている ——別に自分には必要なかったが。ノンクオンタイズ録音は「ほぼ」可能。トラップのハイハット連打専用ツールは見つからなかったが、マイクロタイミングは触りやすく、ステップグリッドは64分音符まで刻める。
  9. パラメーターオートメーションはリアルタイムとステップ単位の両方で十分に用意されている。録音ボタンを押し忘れても、本体の短期記憶からノートもオートメーションも後から回収できる。一方で骨と皮だけの MIDI 実装には弁解の余地なし。接続は USB ポート1つのみ。
  10. 外部機材を鳴らしたければ貴重な内蔵音源を1つ差し出さねばならず、しかも MIDI イン/アウトのどちらかを選ばされる。情けない。逆にサンプリングは最大の強みで、1サンプルあたり4分の録音時間、そこそこ鳴る内蔵マイク、リサンプリング対応。サンプルメモリは多くないし、スライスもワープも方法が見つからなかった。ただし早期ユーザーが lazy chop 的な回避策を編み出している。
  11. カードリーダーが無いのは不満だが、Move Manager で Wi-Fi 越しにサンプルを流し込める。ファイルシステムへのフルアクセス、クラウド経由で Note や Live へセットを移動、Ableton Link での同期、USB 接続時はオーディオインターフェース兼コントローラーにもなる。この手の機能には普段めちゃくちゃ懐疑的なのに、想像よりずっとまともに動いた
  12. Live コミュニティにとっては本当の USP になり得る。当然ながらフル装備の Live セットは開けないし、Live 側で Move 用プリセットを作る仕組みはまだ揺籃期。EU では Ableton が中間業者を排除したので、直販で注文するしかなかった。価格は中古の Digitakt Mk1 と同じくらい。
  13. リーク頼みの不格好なハイプトレイン式リリースは、批判の嵐で迎えられた。Ableton エコシステムとの統合はゲームチェンジャーなのか、それともまたしてもヒップスター向けグルーヴボックスなのか。今日のイントロ曲でもう音は聴いている ——「Live で Move のプリセットをいくつか開いて終わり、なんて自分は絶対にやらない。……やったかも?」。まずは素直に四つ打ちから。
  14. デモ演奏。
  15. 「うわ、いちばん切り替えたくないタイミングでモード切り替えだらけだ」——特にジャム中は最悪。初期ファームの UI のガタつきとシンセのいじれなさを差し引いても、慎ましい音源のラインナップは音的にちゃんと戦えるし、方向性も好み。ただし前述どおり MIDI 実装はひどい。トラックを1つ生け贄に捧げ、外部シンセを足して、Move のサチュレーション段を思い切り酷使する。
  16. ここでは問題なし。ただし大きめのセットアップを組む方法は見つからず、Polyend や Elektron、あるいは Teenage Engineering の同種の機材には及ばない。パッドはすごく良い。Move のセットの Live への取り込みは完璧に動く。
  17. 手早く組んだ10分のセッションを、悪魔的なレトロゲーム・エレクトロロックのサウンドトラックにまで磨き上げられるか試す。
  18. Verdict。音楽テクノロジー界のジョルジオ・モロダーたる私でさえ、ここまで嘲笑と侮蔑を浴びた製品リリースは滅多に見たことがない
  19. ライフスタイル製品まるだしのマーケティング、時代遅れの携帯電話用 CPU、地味な機能表を見れば当然の反応。だが完全に飽和したグルーヴボックス市場で、ちょっとしたジャムをここまでシームレスにアレンジへ持っていける楽器には出会ったことがない。ワークフローはまだ荒削り、ミニマリズムも万人向けではないが、コンセプトは賢い。
  20. 今後の成否は Ableton のファームウェア更新方針次第。ただし1つだけ理解不能なことがある ——「Octatrack を説明できる唯一の男が自社の給与名簿に載っているのに、なぜオシャレな連中が卓球してる動画を出したんだ?」
  21. エンディング。高評価・登録・Patreon の呼びかけ。「今日見落としたサウンドデザイン機能が Move にまだあるかもしれない」と保険をかけつつ、tier 4 のパトロン読み上げへ。
  22. パトロン名の読み上げが続く。名前ネタで笑いが漏れる。
  23. 引き続きパトロン読み上げ。
  24. tier 6 のパトロン読み上げ。改めて支援に感謝、また来月。