伝説の D-50

Bad Gear - The Legendary D-50

この回の結論

D-50 は豊かなレガシーを持つ、いい音のヴィンテージシンセで、プリセットの音作りは史上屈指の出来。それが祝福であり呪いでもある。デジタルシンセの例に漏れず音色エディットは快適とは言い難く、この楽器は音楽史のごく短い一時期と、多くの人が「絶望的に古い」と感じる音響美学に強く結びついてしまっている。汎用性あるエンジンの上品な光沢を思えば惜しい話だ。Roland がこの「そこまで時代を超えていない名機」の本質を新しい楽器に閉じ込めてくれたらいいのに——というか 1987 年以降に出したまともなデジタルシンセ全部でとっくにやっている。

何を喋っているか

  1. 世界一嫌われてるオーディオ機材の番組へようこそ。この番組にはたまに冒涜が必要だ — 音楽史の金字塔に軽くビンタを食らわせる、「こいつ完全に釣ってるな」という瞬間。真の Bad Gear ファンが年に一度は欲しがるやつ。
  2. 今日は伝説の D-50。この LA シンセこそ Roland が Yamaha DX7 に叩き返した答えで、80年代後半の音の美学を決定づけただけでなく、今も現役だ——Enya のカバーバンド、高級 GM 音源ライブラリの制作、そしてレーガン時代の昼ドラ PTSD の呼び起こしに。最後のやつ、たぶん的を射てると思う。
  3. 一見 ROM プラー(サンプル再生機)のチェック項目を全部満たしてるように見えるが、違う。linear arithmetic = LA 方式で、エンジンは2つの「パーシャル」が基本。パーシャルは短くてザラついた内蔵サンプルの再生にも使えるが、
  4. 「バーチャルアナログ」という言葉が生まれるずっと前から、古式ゆかしい VA 的な合成もできた。狙いはサンプルを主に立ち上がりのアタックに使うこと——第一印象をしくじるチャンスは二度と来ないからだ——そして音の胴体はシンセ側で作る。減算合成部では鋸波と矩形波を選べて、
  5. PWM もかかる。レゾナンス付きフィルターとアンプ部には、どちらも「やや威圧的な」多段エンベロープが付く。サンプルにはフィルターをかけられないが、LFO が3基、ピッチエンベロープ、そしてパーシャルごとのリングモジュレーションがある。
  6. このレトロフューチャーな音作りパワーハウスを2つ組み合わせてスプリットにしたり、その他ささやかなマルチティンバーの喜びに耽ったりできる。総ポリフォニーは16音。EQ、コーラス、マスターリバーブ、ディレイと Chase 機能で味付けも自由。
  7. デカい Roland のフラッグシップ鍵盤である以上、UI が楽しくないのは驚きに値しない。ディスプレイは同時代機や後継機より大きいが、音色作りには薄暗く照らされたメニュー地獄の地下世界に降りていく必要がある。ただしジョイスティックでパーシャルのブレンドなど素早い調整はできる。
  8. この救いを別にすれば、PG-1000 のような専用コントローラーを見つけない限りリアルタイムの音いじりには向かない。でもまあ元々プレイヤーの楽器だ。鍵盤アフタータッチはまとも——この個体はもう正常に動かないが——他に音楽で食っていく邪魔をするものは何もない。
  9. 1987年の稼ぎ頭たち、Fantasia、Pizzagogo、Soundtrack は今も健在。D-50 は頑丈で、中古市場でもそこそこ手頃。
  10. その精神は D-05 Boutique や Roland Cloud といった後年の製品に受け継がれている。メモリーカードはそこそこ高い。純正マニュアルは全然ダメなので『D-50 Creative Book』を手に入れろ。コレクションからまた名機を貸してくれた azif に感謝。数え切れない名曲の「あんまり秘密じゃない隠し味」だった D-50 は、今も新しいものを持ち込めるのか、それとも永遠に80年代後半の音のままか。
  11. 実はイントロ曲でもう鳴っていた。他にも「sail away したい」衝動に駆られた人はいる? 80年代後半のラジオに入らなかった音をこの鍵盤から搾り出せるか試したい。
  12. 嬉しい誤算だった。文字通り80年代なベル&ホイッスル的音色を脇に置けば、lo-fi な波形はクリシェじゃない音の良い土台になるし、音がミックスにきれいに収まる。D-50 はサンプルベースの特徴的なパッチで有名だが、次は純粋な VA サウンドを主役にして、ついでにプリセットもいくつか。
  13. デモ演奏。
  14. ヴィンテージのアナログポリの代わりにはならないが、フィルターの柔らかさは好ましい。オリジナルのプリセットは当時さんざん使い倒されたとはいえ、皮肉抜きに美しい。ただ D-50 を使った名曲の年表は、だいたい 1991年でぷつりと終わる。もっと今風のアレンジで通用するか試す。
  15. EDM キッズには黙っておこう——親のトップ40バンドのキーボードが、本気のスペース・シネマスコープ・テクノを出せることは。
  16. Verdict。D-50 は豊かなレガシーと史上屈指のプリセット音作りを持つ、いい音のヴィンテージシンセ。それは祝福であると同時に呪いでもある。デジタルシンセの例に漏れず音色作りの手順は快適とは言い難く、この楽器は音楽史のごく短い一時期に強く結びついている。
  17. そしてその音響美学を多くの人は「絶望的に古い」と感じる。汎用性あるエンジンの上品な光沢を思えば惜しい。Roland がこの「そこまで時代を超えていない名機」の本質——独特の構造と個性的な音の building block——を新しい楽器に入れてくれたら最高なのに。いや、1987年以降に出したまともなデジタルシンセ全部でとっくにやってる。
  18. アウトロ。あなたの中の Bad Gear グル様が何を買えと命じてこようが、高評価・登録・Patreon・概要欄リンクでチャンネル支援よろしく。