Akai S2000

Bad Gear - Akai S2000

この回の結論

疑いようもなく Akai はサンプリングの王で、S2000 はその偉大さを思い出させる一台。手が届く価格でプロ級の機能と拡張性、スタジオ水準の音質を備えるというコンセプトは、当時は見事に機能した。だが澄んだデジタルオーディオがいくらでも手に入る今、S2000 が音的に持ち込めるものはほとんどない。おまけにワークフローは「後天的に身につける味」とでも呼ぶべきもので、拡張カードとインターフェース周りの小細工なしではあまり面白くもない。

何を喋っているか

  1. 世界一嫌われたオーディオ機材の番組へようこそ。少し前まで電子音楽制作の世界は巨大なキーボードと19インチのラック音源・サンプラーに支配されていた。今もフラッグシップ機は残っているが、クラシックなスタジオラック向けに設計された現行の音源は減る一方だ。
  2. 今日の題材は Akai S2000。1995年のステレオサンプラーで S3000 の弟分。MKS-80 や Oberheim Matrix-1000 のような「セクシーな19インチ」ではない。低予算のサンプリング・ワークホースとして設計され、今の DAW が得意なことを一通りこなす。
  3. 「これは史上いちばん退屈な Bad Gear 回になるのか?」と自問しつつ外観チェック。一見して条件は揃っている——お約束の歯垢色の塗装、今も昔も Roland 機を思わせるディスプレイ、二重同心のデータセレクトホイールが付いた極めてミニマルなフロントパネル。
  4. この個体は純正の3.5インチFDDを USB フロッピーエミュレータに換装済み。2K は OS 用の ROM を持たず、ブートディスクなしでは起動すらしない。「こういう改造はヴィンテージの神への裏切りだ」と思う人でも、この場合ばかりは確実に助かる。さらに RAM は 2MB から 32MB に増設済み。動作は 44.1kHz/16bit。
  5. 「S950 の伝説的な12ビットのザラつきを期待していたなら、残念でした」。ユーザー設定のトリガーしきい値で録音を始める仕組みは完璧に動く。最大サンプルレートの半分で録れば消費メモリも節約できる。当然ながら編集もループポイント設定も全部手作業で、値の多くはサンプル単位表示。ループのクロスフェードはアンドゥ不可。
  6. フェード、ノーマライズ、リバース、S3000 系のタイムストレッチ。サンプルを使える状態にするまでのメニューダイブ量に衝撃を受けた人向けに補足すると、モノティンバーのプログラム作成が主眼の Single Edit モードだけで60画面超のメニューを順に踏破できる。Multi Edit モードは16パートぶんにさらに10画面ほど追加される。
  7. グループボタンでショートカットは可能。とはいえクラシックな Akai サンプラーの一角だけあってプログラムは深く、シンセ的な機能が豊富。レゾナント付きフィルター、意外に使えるテンプレート付きのエンベロープ2基 (うち1つはマルチステージ)、LFO 2基。
  8. 1キーグループあたり最大4ゾーン、キーグループのクロスフェード、ベロシティスイッチ、32ボイスのポリフォニー管理、ミキサーも装備。そして S2000 での作業時間のおよそ60%は、何かに名前を付けることに費やされる。3.5インチフロッピーは当時の基準で見てもオーディオ保存に向いた媒体ではなかった。
  9. そこで Akai は SCSI インターフェースを追加。旧式の CD-ROM ドライブやハードディスクにデータを保存でき、SCSI-USB アダプタでも動くはず、とのこと。サーキットベンダーにも 2K はかなり人気。オリジナルの MESA ソフトを現代のパソコンで動かした人もいるが、現行のソフトエディタ事情は少々ややこしい。
  10. 拡張オプションは、不揮発フラッシュRAMカード用スロット2基、超レアなマルチモードフィルターカード、そしてマルチアウト+FXカード。後者は MPC2000 と互換なので需要が高い。筐体は堅牢で、「その造りの険しさはメニュー構造の険しさに匹敵する」。余談: 出品者は MPD16 コントローラーをおまけで付けてくれた——あれも Bad Gear だ。
  11. S2000 はタマ数が多く、強気の値付けをしている Reverb の出品者は一握り。S2000 はプロ用サンプリングの世界を広い層に開いた機材だが、2000年以降のハードとソフトに完全に追い越されたのか? 実はイントロで既に 20kHz サンプルレート録音の音を聴かせていて、サンプラーによるアーティファクトは驚くほど控えめ。ここから生波形でシンセエンジンを検証する。
  12. 生波形とフィルターのデモ。「S2000 のフィルターは悪くない。良くもないが」。
  13. ワークフローを確立するまでに時間がかかり、それでも 2K の操作は最後まで面倒だった。ドラムサンプルの大半をロファイ設定で録ったにもかかわらず、この機械はさほどキャラクターを足してこない。そこで倍速で録音して機械内でピッチを下げる、昔ながらのサンプリング的なえぐみが出せるか実験する。
  14. 倍速録音→ピッチダウンのデモ。「この手はいつやっても飽きない」。
  15. この手法で定番のブレイクにはたしかにザラついた存在感が出た。「ただ、その手間に見合ったかは微妙」。コンプとチューブサチュレーションを足すと途端に生きてくる。S2000 は白いキャンバスのようなものだと言い、手持ちの Akai ディスクイメージからランダムにサンプルを寄せ集める。
  16. 「不格好なループポイントと壊れたファイル変換を祝して」お届けするフロッピーディスク・サンプルライブラリ・ハウス。そのままヴァーディクトへ。
  17. 疑いなく Akai はサンプリングの王で、S2000 はその偉大さの証。手頃な価格でプロ級の機能・拡張性・スタジオ水準の音質、というコンセプトは当時は完全に機能した。だが澄んだデジタル音声が当たり前の今、音的に持ち込むものは少ない。ワークフローは「後天的に身につく味」で、拡張カードと接続まわりの小技なしでは面白みも薄い。
  18. 「今日ひとつ学んだ。19インチのラック機材が昔ほど人気がないのは、たぶん SNS で映えさせるのが難しいからだ。」視聴の礼を述べ、いいね・登録・Patreon・「次に見たい機材」のコメントを呼びかける。
  19. パトロン向けおまけ。今回の主役 S2000 はボーカルをぐちゃぐちゃにする能力で知られているので、恒例の「ボコーダーの定義を引き伸ばす」コーナーとして、タイムストレッチとシンセエンジンに一発かます。
  20. Roland Space Echo でヴィンテージなきらめきを足して締め。「支援に感謝、また来月」。